短編 後味の悪い話

祖父の初盆【ゆっくり朗読】1500

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自分的にはこれほど後あじが悪いかつゾッとした話はない

747 :1/3:2012/02/20(月) 23:30:31.11 ID:iP6G3EhD0

大学1年の時のことなので、もう十数年前の話になりますが、春に亡くなった父方の祖父の初盆で一人で田舎に帰る時のこと。

父方の田舎は鹿児島県の某離島で、ここは今でも県外からくる場合、船の出る時間の関係で一泊しないといけないところで、県外の人間は旅館に泊まるか、港近くの島役場に泊まります。

役場泊だと島外の人間でも千円位の格安料金なので、いつも役場に泊まっていました。

その日は役場に泊まる人が自分以外には1組の夫婦だけで、銭湯に行った後、布団を敷いている時、夫婦の旦那さんが(名前は覚えてないのでAさんとします)話しかけてきました。

10代の女の子が一人で役場に泊まっているのが珍しかったのか、Aさんは色々話しかけてきて、奥さん共々感じのいい人達だったので、話が弾んで楽しかったのです。

Aさんが「自分はどこの家の子だ?」と聞いてくるまでは……

最初Aさんは、見ず知らずの人間のプライベートを訊くのは良くないと遠慮していたのですが、話が盛り上がってきて、島に帰る目的を聞いてきました。
(最初は私のことを観光客と勘違いしていたみたいです)

法事目的だと答えると、Aさんはどこの家の子だ?と聞いてきたので、
「○○はご存知ですか?私は○○の孫なんです」と答えると、その途端、それまでのにこやかな笑顔が一転、Aさんは鬼のような形相で私を睨みつけてきました。

隣にいた奥さんの笑顔も一瞬で凍りつきました。

何かまずいことでも言ったのか?と内心オドオドしている私にむかって、Aさんがその表情とは裏腹にとても静かな声で言いました。

「俺の島に帰る理由を言おう……
俺は殺人罪で逮捕された。
だが俺は俺は殺人などやってない。ずっと冤罪を主張してきた。
支援者の援護もあり、自分が無罪である新たな証拠を見つけるため今回島に帰ることになった」

一息ついて、Aさんはまた淡々と続きを語り始めました。

「昔ある島民が殺されて、俺は犯人として逮捕された。
確かに俺は殺人現場に居合わせた。だが、俺はその場にいただけで殺していない。
被害者は数人の島民に嬲り殺しにされたんだ。
俺はその場にいた中では一番年下だし、なにより自分も殺されたくなかったので、その場で見ているしかできなかった……そして被害者を殺った連中の中にな、お前の爺さん○○と、その息子△△もいたんだ」

思いもよらぬことをことを初めて会った人から聞かされて、頭の中が真っ白になりましたが、私はAさんの話に耳を傾けていました。口を挟む気にもなりませんでした。

因みに△△とは私の伯父のことです。

「お前は△△の子か?」とAさんが訊いてきたので、「父は□□です」と答えました。

「そうか□□か……」

少し沈黙が訪れた後、Aさんはまた語り始めました。

「お前のお父さんとは、歳が近かったこともあってよく遊んだよ。あれはいい奴だった。 お前のお父さんは一切無関係だ。おそらくこの事件の真相も知らないだろう。
だが、お前の祖父と伯父は、下っ端で無実の俺に罪を擦りつけた屑だ。
○○め、くたばってざまぁみろ。地獄で永遠に苦しむがいい」

ここまで言ったとき、奥さんが静止したので、これ以上のことは何も言われませんでした。

Aさんは話の最初から最後まで、激昂するでも嘆くでもなく淡々と語りました。

その夜は私とAさん夫婦しかいない役場の寝所で、眠ってしまったら何をされるかわからないと思い、一睡もできませんでした。

Aさんの語ったことは本当なのか、それとも罪を逃れる為の大嘘なのか、起きている間そのことが頭をぐるぐるまわっていました。

翌朝、夜明けとともに布団から起き、夫婦がまだ眠っていることを確認して、早々に役場を引き払いました。

乗船中も船酔いを避けるため、いつもは甲板にいるのですが、その時は用心をして船室にずっといました。

船内でAさんは一言も話しかけてきませんでした。私も怖くてAさん夫妻の方を見ることができませんでした。

先に島に来ていた父と叔母達が、埠頭に迎えにきてくれましたが、(伯父は所要で、このときは幸い島に来ませんでした)
昨日の話を父達にする勇気はありませんでした。

十年以上たってようやく、あの日あったことを父に話したのですが、Aさんの言葉通り父は全く知らなくて驚いていました。

ただ、年数がたち私がAさんの名前を覚えていなかったこともあり、作り話か夢の話かと父には思われてしまったようです。

昨年伯父も亡くなり、真相を知っていそうな人はいなくなりました。

Aさんがそののちどうなったのか、また、そのような事件自体本当にあったのか、調べる勇気が私にはまだありません。

祖父は自分の理想の男性でした。

もしAさんの話が真実だったとしたら……
今も時折Aさんのあの時の表情や声が何かの拍子に思い出されます。

そして私はそれ以来、島に帰るときは役場に泊まることはありません。

以上、長文になりましたが、忘れたくても忘れられない後味の悪い体験談でした。

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