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煙の向こうにいた人 rw+5,068

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義弟の実家の古いアルバムから、三歳の妹が写った写真が出てきた。

見つけたのは妹自身だった。結婚して間もないころ、すでに亡くなっていた義弟の両親の遺品を整理していて、その写真に気づいたという。幼い義弟の隣に、自分によく似た少女が立っている。顔だけではない。髪型も、背格好も、当時の自分そのものに見えたらしい。

妹から電話を受けた母は、最初は他人の空似だろうと笑った。だが、送られてきた画像を見て言葉を失った。少女が着ていたワンピースを、母は覚えていたからだ。裁縫が趣味だった母が、三歳の妹のために縫った一点物だった。

俺もその画像を見た。

二十年前、公園でいなくなった日の妹だった。

俺の実家は沖縄の海辺の町にある。近くには大きな水族館があり、その周囲一帯が広い公園として整備されている。観光客には有名な場所だが、地元の子供にとっても遠足や家族連れで馴染みの深い場所だった。

その日、俺は母と三歳の妹の三人で公園に来ていた。父は仕事だった。途中で母がトイレに行き、俺は妹を見ているように言われた。妹は芝生を走ったり石段を登ったりして、じっとしていなかった。俺は少し離れたところから、その背中を追っていた。

そして、見失った。

物陰に入ったわけではない。誰かが前を横切ったわけでもない。走っていた妹の姿が、俺の視界の中から突然なくなった。ほんの一瞬前まで、そこにいた。その場には妹が隠れられるようなものもなく、俺はしばらく何が起きたのか理解できなかった。

母が戻ってきて事情を話すと、近くにいた大人たちまで「さっきまであそこにいた」と騒ぎ始めた。周辺を探したが見つからず、やがて警備員も加わった。それでも妹はいなかった。公園は広いが、三歳の子供が短時間で遠くへ行けるような場所ではない。

警察を呼ぶ話が出始めたころ、園内放送が流れた。

迷子の知らせだった。

案内所へ駆け込むと、妹は何事もなかったようにジュースを飲んでいた。そばには見知らぬ親子がいて、小学校高学年くらいの男の子が妹の相手をしていた。関西から観光に来た家族で、公園の端にある草むらから妹が突然出てきたため、迷子だと思って連れてきてくれたのだという。

その場所を聞いて、母たちは困惑した。

妹が消えた場所とは、公園のほとんど反対側だった。大人が歩いても三十分以上はかかる。短い時間に三歳の子供が一人で移動できる距離ではなく、もちろん園内バスに乗った形跡もなかった。

それでも妹が無事だったことの方が大きかった。どこを通ったのか、誰かに連れていかれたのか、当時の俺たちはそれ以上考えようとしなかった。

一つだけ覚えていることがある。

妹は、助けてくれた家族の男の子から離れようとしなかった。

初対面のはずなのに、昔から知っている相手にするようにまとわりつき、母が呼んでも戻ってこない。男の子の方は困った顔をしながら妹をあやしていた。最後は母が抱き上げるようにして引き離し、何度も礼を言ってその家族と別れた。

それから二十年近く経ち、妹は沖縄を出て関西で働くようになった。そこで現在の夫と知り合い、結婚した。二人が最初に言葉を交わしたのは居酒屋だったという。店内で小さなボヤが起き、避難する途中でたまたま一緒になったのがきっかけだった。

その義弟の実家から、あの写真が出てきた。

幼い義弟の隣に、三歳の妹がいる。

母が縫ったワンピースを着ている。

つまり写真が撮られたのは、妹が公園から消え、反対側の草むらから現れたあの日だったことになる。助けてくれた観光客の家族が、妹と自分たちの息子を一緒に撮ったのだろう。それなら写真が義弟の実家に残っていたこと自体には、説明がつく。

説明がつかないのは、その直前だけだ。

妹は今も、あの日のことを覚えていない。

俺も、妹が消えてから見つかるまでの数分間に何があったのか知らない。ただ、写真を見るたびに思い出す。芝生を走っていた三歳の妹を目で追っていたこと。そして一度も目を逸らした覚えがないのに、その小さな背中だけが、途中からどこにもなかったことを。

[出典:406 :本当にあった怖い名無し:2013/09/25(水) 01:58:48.14 ID:kEsYxQnG0]

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