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二本目の指 rw+6,160-0805

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心の整理がついてきたから、こうして文字にしている。

俺には二人の大切な友達がいた。

原田と大場。

小学校からの付き合いで、社会人になってからも、三人でよく酒を飲んでいた。

去年のちょうど今頃も、いつもの居酒屋に集まっていた。

二杯目のビールが半分ほど減った頃、原田がグラスを置いた。

「お前ら、呪いって信じるか」

俺と大場は顔を見合わせた。

原田は国立大の理系を出て、機械メーカーに勤めていた。心霊番組を見ても、錯覚だの演出だのと言って笑う男だった。

オカルト好きの大場でさえ、すぐには答えなかった。

原田は構わず続けた。

「小学校の頃、俺んちの近くの共選所で遊んでたろ。石に座ってた爺さん、覚えてるか」

覚えていた。

いつも同じ石に腰掛け、俺たちが遊んでいるのを眺めていた老人だ。

声をかけてくるわけでもない。ただ、俺たち三人を順番に見て、時々笑っていた。

「この前、死んだんだ」

原田はテーブルの上を見たまま言った。

「呪いでな」

俺は笑いかけたが、原田の顔を見てやめた。

冗談を言っている顔ではなかった。

「今年の大雪で、共選所の裏にあった社が潰れただろ。あの下に井戸があった。井戸の中に、昔から封じられてたものがある」

大場の表情が変わった。

「その井戸って、女と子供が落とされたってやつか」

原田が顔を上げた。

「知ってるのか」

「話だけはな」

大場は声を落とした。

百年ほど前、その辺りに小さな集落があった。

夫を毒殺したと噂された女が、村人から忌み嫌われ、三人の子供とともに井戸へ落とされた。

一年後に井戸を開けると、女と子供一人の遺体が見つかった。

残りの二人は見つからなかった。

井戸の壁には血と爪痕が残り、女の首には、子供の骨を黒い布で包んだものが掛けられていたという。

それを見た坊主は、井戸に仏像を置いて封じるよう村人に告げた。

その後、村では病人と死人が相次いだ。

人々は逃げ、集落は消えた。

「ただの昔話だろ」

俺が言うと、大場は首を振った。

「話は変わってるだろうけど、元になった事件はあったと思う」

原田は黙って聞いていた。

やがて、上着のポケットに手を入れた。

「爺さんが死んだのは、これを持ってたからだ」

一瞬だけ、黒い布の端が見えた。

巾着のような小さな袋だった。

紐が長く、首から掛けられるようになっていた。

「それ、どこで手に入れた」

大場が聞いた。

「爺さんが座ってた石の下」

原田は袋をポケットに戻した。

「人を呪い殺せる力があったら、お前らなら何に使う」

俺も大場も答えなかった。

原田は少し笑った。

その夜は、それで解散した。

家に着いてしばらくすると、大場から電話があった。

「原田、変だろ」

「ああ」

「たぶん、あいつが持ってたの、本物だぞ」

「本物って何だよ」

「呪具だよ。あの黒い袋」

俺は黙った。

大場は電話の向こうで、しばらく呼吸を整えていた。

「原田を一人にしないほうがいい。あいつ、もう使ったかもしれない」

「誰に」

大場は答えなかった。

翌日、大場は事故で死んだ。

通勤途中、車で電柱に衝突した。

見通しのいい直線道路だった。ブレーキを踏んだ跡はなかった。

葬儀で原田に会った。

焼香を終えた俺の隣に立ち、原田は小さな声で言った。

「あいつ、俺を悪く思ったから死んだんだ」

「何を言ってる」

原田はニヤニヤしていた。

ポケットから黒い袋を出した。

長い紐が、指の間から垂れていた。

「お前、大場の事故に関わってないよな」

俺が聞くと、原田は声を立てずに笑った。

「呪いなんてあるわけないだろ」

袋をポケットに戻し、俺の耳元に顔を寄せた。

「でも、俺に悪意を持ったら、そうなるかもな」

それから原田は会社を休むようになった。

電話をかけても出ない。

メッセージを送っても既読にならなかった。

一週間ほど経った深夜、原田から電話があった。

「あれが来る」

何度も同じ言葉を繰り返していた。

「あれが来る。あれが来る。あれが来る」

俺は車を飛ばして原田の部屋へ向かった。

玄関の鍵は開いていた。

部屋の壁一面に札が貼られていた。

札の上には赤い文字が何重にも書かれ、窓や鏡は黒い布で覆われていた。

原田は部屋の隅に座り、首を両手で押さえていた。

「使っちゃいけなかった」

俺を見るなり叫んだ。

「袋はどこだ」

原田は答えなかった。

「捨てたのか」

「戻ってくるんだよ」

「どこにある」

原田は俺を睨んだ。

「お前も俺を呪う気だろ」

突然、つかみかかってきた。

俺は必死になだめたが、原田は聞かなかった。

「大場と同じだ。お前も俺を疑ってる」

それ以上、部屋にはいられなかった。

警察か病院に連絡するべきだったと思う。

だが俺は逃げた。

翌日から、原田とは連絡が取れなくなった。

数日後、原田が自宅で死んでいるのが見つかった。

死因は心臓発作だった。

葬儀は家族だけで行われ、俺は呼ばれなかった。

黒い袋が見つかったのかどうかも聞けなかった。

俺は短い間に、二人の友達を失った。

呪いなんて信じたくない。

大場の事故は偶然で、原田は精神的に追い詰められていた。ただそれだけの話だと、自分に言い聞かせている。

だが原田が死んでから、彼の家の近くで葬式が三件続いた。

小さな地区だ。

そんなことは、これまで一度もなかった。

最近、もっと気になることがある。

夜中になると、俺の家の前に誰かが座っている。

街灯の届かない場所なので、顔は見えない。

ただ、腰を丸めた老人のような影が、道路脇の石に腰掛けている。

最初に見た夜、俺はカーテンの隙間からしばらく眺めていた。

老人は動かなかった。

俺を見ているのかどうかも分からなかった。

翌朝、石の上に黒い紐が落ちていた。

触らずに通り過ぎた。

夕方に戻ると、紐は消えていた。

それから老人は、毎晩現れる。

今夜もいる。

さっき確かめたとき、老人は石に座り、こちらを向いていた。

膝の上に、黒い袋を置いていた。

窓を閉めようとした瞬間、老人が指を一本立てた。

少し間を置いて、二本目を立てた。

俺は一人暮らしだ。

なのに今、背後の廊下から、誰かが歩いてくる音がする。

[出典:46 :モンキチ:2015/07/07(火) 16:25:39.60 ID:5K9EcLcC0.net]

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