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短編 r+ 怪談 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

一緒に食べる rw+10,303-0215

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あの話を聞いたのは、駅前のファミレスだった。

サークルの小旅行の日、渋滞で足止めを食らい、僕とYだけが取り残された。新人のYとはそれまでほとんど話したことがなかったが、三十分もすれば妙に気が合った。笑い方が軽く、間の取り方がうまい。どこか飄々としていて、場の空気を読むのがうまい男だった。

仲間から「あと一時間は無理」と連絡が入り、僕らは食事を頼んだ。

Yはメニューを見て、ほとんど迷わず注文した。パスタ、ハンバーグ、唐揚げ、ドリア、サラダ、デザートまで。店員が何度も確認するほどの量だった。

「一人だよな?」

思わず聞くと、Yは笑った。

「平気だよ。最近、腹が減って仕方ないんだ」

料理が並ぶと、彼は本当に一人で食べ始めた。速い。噛んでいるのかどうかもわからない。皿が次々と空になる。痩せ型の体に、その量がどこへ入るのか想像がつかなかった。

ふと、彼が笑ったとき、歯茎のあたりに黒いものが絡んでいるのが見えた。虫歯かと思ったが、違う。細い線のようだった。

「よく太らないな」

そう言うと、Yはフォークを止めた。

「昔は小食だったんだよ。食パン二枚で満腹だった」

「じゃあ今は?」

「きっかけがあった」

彼は水を飲み、少し黙った。

以前付き合っていた彼女の話だった。最初は普通だったが、次第に執着が強くなった。一日に何十通もの連絡。返信が遅れると泣き喚き、怒鳴り、謝罪を要求する。家にいれば、トイレの前で待たれていたという。

二ヶ月ほどで気持ちは冷めた。別れを切り出すと彼女は拒んだが、やがて態度を変えた。束縛は減り、料理が豪華になった。毎日のように手料理を持ってきた。Yはそれを断らなかった。

「味、変だったことはなかったのか」

僕がそう聞くと、Yは首を傾げた。

「たまに、鉄みたいな匂いがした。でも肉のせいだと思ってた」

彼女のほうから別れを告げたのは、その二ヶ月後だった。あまりにあっさりしていて、逆に気味が悪かったという。

一週間後、彼女は死んだ。

遺書にYの名前があり、日記が渡された。そこには毎日の記録が綴られていた。Yへの愛情と憎しみが入り混じった文章。だが、ある日を境に書き方が変わっていた。

「今日は少しだけ入れた」「今日も混ぜた」「もうすぐ全部」

何を、とは書いていなかった。ただ「一緒になれる」「離れない」と繰り返していた。

「入れたって、何を?」

僕が聞くと、Yは肩をすくめた。

「わからない。書いてないんだ。俺も考えないようにしてる」

そのとき、彼は皿のソースを指で拭い、舐めた。皿は空だった。

「でもさ」

Yは笑った。

「別れてからなんだ。腹が減って仕方なくなったのは。どれだけ食べても足りない。食べても食べても、何かが足りない」

彼の歯茎の黒い線が、さっきよりはっきり見えた。細く、湿っていて、動いた気がした。

「気のせいだよな」

僕は視線を逸らした。

やがて仲間たちが到着し、僕らは車に乗り込んだ。Yは後部座席でポテトチップスを開け、無言で食べ続けていた。袋はすぐに空になり、また開ける。助手席に座った僕は、匂いにむせた。油と塩の匂いに混じって、どこか甘いような、生臭いような匂いがあった。

旅行の間、Yは常に何かを口にしていた。宿でも、移動中も。夜中に目を覚ますと、暗闇の中で咀嚼音がした。袋の擦れる音と、低い息。

最終日の朝、バイキング形式の朝食で、彼は皿を何枚も重ねていた。周囲が引くほどの量だった。

「それ、食べきれるのか」

仲間の一人が冗談めかして言うと、Yは首を傾げた。

「俺一人じゃないから」

誰も笑わなかった。

帰りの車内で、Yが後ろから菓子パンを差し出した。

「一口食べる?」

断る理由もなく、僕は受け取った。小さくちぎって口に入れる。普通の味だった。甘く、柔らかい。

その瞬間、喉の奥がわずかに焼けた。鉄の匂いが鼻に抜けた。

「変な味しないか」

思わず聞くと、Yは前を向いたまま言った。

「慣れるよ」

それからだ。

あの日以来、妙に腹が減る。食べても食べても、どこかが空いている。夜中に目が覚めると、無意識に冷蔵庫を開けている。自分の歯茎を舌でなぞると、奥のほうに細いものが触れる気がする。

鏡を見るのは、まだ避けている。

[出典:587 :本当にあった怖い名無し:2006/11/27(月) 22:07:28 ID:27X+4T+D0]

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