これは霊的な話ではないが、洒落にならないほどの恐怖を感じた体験談だ。
投稿者が大学生の頃、行きつけのネットカフェがあった。特別に安いわけではないが、店内は清潔で、椅子の座り心地も良い。オンラインゲームや漫画を楽しむには最適な場所だった。
ある日、終電を逃したこともあり、そのまま朝まで滞在することにした。深夜二時を回った頃、不意に背後の席から奇妙な声が聞こえてきた。
「ヒホーヒー!」
「ぼおおお!」
女性の声だった。そこそこ大きな声で、独り言のように何かを叫んでいる。やかましいにもほどがある。
だが、店員は注意しない。二十分ほどその状態が続き、ついに我慢の限界を迎えた。苛立ちを抑えきれず、その席のドアに裏拳で「バン!」と一発。
静かになった。
だが、すぐにまたブツブツと小さな声が聞こえ始めた。まるで何かと対話しているような、不穏な独り言。
「一体どんな女なんだ……?」
好奇心と嫌悪感が入り混じり、ふと覗きたくなった。ネットカフェの個室は、完全な密室ではない。ドアの下が空いていることが多い。
——覗いたことを、死ぬほど後悔することになるとも知らずに。
屈んで視線を送ると、異変に気づいた。
椅子が、ずらされている。
その結果、机の下がよく見えた。
そこに——その女がいた。
体育座りでバッグのジッパーを開けたり閉めたりしながら、顔だけこちらに向けている。
完全に目が合った。
心臓が冷え、体が硬直した。
「なぜ……?」
「なぜそんな所に?」
「なぜ俺の方を見ている?」
「なぜ俺の室内を下から覗いている?」
思考がぐちゃぐちゃになった。
逃げ出したい。しかし、時間は深夜。電車はない。震える手で煙草を取り出し、吸って落ち着こうとした。
その時だった。
「フッ……ンフ……フッ……」
小さく、くぐもった笑い声。
背筋が総毛立つ。
ゆっくり振り向いた。
そこにいた。
俺の個室のドアの下でしゃがんでいる。
——笑いながら。
(こいつ、いつの間に……?)
背後のドアをガラガラと開ける音は聞こえなかった。ということは……
自分の個室から、しゃがみながら這い出てきた?
「ポポーーーーーーーン!」
突然の奇声と共に、しゃがんだまま、ゆっくりとこちらへ侵入してくる。
瞬間、体が反応した。
無我夢中で顔面を蹴り飛ばしていた。
女性相手に暴力を振るったのは初めてだった。しかし、理性ではなく、本能が叫んでいた。
「殺される——!」
女は泣き叫び、騒ぎを聞きつけた店員がようやく駆けつけた。しかし、こちらが冷静に説明できるはずもなく、警察が呼ばれ、連行された。
結果として、相手の母親が迎えに来て、こちらに深々と頭を下げた。
「申し訳ありません……」
どうやら、精神的に問題のある人物だったらしい。
ただ、一番恐ろしかったのは——
彼女のバッグの中身。
果物ナイフが、五、六本。
裸のまま、無造作に詰め込まれていたという。
あの時、蹴らなければどうなっていたのか。
——それを考えると、今でも背筋が凍る。
その後、警察で詳しく話を聞かれた。女は取り調べ中も意味不明なことをつぶやき、笑いながら壁を叩いていたらしい。
事情を知る店員の証言もあり、こちらは釈放されたが、女の家族の話によると、彼女は以前にも同様の行動をしていたことがあったという。だが、ここまでの騒ぎになったのは初めてだった。
警察からも「何か危害を加えられる前に逃げたのは正しい」と言われたが、夜道を歩くたび、今でも背後に何かがいる気がしてならない。
あの女が、またどこかのネットカフェで同じことをしているかもしれないと思うと——
もうネットカフェには二度と行かないと、心に誓った。
[出典:526 本当にあった怖い名無し sage 2010/09/30(木) 10:21:21 ID:8n0CWUPW0]