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中編 r+ 洒落にならない怖い話

戻らなかった道 rw+8,333

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平成四年。当時、高校三年生だった僕は、富山県立山に住んでいた。

桜はほとんど散り、暖かい日だった。受験の話題が飛び交う時期だったが、僕は実家の弁当屋を継ぐと決めていて、進学には興味がなかった。学校全体も似たような空気で、教師より生徒のほうが荒れているのが当たり前だった。僕も髪を茶色に染めていた。

井上と細川は中学からの付き合いだ。三人とも不良と呼ばれる側だったが、誰かを脅したりはしない。ただ、夜にバイクを走らせ、タバコを吸う程度の連中だった。

ある日、細川が「明日、遊びに行かん?」と言った。どこへ行くのか聞くと、「村」とだけ答えた。富山には遊び場が少ない。肝試しだと聞いても気は進まなかったが、女子も来ると聞いて承諾した。井上はやけに張り切っていて、カメラを持っていくと言っていた。

翌日、集まったのは僕たち三人と女子三人の六人だった。電車を乗り継ぎ、二時間ほどかけて目的地へ向かった。細川は、幽霊が出るという噂があるらしいと言っていたが、誰も真剣には受け取っていなかった。

村に着くと、田んぼが広がり、家々にぽつぽつと灯りが見えた。普通の田舎だ。しばらく歩くと、遠くで人の話し声が聞こえた気がした。その直後、女子たちが口々に気持ち悪いと言い出した。僕も理由のわからない耳鳴りと眩暈を感じ始めていた。

気づくと道は砂利に変わり、周囲の家並みが妙に古くなっていた。酒屋の壁に貼られた色褪せたビールのポスター。家の中から聞こえる、古い歌謡曲のような音。時間がずれているような感覚だった。

引き返そうという声が出たが、細川だけが前に進んだ。目的地を知っているように見えた。右足の義足を引きずりながら、迷いなく歩いていく。

細川は一軒の家の前で止まった。明かりのない家だった。表札には名字が書かれていたが、なぜか読めなかった。

庭に入った瞬間、土を叩くような音が聞こえた。かがみ込む人影が見えた。花柄の古いワンピースを着た女だった。背中を向け、何かを繰り返し振り下ろしている。その先には、暗闇に口を開けた穴があった。

井上がシャッターを切った。

フラッシュの光が一瞬、穴の中を照らした。中には、形の分からない肉の塊や布切れのようなものが詰まっていた。手足のようにも見えたが、確信は持てなかった。ただ、人間のものだと直感した。

その瞬間、細川が走り出した。義足とは思えない速さだった。

女がゆっくり振り向いた。灰色の肌に赤い飛沫が散っていた。表情は笑っているようにも、歪んでいるようにも見えた。

悲鳴が上がった。

ナタが振り下ろされ、女子の一人が崩れ落ちた。音だけが妙に軽かった。

逃げた。振り返る余裕はなかった。後ろで何かが引きずられる音と、濡れたような衝撃音が続いた。

灯りのある家に飛び込んだ。中は無人だった。食事の用意だけが残されていた。息を殺して押入れに隠れたが、足音は迷いなく近づいてきた。

笑い声が聞こえた。

戸が開き、隣にいた女子が引きずり出された。叫び声が途切れた瞬間、僕は外へ飛び出した。

指に激痛が走った。振り返らなかった。走り続け、道がいつの間にかアスファルトに変わったところで意識を失った。

目を覚ますと病院だった。失踪した仲間は見つからなかった。警察は事件性を疑ったが、村自体が確認できなかったと言われた。

数日後、細川が見舞いに来た。

何を話したのか、はっきり覚えていない。ただ、彼の話はどこか噛み合っていなかった。あの場所のことも、女のことも、まるで別の出来事のように語った。

それ以来、事故や転落の瞬間に、あの女を見るようになった。

一年前、階段から落ちた時も、いた。

気づいた時には、左足はもう残せない状態だった。

この話を書いている今も、背後に気配を感じる。
本当に女が存在するのか、それとも記憶が壊れているだけなのか、自分でも分からない。

ただ一つだけ確かなのは、
書き終えた今、少しだけ息がしやすくなったということだ。

(了)

[出典:839 本当にあった怖い名無し 2012/08/20(月) 00:22:19.21 ID:asvh4JmB0]

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