これは、奄美大島に住む叔父から聞いた話だ。
その日、家族全員でビデオカメラを持ち出し、海岸で楽しいひとときを過ごしていた。三脚に固定したカメラは、兄弟や従兄弟たちが波打ち際で遊ぶ様子を黙々と記録していた。昼間の暑さも手伝って、笑い声が響き、海辺はまさに楽園そのものだった。
日が傾き、海から上がると全員は叔父の家に戻り、録画したビデオを再生することにした。テレビの前に家族が集まり、期待に胸を膨らませる。映像には、さっきまでの喧騒がそのまま映し出されていた。
しかし、中盤に差し掛かったころ、異様なものが画面に現れた。波打ち際の中央あたり、髪の長い裸の女が立っていた。遠くにいるようなのに、その表情は不気味なほど鮮明で、まるで笑っているようだった。楽しげな笑みだが、何が楽しいのか見当もつかない。ただの映り込みだと信じたかったが、次第に全員が黙り込んでいった。
数分後、異変に気づいた。女がカメラに向かってゆっくりと近づいてきている。気づけば、全員が息を呑み、画面に釘付けになっていた。そしてある瞬間、従兄弟の一人が女の前を横切った。しかし、その動作に違和感があった。
女は消えない。従兄弟の影に隠れるはずの姿が、画面にそのまま残り続けていたのだ。まるで彼女だけが、映像という次元の外側に存在しているかのように。
叔父が何かに気づき、小さく息を呑む音がした。そして、全員が同時にそれに気づいた。女は画面に映っているのではない。目の前にあるテレビの「表面」に映っているのだ。つまり、彼女は背後にいる。
次の瞬間、叔父が凄まじい悲鳴を上げた。それを合図にしたように、全員が廊下に向かって走り出した。振り返る勇気など誰にもなかった。外に飛び出した頃には、家族全員が青ざめていて、中でも叔父の顔色は真っ白だった。
「何が見えたんだ?」父が問うても、叔父は震えながら口をつぐむばかり。結局、彼が見たものを誰も知ることはできなかった。
その後、ビデオをもう一度確認したが、あの女はどこにも映っていなかった。もし彼女が映っていなかったのなら、あの時、テレビの「画面」に映った彼女は本当にどこから来たのか?そしてなぜ叔父はあれほど怯えたのか。
さらに不可解なのは、叔父がその四日後に浴室で溺れて亡くなったことだ。長年、霊的な出来事にも冷静だった叔父が、最後に目にしたものとは何だったのか。
あの女の笑みだけが、いまだに鮮明に心に焼き付いている。
(了)