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女性の恨み r+2472

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これは、ある女性から聞いた話だ。

若かりし頃の父には、心底惚れ込み、ほぼ店を持たせるほどに貢ぎ合った愛人がいたらしい。母はそれを知り、彼女を許せず、占い師に頼み込んで霊視をしてもらった。占い師は言ったという――「彼女の姿は見えますが、彼女は両手で顔を隠している」。

母は友人を数人引き連れ、その女の店に踏み込んだ。店の中で次々とグラスを割り、激しい怒声を響かせながら、荒れ狂ったように店をめちゃくちゃにしてきたという。その女性の顔は酷く醜かったらしい。母は、顔を隠していた理由がその「醜さ」故だと嘲笑いながら語った。

長じた彼女が初めてその話を聞いたのは、父の思い出話としてだった。母が先に逝き、母の通夜の晩、父に「若き日の愛人」のことを尋ねたとき、父は遠くを見るように、何も隠さずにその女の思い出を語り始めた。「本当に尽くしてくれる優しい女性だった。母さんが彼女を追い払ってしまったとき、あの人はどこかに消えてしまった……」と。

母の通夜の夜だというのに、父は母との記憶ではなく、その愛人の話ばかりを語り続けた。だがそれからというもの、家には不幸が相次いだ。愛人と別れた後、父の事業は不思議と転落を始め、家は一気にどん底に落ちた。晩年、糖尿病に苦しんだ父は足を切断され、独りで気が狂ったように死んでいった。愛人に残した無念が、父の晩年に影を落としたのだろうか――それとも、もっと底知れぬ恨みが潜んでいるのか。

その女性が不運を呼び込んだのではないかと、家族も密かに疑念を抱いた。姉は離婚し盲目となり、残された二人の妹たちも婦人科系の病を患い、子を成すことができない体となっていた。家族に降りかかる惨禍は、代を重ねても続き、まるで血が途絶えることを望んでいるかのようだった。

ふと、父が逝った時、「これで呪いが終わった」という言葉が脳裏に浮かんだ。それでも、母方の血筋にどこかおぞましい影を感じずにはいられなかった。父が家を苦しめた怨霊を連れてきたのではなく、母が、その血筋が――なにかを背負っているかのような、言い知れぬ気配があった。

母が占い師に言われた「修行や先祖供養をせねばならぬ」という言葉が蘇った。母の家系の女たちは皆、不幸な死を遂げたが、ただ一人残った母の妹だけは、修行の道に入り、祖先の供養を続けている。彼女の証言によれば「○○家は、本来なら背負わなければならぬ業がある」という。

祖父は軍人であり、戦時中の名の知れた出来事に関わったと聞く。その過去に、何が横たわっているのか――母もまた、父と同じく他人の涙を意に介さないほどに苛烈な性格であり、女たちの怨みが何代にもわたって影を落としているのではと考えた。

髪が白くなり、身体が次第に衰えていくとき、彼女はついに覚悟を決め、遠路遥か伊勢神宮に足を運んだ。祝詞が響き渡ると、その夜から、不思議な現象はまるで噓のように止んだ。しかし、彼女の中では静かな不安が消えない。怨みの連鎖が本当に絶えたのか、それとも、また代を越えて続くのか――。

祖父の写真には、美形の顔立ちが記されている。しかし、その背後には、どこか艶やかで禍々しい影がいまだ蠢いているような気がしてならない。

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