オレがガキの頃、近所に良磨と言う幼なじみがいた。
935:投稿日:2010/05/19(水)22:41:39ID:GIe+3Plj0
学年も同じで、毎朝一緒に学校に行った。
良磨は何故か未来のことをよく知ってて、その頃夢中だったマンガとか、アニメとかについて、来週どうなるかを教えてくれた。
なんで知ってるのか気になって、一体どこから聞いてきたんだと聞いたら「夢で見た」と言っていた。
おそらく予知夢みたいなものだったんだろうけど、その頃のオレはアホだったので、「いいなー、オレも夢で見たいなー」としか思ってなかった。
でお互いに五年生になったとき、良磨は死んだ。
トラックにひき逃げされて即死だったらしい。
良磨の葬式は身内だけで行われ、遺体を前に最後の挨拶も出来なかった。
オレはしばらく良磨が居なくなったことを自覚できなかったけど、良磨の妹が寂しそうにしているのを見て、少しずつ良磨の死を認識していった。
で、最近の話。
先月のGWの時、田舎に帰省した。
良磨の家の前を歩いてたら、良磨のおばさんに会った。
「おひさしぶりです」
「あら、士朗君、すっかり大人になったねー」
なんて軽く立ち話をして、良磨に線香でもと良磨宅にお邪魔した。
良磨に線香を上げてからまたおばさんと世間話。
ふとぱたぱたと歩く音が聞こえてきた。
「士朗にいちゃん!」
良磨の妹、佐緒理だった。
良磨が亡くなってから、オレは佐緒理が寂しそうにしているのが見ていられなくなって、毎朝佐緒理と色んな話をしながら学校に行った。
そのうち自然とオレのことをお兄ちゃんと呼ぶようになってた。
そのまま佐緒理と二人で世間話。
「彼氏は出来たか?」とか、「大学はどうだ?」とか、まぁ色々と。
そのうち良磨の話題になって、ふと聞いてみた。
「ひき逃げ犯は捕まった?」
「あ、うん、大丈夫……」
何か触れちゃいけないことに触れてしまったらしい。
それ以上は聞かなかった。
家に帰って夕食の時、おふくろに聞いてみた。
「良磨ってトラックにひき逃げされたんだよね?」
「あぁ、良磨君? そう言ってたんだっけ……」
「そう言ってたってどういう意味?」
「確か……、詳しく知らないけど変死とかなんとか」
「変死? 脳卒中とか?」
「知らないけど、子供達にショックを与えないためとか、通勤途中の車に気をつけるように、トラックに轢かれたって話になったんじゃなかったかな」
「んじゃひき逃げじゃないのか」
「うん、そうだけど、詳しいことは知らないねぇ」
……謎が深まってしまった。
その夜良磨のことが気になって、卒業アルバムとか文集とかを引っ張り出して、片っ端から読んでみた。
良磨の文章は至って普通だったが、「同じクラスの人を書いてみよう」ってやつで、良磨のことを書いてる文章があった。
「良磨君は未来を知っててすごい、火事とかも知っててすごい」
みたいなアホな文章だったが、それで思い出した。
オレは良磨との通学途中、毎朝のように未来の話を聞いた。
オレの動機は至って自己満で、好きな漫画やアニメの来週の話が、知りたくて知りたくてどーしようもなくて、アホみたいに毎日教えて君してたんだが、たまに全く関係ない話をすることがあった。
ある朝良磨が家から出てくると、腕に包帯をしていた。
例によってオレはアホな語り口で話しかけた。
「どうしたそれ?」
「昨日の夜火事があって、やけどした」
「え、火事? どこ? 痛くない?」
「ガッコー行く道の途中に茶色い犬いるじゃん? あそこんち」
「マジで? 見に行くぞ!!」
「おう!!」
と気勢を上げて、二人でその家に駆けてったんだけど、家は火事にはなっていなかった。
茶色い雑種の中型犬が、いつもと変わらずオレ達に向かって吠えるだけだった。
「何だよー、嘘かよー」
「いや、嘘じゃないもん、ホントに見たし」
……その何日か後、その家は全焼した。
