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短編 怪談 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

大喰い【ゆっくり朗読】6580

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僕がこの話を聴いたのはあるファミレスでだった。

587 :本当にあった怖い名無し:2006/11/27(月) 22:07:28 ID:27X+4T+D0

サークルの皆でちょっとした遠出を決行する事となり、

メンバーとの待ち合わせを駅前でしていたんだ。

仲間の一人が親のすねで新車のミニバンを買った事がきっかけだったと思う。

しかし、実際に時間通り現れたのは僕とY二人だけだった。

比較的駅から近い場所に住んでいた僕とYは他のメンバーと違い、

直ぐにつく事が出来たわけだが、僕等の他の皆はバンに乗り合わせたため渋滞にはまり、

まだここに着くには暫く時間がかかるといわれた。

仕方なく僕らは近くのファミレスで時間を潰す事にした。

ところでYだが、サークルに入ったばかりの新人で

僕は余り話した事のない人物だった。

内心少し緊張していた僕だったけれど、

Yは聞いていた通り話しやすく気さくな人物で

僕はすぐに安心する事ができた。

僕らは打ち解けあい、何度かくだらない話で盛り上がり

三十分ほど時間を潰した後、未だたどり着かない仲間に連絡を入れたのだが、

ひどい渋滞であと一~二時間ほどかかという答えが返ってきた。

しかしまあ、待っていれば迎えに来てくれるのだからと

気楽に構えていた僕らは、じゃあ小腹が空いたから何か軽い食べ物でも

食べようかとはなして注文を始めたのだが、

Yの頼む品目が僕の想像を遥かに上回り、

四~五人分の腹を満たすに充分な量を頼むのだ。

「いったいどうしたんだ?

こんなに一度にお前一人で食べられるのかよ?」

と、僕が聞くとYは

「俺は大食いだからこれくらい平気だよ」

と歯を出してにこりと笑う。

僕はYの歯を見たときあれ?と、思った。

Yの歯の根本が黒ずんでいたのだ。

ああ、たばこか虫歯かな。汚いな。

などと思っていると次々と注文したメニューがテーブルへと並び始め、

それをYは次々と勢い良く食べ始めた。

あまりにも気持ち良い食べっぷりで僕は呆然と眺めていたのだが、

痩身で輪郭の線が薄い彼がどうして体系を維持できるのか気になり始めた。

だから、

「良くそんなに食べて太らないな。胃下垂かなにかじゃないか?」

と聞いたのだ。

Yは

「俺も前はこんなに食べなかったんだ。ある事がきっかけでね」

そう言うと何かを言いたげな目線で僕を見る。

「ふーん。じゃあ聞かせてくれよ」

少し興味が沸いた僕はYの話を聞きたくなった。

「余り良い話じゃないから食事中は話したくないんだけどな」

そう言いながらYは今は二人だけだし、まぁいいかと訥々と話し始めた。

「俺さ、元は結構小食だったんだよ。

そりゃ全く食べなかったわけじゃないが、

まぁ食パン二枚、一日二食で足りるくらい」

そんなYが変わったのは以前の彼女と付き合っていた事が関係するらしい。

初めは可愛い彼女と好き勝手に暮らしていたYだったのだが、

一日何十通もMailを送られ。返信しないとすぐに取り乱す彼女を段々と

煩わしくなっていった。

その上彼女のしつこさは前にも増してきたのだ。

家でトイレに行くといって離れてもトイレの前で待っている程に。

付き合い始めて二ヶ月もするとすっかり熱が冷めてしまい、

彼がある時をきっかけに

「これ以上しつこくするようなら別れる」

と、伝えたらしいのだ。

すると絶対嫌。と彼女は言い、

どうしても同意してくれはしない。

仕方なくYは彼女の心が離れるようにわざと突き放した態度を取っていた。

けれど彼女は諦めず、料理も以前と比べ物にならないくらい

手の込んだものを作ったり、以前のようにしつこい行動もとらなくなったり、

とにかくYの心が離れないよう必死になり始めたと言う事だった。

しかし、一度離れてしまったYの恋心は再び火がつく事は無く、

二月ほどしてから遂には彼女の方から別れると言う同意を得たとの事。

「正直ほっとしたのは確かだよ。

だって別れるんだったら俺を殺して私も死にますって勢いだったからさ。

でもなんで急に諦めがついたのか、そっちの方が俺としては不気味で」

そう言ってYはフライドポテトを口の中に放り込んでむしゃむしゃと食べる。

「でも、それと大食いと何が関係するんだよ」

なんだか確信をはぐらかされている気がして僕はそう聞いてみる。

「それがどうやらあの女、全然俺と別れる気が無かったみたいなんだ」

そううんざりした顔でYはいった。

その後、別れてから一週間経つかたたないかした頃。

Yの携帯に見た事のない電話番号から電話がかかってきたそうだ。

その電話によると、Yの元彼女はYと別れた後にすぐに自殺したという事らしい。

彼女の住んでいたマンション屋上からの飛び降りたのだと。

それで母親からの電話が彼に届いたのだそう。

なんでも彼女の遺書に私が死んだら彼に日記を渡してくれと書いてあり、同時に携帯の番号も記されていた。

「俺、嫌だったんだけどさ。

受け取らないわけにはいかないだろ?」

それでYの手に渡った日記には、どれだけYの事が好きなのかだとか、

Y無しでは生きてゆけないだとか言った内容がびっしりと書かれていた。

だが、ある日を境に内容に微妙な変化が起こっていた。

「あの女さ、俺に作った食事に少しずつ自分の一部を紛れ込ませてたんだよ。

爪や髪や血なんかをさ」

日記には今日はカレーライスに極小に刻んだ髪を入れただとか、

ステーキに血を沁みこませただとか書いてあったらしいのだ。

別れると切出したその日から。

最後には「これでやっと一緒になれたね」と書いてあった。

「俺もばかだったよ。

味の変化に気づきはしたんだけど、

料理自体豪華になってたから全く気づかなかった」

そう言ってYは泣きそうな顔をしながら話す。

「あいつが死んでからなんだよ。

食べても食べても腹が満腹にならないのは。

もしかして俺の中にあいつがいるのかもな」

そう言って笑ったYの歯茎には黒い髪の毛が絡みついていた。

虫歯やヤニでは無く髪の毛だった。

僕はそれからYの顔が直視できなくて外を見ながら話をしていた。

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