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取ってはいけない予約 rw+4,540-0120

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京都の三条にある飲み屋で聞いた話だ。

語ってくれたのは、三十代半ばの男だった。勤め先の同期会で幹事を任され、店の手配から連絡まで一手に引き受けたという。話し方は落ち着いていて、怪談を面白がって盛るような調子ではなかった。むしろ、あまり思い出したくない出来事を、必要最低限だけ切り取って差し出しているように見えた。

その夜のために彼が選んだ店は、小さなイタリアンだった。若い頃、母と二人で行ったことがあるという。三条の大通りから少し入った雑居ビルの九階。派手さはないが、味だけは確かで、予約が取れないほどではないにせよ、落ち着いた雰囲気が気に入っていたらしい。

幹事を任された彼は、迷うことなくその店に電話をかけた。

受話器の向こうに出たのは、若い男の声だった。声自体は普通だったが、妙に間が空く。こちらが名乗り、用件を伝えても、すぐに返事が返ってこない。通話の途中で、何度もノイズが走った。そのたびに音が途切れ、彼は「もしもし」と言い直すことになった。

雑音の質が妙だったという。ザーッという一様なノイズではなく、何かを擦るような音や、息が触れるような音が混じる。その中に、一瞬だけ高い女の声が割り込んだ。言葉にはならない。ただ、声だとわかる輪郭だけがはっきりしていた。

彼は最初、店の奥で誰かが話しているのだと思った。忙しい時間帯なら珍しくない。だが、その声は受話器のすぐ向こう、男の声よりも近い位置で鳴った気がしたという。耳元で囁かれたような距離感だった。

予約の確認が終わるまで、十分近くかかった。店名、人数、日時を何度も言い直し、そのたびに男の声は一拍遅れて返ってきた。最後に「お待ちしています」と言われ、通話は切れた。

胸の奥に引っかかるものはあったが、幹事としてはそれ以上考えないようにした。

当日、彼は同期たちと連れ立って現地に向かった。雑居ビルの前に立ち、ふと一階の案内看板を見上げた。そこに、店の名前がなかった。イタリアンどころか、九階の表示自体が曖昧で、いくつかのテナント名が消された跡だけが残っていた。

一瞬、ビルを間違えたかと思った。しかし、住所も外観も間違いない。仲間に気取られないよう、スマートフォンで店の情報を確認し、エレベーターに乗り込んだ。

九階の表示板には、確かにその店の名前があった。古いが、剥がされた形跡はない。ほっとして扉が開いた。

何もなかった。

暗い、というより、光が入ることを想定していない空間だった。照明は落ちているのではなく、最初から設置されていないように見えた。壁際に何かがあった痕跡はあるが、テーブルや椅子と断定できる形は残っていない。床の感触だけがやけに生々しく、靴底を通して冷たさが伝わってきた。

誰も言葉を発さなかった。間違いだと断言できる材料がなく、正しいと主張する根拠もない。全員が、ここに長居してはいけないという判断だけを共有していた。

彼らは足早に一階へ戻った。

その場で改めて調べると、検索結果には簡素な一文だけが表示された。閉店、移転の確認が取れないため情報更新を停止。最終更新日は半年前だった。念のため電話をかけ直したが、呼び出し音すら鳴らなかった。

結局、その夜は別の店で飲み直した。幹事としての役目は果たしたが、彼だけは終始、どこか上の空だったという。失敗した責任感ではない。耳の奥に残った声が、時間が経つほど輪郭を増していったからだ。

若い男の声の背後にあった、あの女の声。雑音に紛れていたはずなのに、思い返すほどに明瞭になる。言葉ではないが、確かに応答していた。会話に割り込むでもなく、遮るでもなく、ただ隣で聞いているような声だった。

後日、彼は母に店のことを話した。潰れていたらしい、と。母は少し考え込んだあと、そんな店あったかしら、と言った。彼の記憶の中では、確かに二人で行った場所だったはずなのに。

その日の夜、彼は通話履歴からあの番号を消した。

なぜ消したのかと聞かれ、彼は苦笑いした。

また鳴ったら、誰が出るのか考えるのが嫌でね。

それ以来、彼は三条のそのビルには近づいていない。だが、番号そのものが消えたわけではない。今もどこかに残っている可能性はある。

夜更けにあの番号を回したとき、応答するのは店の人間なのか、それとも通話の向こう側にいた誰かなのか。その区別がつかないまま、会話だけが続くのだとしたら。

予約の取れない店はいくらでもある。だが、取ってはいけない店は、そう多くない。

[出典:862 :本当にあった怖い名無し:2016/04/20(水) 23:31:53.94 ID:gllPnNPa0.net]

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