ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

婆ちゃんの的中 r+2,237

更新日:

Sponsord Link

うちの地域には、昔から奇妙な言い伝えや風習が残っている。

浄土真宗の家が多いせいか、葬式の後に清めの塩を使う習慣はほとんどなかった。けれど、私の家では今でも必ず塩をまく。理由は、あの「婆ちゃん」の存在があったからだ。

婆ちゃんは近所に住む農作業の好きな、背の小さい白髪の女だった。腰を曲げて畑に出ては、土の匂いを体にまとわせている。ところが彼女には、誰もが逆らえない「的中率」と呼ぶしかない力があった。子供が姿を消すと、皆、自然と婆ちゃんのところへ足を運んだ。婆ちゃんは目を細めて「今◯◯におる。十日の朝に帰ってくる」と呟く。その言葉どおり、子供は約束の日に、儀助の孫と連れ立って戻ってきた。
そこはこの村から直通の電車もバスも通っていない都会だった。行き先を誰かに見られたとしても追いきれるはずがない。けれど婆ちゃんが告げたとおりの場所から帰ってきた。偶然では済まされなかった。

似た話はたくさんあった。伝助の嫁が「元気すぎるくらい」だと怒りながらも病院に行かされ、腹の中に悪性腫瘍が見つかった時。兵右衛門の家に「盆は川に行け、山はやめろ」と告げたのに無視し、山のキャンプで子供を一人失った時。外したことは一度もなかった。だから村の人間は婆ちゃんの言葉に従った。

葬式にまつわることも教えてくれた。「葬式に引かれて余計なモノが来る。だから家に入る前に必ず塩を引け。亡くなった家族は心配せんでも帰ってくる」そう言った婆ちゃんの忠告を、皆守るようになった。清め塩を使わない家もあったけれど、その家に限って不幸が続いた。まるで他人の厄を引き受けたように。

私自身も婆ちゃんの力を疑ったことがあった。中学生の頃は、村の噂話を聞き込んで当てているのだろうと思っていた。けれど、よそからふらりと来た見知らぬ人間にまで言い当てる姿を見て、考えを変えざるを得なかった。ある日、道に迷った女性が婆ちゃんの家の前を通った時、婆ちゃんが「おまえ東海林の末っ子だろ、子供のところに帰れ」と言った。女性は最初きょとんとしていたが、二度目に同じ言葉を聞かされた途端に泣き出した。数年前に子供を置いて家を出たことを、誰も知らないはずだったのに。

私は大人になって都会に就職した。独身時代、好きな男がいた。彼のことを婆ちゃんに話したら、婆ちゃんは「その男は本間家の次男」と言った。驚いた。誰にも話していないのに、当たっていた。そして続けて「その男はおまえには無理。一途な男だ。好きな女がいる」とも。確かに彼は職場の先輩に長年片思いをしていた。私は諦めきれずに泣いた。婆ちゃんはしばらく黙っていたが、やがて「仕方ないな。おまえは強情だから何とかしてやる。一度だけだ。三十日の夜、寺前に行け」と言った。言われたとおりにしたら、なぜか彼と結ばれ、今では夫になっている。絶対に無理だと思っていた恋が現実になったのだ。婆ちゃんの力を思い知らされた瞬間だった。

それでも婆ちゃんは一度もお金を受け取らなかった。お礼を渡そうとしても「いらない」と突っぱねた。村の人たちは「強情な婆だからだ」と笑っていたけれど、本当の理由は誰も知らない。中には「金を取れば霊力が失われる」と噂する人もいた。

婆ちゃんは、決して自分から出向くことはなかった。行方不明の子供や未解決事件を解決できるのではと考える人もいたが、婆ちゃんは「相手が来れば言うが、自分からは出ない」と決めていた。都会のテレビ局が取り上げようとしたこともあったけれど、田舎者の婆ちゃんは頑なに拒んだ。誰もが「強情だから」で片付けた。

だが、私には別の光景が焼き付いている。婆ちゃんはテレビのニュースを見ながら、時々手を合わせていた。必ず「もう亡くなっている」時だった。救いようのない事件や、行方不明になったままの人。その顔が画面に映ると、婆ちゃんは無言で目を閉じた。まるで、遠くの見えない場所から確信を受け取っているように。

今でも村では、葬式の後には塩をまく。新しく引っ越してきた人たちも、最初はやらなかったが、不幸が重なると次第に真似をし始める。婆ちゃんはとうに亡くなったのに、その習慣だけは消えない。なぜなら、皆どこかで知っているのだ。婆ちゃんが残したものは単なる風習ではなく、もっと大きな「見えない力」そのものだったのだと。

そして私は、塩をまくたびに思い出す。あの三十日の夜、寺の前で何をしたのか、どうして彼と結ばれることになったのか、記憶が途切れている。彼と肩を並べて歩き出した瞬間ははっきり覚えているのに、その前の時間だけがまるで消されている。
婆ちゃんは「一度だけだ」と言った。あの夜、私は何を代償にしたのだろうか。
夫と並んで暮らしながら、塩を撒くたび、胸の奥にざらりとした違和感が残る。

婆ちゃんの強情さは、他人のためだけではなかったのかもしれない。

[出典:538 :可愛い奥様:2012/08/09(木) 03:09:04.79 ID:w5Uy35ag0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.