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八木山橋のデジタル亡霊 r+1,627

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俺の地元は宮城県の仙台だ。

大学四年の夏、くだらない好奇心に突き動かされて友人と実験を試みたことがある。題して「幽霊はデジタル化されるのか?」。酔狂な遊びと笑ってくれて構わない。だが、あの日以来、俺は笑えなくなった。

向かったのは八木山橋。仙台に住んでいる人間なら一度は名前を耳にしたことがあるはずだ。かつて吊り橋だった頃から自殺者が後を絶たない場所で、今は頑丈なフェンスと鉄条網で固められている。橋の下は竜の口と呼ばれる深い谷だ。十年ほど前に閉鎖されてからは、公式には「崖崩れの危険がある」とされているが、誰もが別の理由を知っている。――拾いきれなかった遺体が、いまも谷の奥で朽ちているからだ。

その夜は八月、星がよく見える澄んだ空だった。俺と友人は彼の車で橋の手前まで行き、近くに停めて歩いた。午前一時を回っていたと思う。ひんやりした夜気の中、人気はなく、車の往来もまばらだった。俺たちは三脚にビデオを据えつけ、フェンスを背にして夜景を背景に友人が馬鹿みたいにポーズを取った。俺はしばらく撮影していたがすぐに飽き、煙草に火をつけ、結局カメラを回したまま友人の隣でふざけていた。三十分もすれば退屈して、録画を止め、そそくさと友人のアパートに引き上げた。時刻は午前一時三十五分頃だった。

帰宅してすぐ、上映会を始めた。ふざけ合う俺たちの姿、間抜けな声。笑いながら眺めていたが、十分ほど経ち、画面の右端に奇妙な影が映り込んだ。白い……布のようなもの。最初は光の加減かと思ったが、明らかに自立して動いている。やがて姿が判然とした。白いワンピースを着た、長い黒髪の女。裸足で、うつむいたまま俺たちの間をすり抜け、フェンスに手をかけ、まるで鉄条網など存在しないかのように登り、そのまま谷へと落下した。

映像を見ている俺と友人は息を呑んだが、その場にいた俺たち自身は何も見ていない。画面の中だけで、女は落ちていったのだ。そして十秒もしないうちに、再び画面右から現れた。今度は白いワンピースが血に染まり、髪は乱れ、皮膚は裂けて腫れ、内臓を引きずっている。だが動作は同じ。俺たちの間を抜け、フェンスをよじ登り、落ちていく。

それが繰り返された。落ちては現れ、現れては落ちていく。ワンピースは赤黒く変色し、骨が突き出し、足は折れ曲がり、もはや人の形を保てない。俺は直視するのも辛かったが、目を逸らせなかった。何度目かの落下のあと、女はふと動きを止め、こちらを振り返った。空洞になった眼窩が画面を射抜き、俺の背中を凍らせた。そして女はカメラに近づいてきた。胸から鎖骨まで、血にまみれた皮膚が画面いっぱいに迫り、やがて誰かがカメラを持ち上げたように視点が動いた。次の瞬間、顔が――眼のないその顔が、画面いっぱいに広がった。口元がぶつぶつと動き、何かを呟いていた。音声は不明瞭で、ただ砂嵐のようなノイズと混じっていた。

そして突然、録画は途切れ、砂嵐に変わった。停止ボタンを押した覚えもないのに、ビデオは切れていた。俺と友人は青ざめ、言葉を失い、そのまま布団に潜り込んだ。疲労と恐怖が混じり、俺はすぐに眠ったはずだ。だが、午前四時前に目を覚ました。横向きに寝ていた俺は時計を見て、再び頭を戻した瞬間、全身が硬直した。金縛りだった。

目の前に、足があった。白い裾が揺れ、血が滴り落ちていた。布団に赤い染みが広がり、頬にもぬめりとした温かい液体が伝った。あの女だ、と直感した。目を閉じることすらできず、ただ瞬きを繰り返しながら震えていた。やがて、顔が迫ってきた。鼻先が触れそうな距離まで。眼のない眼窩が俺を覗き込み、女は囁いた。

「……見てたよね……ずっと見てたよね……なんで……なんで……」

そこで意識を失った。次に気づいた時、三十分が経っており、布団には血の跡一つなかった。だが頬の感触は忘れようがなかった。

恐怖に駆られ、俺は友人の部屋へ駆け込んだ。彼は隅で膝を抱え、「スンマセンデシタ、スンマセンデシタ」と繰り返していた。落ち着かせて話を聞くと、彼もまた金縛りに遭っていたという。仰向けに眠っていた彼は、足をぬめった手に掴まれ、そのまま布団の中から這い上がられる感覚を覚えたらしい。足首から腿へ、腰から胸へ。視線を下ろすと、布団の隙間から何かが凝視していた。恐怖で目を閉じた瞬間、全身を這い上がられ、顔と顔が触れ合うほどの距離であの女と対峙した、と。

俺と同じように、友人の耳にもぶつぶつとした声が聞こえたが、言葉までは分からなかった。そのまま意識を失い、俺が駆け込むまで何も覚えていなかったという。

翌日、教授にビデオを送った。だが返ってきた答えは「お前たちしか映っていなかったぞ?」というものだった。砂嵐もなく、ただ間抜けに騒ぐ俺たち二人が映っているだけの記録。教授は鼻で笑い、まともに取り合わなかった。

ビデオは今も友人が保管している。俺も彼も、それ以来女には遭遇していない。奇妙な体験もない。だが霊感が少しばかり強くなったように思う。街中を歩けば、視界の端で揺れる影を感じることがある。振り返ると誰もいないのに。

八木山橋の夜、カメラに記録されたものが幻だったのか、それとも俺たちの目が見逃した真実だったのかは分からない。ただ一つ、あの女の声だけが今も耳に残っている。

――「見てたよね?」

あの問いかけは、今も終わっていない。

[出典:2005/08/02(火) 05:46:06 ID: fIW9/HvJ0 Be:]

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