俺が子供だった頃、近所に良磨という幼なじみがいた。
学年も同じで、毎朝一緒に学校へ通っていた。
良磨は妙に未来のことを知っていて、俺たちが夢中になっていた漫画やアニメの来週の展開を、まるで予言者のように教えてくれた。気になって「どこからそんな情報を仕入れてるんだ?」と尋ねたら、良磨はこう答えた。「夢で見た」。おそらく予知夢のようなものだったのだろうが、当時の俺はその意味を深く考えるほど賢くなく、ただ「いいなー、俺も夢で見たいなー」と羨むばかりだった。
ところが、俺たちが小学五年生になった頃、良磨は突然この世を去った。トラックに轢かれて即死だったと聞かされた。葬式は身内だけで執り行われ、俺は遺体に別れを告げることすらできなかった。しばらくは良磨の死を実感できずにいたが、彼の妹の佐緒理が寂しそうにしている姿を見て、少しずつ現実を受け入れていった。
それから時は流れ、最近の話。
先月のゴールデンウィーク、俺は久しぶりに田舎へ帰省した。良磨の家の前を通りかかると、彼のおばさんに出くわした。「士朗君、すっかり大人になったね」と言われ、懐かしさを覚えながら軽く立ち話をした。線香をあげさせてもらおうと、良磨の家に上がることになった。仏壇に手を合わせた後、おばさんと世間話をしていると、廊下から小さな足音が近づいてきた。
「士朗にいちゃん!」
声の主は佐緒理だった。良磨が亡くなった当時、俺は佐緒理が一人で寂しそうにしているのを見かねて、毎朝学校に行く途中、彼女と話をするようにしていた。そのうち自然と彼女は俺を「お兄ちゃん」と呼ぶようになり、いつの間にかそんな関係が続いていた。
佐緒理とはそのまま雑談が始まった。大学生活や恋愛の話など他愛もない話題が続いたが、ふと良磨の話になったとき、俺は思い切って聞いてみた。「ひき逃げ犯って捕まったのか?」。すると、佐緒理は言葉を濁し、「大丈夫」とだけ答えた。どうやら踏み込んではいけない領域に触れてしまったらしい。それ以上は聞けず、話題を変えた。
その日の夜。
良磨の死因がどうしても気になり、家に帰って母に尋ねた。「良磨って、トラックに轢かれて死んだんだよね?」と。母の返答は予想外のものだった。
「ああ、そう聞いてたっけ。でも、確か変死って話じゃなかった?」
「変死?」
「詳しくは知らないけど、子供たちにショックを与えないために、そう説明したんじゃないかな」
俺の中で謎が膨らんだ。その夜、良磨のことをもっと知りたくて、昔の卒業アルバムや文集を引っ張り出して読み返した。良磨の文章は普通だったが、クラスメイトが書いた良磨のエピソードには、「良磨君は未来を知っている」とか「火事のことを夢で見た」といった内容が書かれていた。それを読んで、俺は昔の出来事を思い出した。
予知夢と火事の話。
ある日、良磨が腕に包帯を巻いて登校してきた。俺が「どうしたんだ?」と尋ねると、彼は「昨晩火事があって火傷した」と答えた。どこで火事があったのか聞くと、学校へ行く途中にある家だと言う。俺たちはその家に駆けつけたが、家は火事どころか無傷だった。俺は「嘘じゃねえか」と笑ったが、良磨は真剣な顔で「嘘じゃない」と言った。
数日後、その家は本当に全焼した。幸いにも怪我人は出なかったが、俺はその出来事で良磨の予知夢を信じるようになった。
その頃、世間ではノストラダムスの大予言が話題になっていて、俺は良磨に「1999年7月に地球がどうなるか見てきてくれ」と頼んだ。数日後、彼は「何も起きなかった」と言い、俺はがっかりしたが、「すごいゲーム機を見た」という話に興奮した。
良磨の予知夢はいつしか俺たちの自己満足のネタになっていた。彼が教えてくれた未来のゲーム機は、今でいうWiiやニンテンドーDSのようなものだったし、最後には「テレビから恐竜や飛行機が飛び出してくる」といった3D技術の話までしていた。彼が見ていた未来は、今の俺たちが生きる時代よりもさらに先だったのかもしれない。
そして、良磨の死の真相。
文集を手に、色々と思い出しているうちに死因が気になり、翌日佐緒理を誘って食事をした。帰りの車中で、俺は切り出した。「良磨のことなんだけど、本当にトラックに轢かれたのか?」
佐緒理は躊躇しながら語り始めた。「お兄ちゃん、トラックじゃないの。朝、叫び声が聞こえて部屋に行ったら……焼けて死んでたの」
「焼けて?」俺は言葉を失った。
佐緒理は震える手で、ほんの一瞬の出来事だったと語った。人体発火現象の可能性を尋ねると、「炭のようになっていた」と答えた。俺の頭の中は疑問だらけだったが、それ以上は何も聞けなかった。
良磨が最後に何を見たのか。それは今でも分からない。けれど、あの予知夢と彼の死は何か関係があるのではないか――そんな思いが頭を離れない。
[出典:935:投稿日:2010/05/19(水)22:41:39ID:GIe+3Plj0]