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短編 後味の悪い話 n+2026

勝手に変わる店 nc+

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東北の片田舎で、隣に一家が越してきたのは春先だった。

定年退職した夫婦と、二十代の息子が二人。いわゆるIターン移住というやつで、血縁も地縁もない。夏は涼しく、冬も雪が少ない。釣り場も多く、うつ病気味の息子たちをのびのび暮らさせたい。そんな理由を、引っ越しの挨拶のときに旦那さんは笑顔で話していた。

退職金だけでは厳しいから商売を始める。そう聞いて、正直なところ無謀だと思ったが、本人たちは本気だった。
開いたのはパスタ屋だった。この町には洒落た店などなく、スパゲティといえば喫茶店か食堂のものしかない。うまくいけば、という淡い期待もあった。

開店してしばらくして、様子を見に行った。
立地は悪くない。内装はイタリア風にしたかったのだろうが、和風とカントリーが混ざり合って妙に落ち着かない。東京の有名店を真似たらしいカウンターだけが浮いていた。
厨房に旦那さん、ホールに奥さん。長男が会計やバーカウンターを担当し、次男は厨房補助。家族経営そのものだった。

味は正直、よくなかった。茹で過ぎだったり、逆に芯が残り過ぎていたり、味付けも安定しない。それでも、皆が必死に動いている姿を見て、悪い気はしなかった。

二度目に行ったのは半月後だった。
客は明らかに減っていた。メニューには唐揚げやフライドポテトが増え、ワインの種類は減っていた。迷走しているのだろうと、そのときは思った。

三度目に訪れたとき、違和感を覚えた。
有線が消え、テレビが置かれていた。カクテルは姿を消し、サワーが並んでいる。棚の洋酒は焼酎とボトルキープ用のウィスキーに変わっていた。ご飯ものまで追加されている。

ただ、その違和感は「方針転換」という言葉では説明しきれなかった。
旦那さんは「まあ、客に合わせてね」と曖昧に笑ったが、どこか歯切れが悪い。奥さんも長男も、メニューの変更について詳しく話そうとしなかった。

数日後、深夜に隣から物音がした。
家具が倒れるような音と、怒鳴り声。後で聞くと、次男の症状が悪化して暴れたのだという。次男はそれ以降、店に出なくなった。

四度目に行ったとき、店は別物になっていた。
壁には所狭しとおすすめ品の張り紙。カウンター横には見覚えのないアジアン雑貨の棚。完全に居酒屋だった。
そして、メニューの「手作りパスタ」という文字が消えていた。

「やめたんですか?」
そう聞くと、長男は首を振った。
「いや……消えてたんですよ」

最初は冗談だと思った。だが、彼は真顔だった。
朝来たら、そこだけ黒く塗り潰されていたという。自分で消した覚えはない。父親も母親も同じことを言った。

その後も、店は勝手に変わっていった。
外したはずの張り紙が増え、片付けたはずの棚が戻っている。誰も注文していないメニューが、いつの間にか印刷されている。
閉店後に整理しても、翌朝には元通りか、さらに増えている。

冬に入る頃、長男がいなくなった。
両親が買い出しに出ている間に姿を消し、東京に戻ったらしい。
だが、彼が使っていたグラスや、カウンター裏のメモは、なぜか減らなかった。むしろ増えていた。知らない筆跡の走り書きが混じっていた。

店の前を通ると、開いていないのにテレビの音が聞こえることがあった。
電源は落としてあるはずなのに。

最後に店を訪れたとき、客はほとんどいなかった。
生ビールは瓶に変わり、ワインは消え、メニューは塗り潰しだらけだった。
旦那さんは厨房で煙草を吸い、奥さんはただ黙って立っていた。

「もう、俺たちじゃ止められないんです」
旦那さんはそう言って笑った。笑顔だが、目は死んでいた。

店は一年持たずに閉店した。
引っ越しの日、旦那さんは荷物を積み終え、最後に店を振り返った。
「ここはひどいところだ。もう来ません」

車が去ったあと、店のシャッターに張り紙が増えているのを見た。
《本日おすすめ》とだけ書かれた紙。
店は閉まっている。誰も、もういない。

[出典:439 :1/3:2008/03/13(木) 11:01:33 ID:uraCRgvu0]

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