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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

黒い三角は空を覆う nw+272-0219

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私は中学生だった。父の車に乗り、釣り場へ向かう途中だった。

朝の空気は澄んでいて、林の向こうから鳥の声が聞こえていた。何も異変はない、いつもの休日のはずだった。

それが、ある瞬間だけ、世界の音が抜け落ちた。

林の影から、黒い塊がぬるりと現れた。

三角形だった。最初は軍用機だと思った。近くに基地がある。珍しい機体なのだと、自分に言い聞かせた。しかし父が低く呟いた。

「……なんだ、あれは」

その声に、言い訳は崩れた。

黒い三角は異様に大きかった。七十メートルか、百メートルはあるように見えた。低空をゆっくり移動しているのに、音がしない。エンジン音も風切り音もない。ただ耳の奥に、ごくかすかな振動だけが伝わってくる。

影だけが、空を滑っていく。

そのとき、小学生が補助輪付きの自転車で通りかかった。私が窓から空を指さすと、その子も見上げた。そして意味の分からない声を上げた。

それで十分だった。私だけではない。

三角が頭上に差しかかったとき、腹部の中央に丸い模様が浮かび上がった。トンボの複眼のような網目。その一部に、逆さまの風景が映っていた。

森が天地を反転し、空が地面に突き刺さる。

世界の裏側を、こちらが覗いているのか。それとも、あちら側から覗かれているのか。

父は急にハンドルを切り、車を反転させた。追うつもりだったのだと思う。黒い三角は国道の上空を淡々と進む。逃げるでも、加速するでもない。

不思議なことに、周囲の誰も空を見ていなかった。信号待ちの車列も、歩道の人々も、何も起きていないかのように動いている。

私たちだけが、そこから切り離されていた。

四号線に差しかかったとき、黒い三角は消えた。

爆発も、閃光もない。ただ「ぽっ」と、そこに在ったものが無くなった。

残ったのは、耳鳴りだけだった。

それ以来、この話は父と私の間だけで語られるようになった。釣りのたびに思い出すが、深く掘り下げることはない。ニュースにもならなかったし、写真もない。あるのは、あの日の空に浮かんだ黒い影の記憶だけだ。

十年以上経ったある夜、ネットで偶然、同じものを見たという書き込みを見つけた。巨大で静かで、境界が曖昧で、光を反射しない三角形。腹部に反転した景色が映るという。

読み終えたとき、指先が冷えた。

あの日、消えた直前のことを思い出した。

網目の中心に、一瞬だけ映っていたものがある。

私たちの車だった。

逆さまの車内で、父と私は無表情のまま空を見上げていた。

あれが現実だったのか、脳が作った像だったのか、今では確かめようがない。ただ、ときどき考えてしまう。

消えたのは、あの三角ではなかったのではないか。

あの瞬間、入れ替わったのは、私たちのほうだったのではないか。

今ここにいる私は、本当にあの日と地続きの存在なのか。

だから今でも、暗い空を見ると探してしまう。

もしもう一度あれを見つけたら、すべてが元に戻るのか。それとも、今いる場所が完全に裏返るのか。

その答えが分からないまま、心臓の奥が、きしむように鳴る。

[出典:301 :本当にあった怖い名無し:2011/01/31(月) 08:27:47 ID:OsJCGR1o0]

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