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異世界生活 r+3737

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僕はこれまで三度、異世界へ行ったことがある。

ただし「あそこ」が本当に異世界だとするならの話だ。

最初は9歳か10歳の頃、次は23歳、そして最後に訪れたのは10年前、36歳の時。あの世界へ行くのはいつも決まって、私生活が崩壊しかけている時だった。


最初の旅立ちは、学校での激しいいじめと家庭の崩壊が重なった時期。父と母は毎晩のように争い、家は冷たい緊張感に満ちていた。テレビもろくに見られず、早く布団に潜り込むことで逃げ場を求めていた。

ある夜、目を覚ますと辺りはまだ暗く、なぜだか外に出ていた。誰かに呼ばれたのか、それとも自分の意思だったのかは覚えていない。ただ、その瞬間から記憶が曖昧だ。次に気がついたとき、僕は見知らぬ森を歩いていた。鬱蒼としたジャングルのようなその場所に、少年の僕は不思議な怖さと興奮を覚えた。

気づけば夕暮れ時のような空だったが、眠気と混乱でぼんやりしていた。どのくらい歩いたのか分からない。数十分だったかもしれないし、もっと長かったかもしれない。森で出会った老婆に手を引かれ、小さな村へと連れて行かれた。


その村は東南アジアの山奥の集落のようで、電気製品などの現代的な設備は見当たらなかった。老婆の家族は僕を暖かく迎え入れてくれた。彼女の家には若夫婦とその子供たちがいて、賑やかで優しい人たちだった。夢中になって遊ぶ子供たちに混ざる僕。温かい家庭を知らなかった少年の僕にとって、そこは天国のようだった。

だが、その幸せは長く続かなかった。3日ほど過ごしたある日、外で遊ぼうと家を出ようとした瞬間、僕は元の世界に引き戻されてしまった。玄関先でぼんやり立ち尽くす僕を見つけた母親に「何してるの!」と叱られた記憶がある。向こうでの数日間がこちらではほとんど経っていなかったらしい。

夢か現実か。小さな体に残る植物の棘の傷や、泥にまみれた服は現実を示していたが、僕はその幸せが夢でしかないと自分に言い聞かせるしかなかった。

その後、両親は離婚し、僕は母方の祖父母に引き取られた。祖父母には感謝していたが、しばしば父の悪口や僕自身への嫌味を口にするその家が嫌で、早く出たいと思うようになった。そして高校を卒業すると同時に上京した。


それから10年以上が過ぎた。23歳になった僕は、またあの異世界へ行くことになる。

その時も僕の生活はボロボロだった。働いても働いても報われず、先輩からは金をせびられ、暴力団じみた連中に脅されることもあった。ある休日の朝、人生に嫌気がさし、飲めない酒を空けていた時、洗面所でめまいを感じた。そして次の瞬間、またあの森にいた。

酔った足で森を歩くのは困難だった。しばらくして声をかけてきたのは、若い女性だった。彼女は片言の日本語で話し、村が近いことを教えてくれた。ついて行くと、そこは子供の頃に訪れた村そのものだった。


その女性は20代くらいで、幼い頃に両親を亡くし、村の人々に助けられて育ったという。彼女に助けられながら、僕はその生活に馴染んでいった。シンプルだが充実した生活。彼女との絆も深まり、恋愛関係になった僕は、今までにない充実感を味わった。

しかし、またもや僕は突然元の世界に戻されてしまう。3か月間の幸せな時間が一瞬にして消え去り、現実の空虚さが押し寄せた。僕は深い絶望に沈んだ。


そして36歳。結婚し、家庭を持ったものの、幸せとは程遠い日々だった。浮気や策略で妻との離婚が決まり、僕はまた孤独に沈んでいた。そんな折、再び異世界へと飛んだ。


村はやや様子が変わっていたが、彼女の家を訪れると幼い少女が出迎えた。話を聞くと彼女の母親が病床に伏せており、間もなく亡くなった。僕はその少女を引き取ることを申し出た。


3年間、僕はその村で暮らした。少女は、かつて僕が結ばれた女性であり、最初に出会った老婆だったことに気づいていた。そして、少女が成長した頃、僕は再び元の世界へと戻されてしまった。


現実の世界では一日しか経っておらず、僕はすっかり別人のように見えた。白髪が増え、肌は日に焼け、人生がさらに重たくのしかかっていた。だが心の中では、もう一度あの世界へ戻ることだけを望んでいる。もし再び行けるのなら、今度こそ天寿を全うするまで、彼女のもとにいたいと願っている。

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