ちなみにその火事で人とか死んでなかったと思う、怪我がなくて何よりみたいな話を聞いたし。
あとから新しい家が建って、あの犬も戻ってきてたと思う。
その件でオレと良磨は「良磨が夢で未来を見てる」っていう結論に達した。
その頃、1999年7月にノストラダムスの大王が……みたいな世界の終わりがやってくるぞー的な話がはやってて、オレは良磨に「1999年7月に地球がどうなってくるか見てきて」と言った。
何日かして良磨はオレに言った。
「何にもなってなかった」
「何だよ、つまんねー」
「でもすごいゲーム機とか見たぞ」
「え、マジ? 教えてよ!!」
ってことで、やはり予知夢を自己満にしか使えなかったアホなオレ達だった。
良磨はその後、どんどん未来のことを、と言うか、未来のゲーム機について教えてくれるようになった。
今で言うWiiとか任天堂DSみたいな話も聞いた。
最後の方は、「でかいテレビで恐竜とか飛行機がテレビから飛び出してきた」みたいなこと言ってたから、3Dのゲームなのかな。
今よりもっと未来を見てたのかもしれん。
それから程なくして良磨は亡くなった。
文集を持ったまま色々思い出してるうちに、やはり死因がどうしても気になって、佐緒理に電話した。
「明日ヒマか?」
「昼間なら大丈夫だけど」
「んじゃ兄貴だからメシでもおごってやろう」
と言って半ば強引に佐緒理と約束を取り付けた。
翌日、佐緒理と郊外のアウトレットに行き、メシを食って、午後3時前にはそこを出た。
帰りの車の中で、佐緒理と良磨の思い出話をする。
どう切り出すか迷ったが、佐緒理が良磨の予知夢の話をしたので、ここぞと思い、こう切り出した。
「予知夢が見られるなら、トラックの件も先に気づければよかったんだけどな……」
「うん……、あのね」
「うん?」
「これ本当は言っちゃいけないって言うか、言うなって言われてるし、あまり話したくないんだけど」
「うん」
「お兄ちゃん(良磨のことね)、トラックじゃないの」
「……どういうこと?」
少し間をおいて、佐緒理は話し始めた。
「あの日のことだけど……」
「お兄ちゃんと私は一緒の部屋に寝てたんだけど、朝起きたらお兄ちゃんはまだ寝てて、私は一人で居間に行ったの」
「ちょっとしたら突然子供部屋から、お兄ちゃんの叫び声が聞こえて、ぎゃーー!って」
「お母さんが慌てて子供部屋に行ったら、お母さんも悲鳴あげちゃって」
「びっくりして私も部屋に行ったんだけど……そしたらお兄ちゃんが……」
オレは黙って佐緒理の次の言葉を待っていた。
「……焼けて、死んでた……」
「焼けて?」
「黒こげって言うか、真っ黒って言うか……」
佐緒理の手が震えてた。
オレも少し震えてた。
「私が子供部屋を出て、ほんのちょっとの間に、そうなって……」
オレは正直言葉を無くしてしまって、ただ頷くことしか出来なかった。
「ごめんなさい、変な話しで……」
「いや、いいよ、オレも良磨の最後のこと、知りたかったから」
オレはその時頭の中でぐるぐる色々と考えてて、もしかして人体発火現象ってやつか? と思い、更に一つだけ聞いた。
「ごめん、一つだけ聞きたい、人体発火現象って知ってるか?」
「うん、前に調べたことあるけど、あれじゃない」
「まるで炭のようになったって後から聞いた」
ほんのちょっとの間で炭に……?? そんなことあるのだろうか。
どういうことだろう……
オレと佐緒理は、そのまま言葉を交わすこともなく車を走らせ、「またね」の挨拶で別れた。
で、悶々として今に至る。
ここからはオレの予想でしかないんだけど、良磨は「予知夢で見た火事」で「やけど」を負っていたから、もしかしたら「予知夢」ですごい火力に遭遇したとか……
でも、人体が瞬間的に炭になるようなことってあるんだろうか……
オレにはわからんけども。
良磨は最後に何を見たのか……
(了)