ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

救済の連鎖 r+3840

更新日:

Sponsord Link

これは、ある男性から聞いた話だ。

小学校5年生のある日、通学路の交差点を渡っていた時のこと。視界の端で右折してくる車が急にこちらへ向かってくるのが見えた。衝突までの一瞬、まるで時間が引き延ばされたように動けず、呆然と運転席を見つめていたという。ドライバーの顔までくっきり見えた。焦点が合わず、どこか別の場所を見ているようなその表情。車のエンジン音が異様に大きく耳に残った。

――その瞬間、後ろから何かに突き飛ばされ、転がるようにして歩道に倒れ込んだ。

助かった。だが振り返った視線の先には、自分を突き飛ばした大学生が跳ね飛ばされている様子があった。車が鳴らすクラクション、周囲の悲鳴、自分の叫び。すべてが混じり合い、足元がぐらつく感覚に襲われた。泣きながら近所の家に駆け込み、救急車と警察を呼んでもらった。

その後、大学生は大けがを負い入院した。彼の病室を母親とともに訪れ、礼を述べたとき、ベッドの上で微笑んだ彼の姿が印象に残った。「気にしないで」と言われたが、その言葉が自分を支え続けた。

中学1年生のとき、父親の転勤で山間の町に引っ越した。新しい学校の教室で「お世話になる先生」として紹介されたのは、あのときの大学生だった。お互い驚き、同時に笑みがこぼれた。分校だったため、3年間同じ先生に教わり、別れの時には深い感謝と尊敬を抱いていた。

時は流れ、自分は教育大学に進学し、小学校での教育実習が決まった。その初日、現地へ向かう途中の交差点で、再び異様な光景に出くわした。

小学生の女の子が横断歩道を渡っている。その横を右折しようとする車が迫っていた。運転手はスマートフォンを耳に当て、前を見ていない。嫌な予感が全身を駆け抜ける。かつての記憶が、瞬時に鮮やかに蘇った。

咄嗟に動き出していた。小さな背中を力一杯突き飛ばし、自分が車に跳ね飛ばされる瞬間、ただ思った――「これが、あの時の景色だったんだろうか」と。

目を覚ますと病室だった。顔を上げると、女の子とその両親が見舞いに来ている。両親の顔を見て、全身が震えた。そこにいたのは、中学時代の恩師、かつての命の恩人だった。

「これで借りは返せましたね」と笑って言うと、彼は静かに首を横に振った。

「バカだな。最初から、借りも貸しも無いよ」

カーテン越しにこぼれた夕陽がぼんやりと二人の顔を照らす中、互いに涙を流しながら、静寂の中で同じ感情を共有していた。

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.