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守護の鬼神、玄関に立つ r+4,095

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俺の実家には、なにか“いる”。

いや、正確に言うと「いるらしい」が正しい。
自分には見えない。霊感の欠片もないタチだから。
けど、見える人には――はっきりと見えるそうだ。

身長は二メートルをゆうに超え、肩は門柱のようにゴツく、グラップラー刃牙の世界観からそのまま飛び出してきたような化け物マッチョ。
しかも、直立不動で玄関の土間に突っ立ってるんだと。まるで門番。

その手には、刃の錆が黒ずんだ日本刀。無言で、しかし明確な「拒絶」を纏って立っているらしい。

あまりに異様で、視える知人は皆、うちの玄関を踏むのもためらう。
一度だけ、視える友達を実家に泊めたことがあるが、翌朝、青い顔でこう言った。

「お前んちの入り口、ヤバすぎる。絶対に人間じゃない。通るだけで胃が痛くなる」

俺自身はその「ヤバいもの」を見たことがないし、霊感商法にも興味はない。
ただ、昔から、妙に変なことはよく起きた。

どれだけ怪談めいた場所に泊まりに行っても、うちの家族は全員、平気のへっちゃら。
うちにだけは、悪霊だの呪いだのというものが一切入ってこない。
子どもの頃は「家相がいいのかな」くらいに思っていた。

が、それは間違いだったらしい。

あれは、中学生の頃だった。
親戚の法事で、ふと、普段は開かない床の間の扉が開けられたときのこと。
見慣れない、異様な長さの桐箱が置いてあって、中から黒漆の鞘に納まった日本刀が現れた。

「これがご先祖の刀だよ。由緒正しいものでね」

祖父が嬉しそうに語った。だが、そのとき、ふいに叔母が低く呟いた。

「……その刀、触るなよ。昔、あれ蹴った馬番がミンチになったって聞いたことある」

叔母の話は、静かに、しかしやたら生々しかった。

刀のある床の間でクシャミをしてしまった奉公人が、その数日後に鼻を腐らせて病死。
盗みに入った泥棒が、腕を両肩から引きちぎられたような状態で死体で見つかったこともあるらしい。
質屋に持ち出されたときには、持ち主の息子がその店先で突然、頭を真っ二つに割られて倒れた、と。

誰がそんな怪談を作るんだと最初は笑ったけれど、話を聞けば聞くほど、どれも具体的で、笑えなくなった。
極めつけは、廃刀令の時代。刀を手放そうとした当主が、夢枕に立った鬼に“ボコボコ”にされたという伝承。
軍用刀に加工しようとした職人が、刃を入れた瞬間に自分の手首を斬り落としてしまったという噂。

そのすべてに通底するものがある。
――この刀は、「不快な存在」に対して、容赦しない。

曰く、刀そのものに憑いているわけではないらしい。
本体は、あくまで刀。
けれど、その「刀が宿す凶相」によって創られたものが、実家の玄関に立っている“それ”なのだという。

つまり、うちを守っているのは、刀に宿った妖気が実体化した存在。
刀に魂が宿ったというよりも、魂が刀を媒体にして顕現した“守護鬼神”。

先祖が、それを意図的に生み出したらしい。
曰く――

「これだけ凶相のある刀なら、いっそ守護神に仕立てれば無敵になるのではないか」

……そう考えて、何かしらの怪しげな儀式で具現化させたのだと。
気が触れてるとしか思えない発想だが、実際、それ以降うちの家系は、不自然なまでに“守られて”いる。

ただし、“守護”という言葉が、必ずしも“優しい”ものではないということは、よく理解しておいた方がいい。
そいつは、家のために戦うが、家族の言うことを聞くわけではない。
家の敷地を“穢す者”を自分なりに選別し、勝手に裁く。

まるで、昭和の抗争時代から抜け出せない、暴走族みたいな発想。
それゆえ、俺はそいつのことを「うちの893」と呼んでいる。

さて、そんな我が家の“厄介な守護者”なのだが、近ごろ少し困った問題が持ち上がった。
祖父が高齢のため、近々、実家を処分してうちの隣県に引っ越してくることになった。

当然、あの刀も一緒に運ばれてくる。
ということは――

あの“893”も、俺の家に引っ越してくるということになる。

うちは築三〇年の分譲住宅だ。
仏間もなければ、床の間もない。刀を祀るような由緒もない。
そんな場所に、あいつを置いてしまっていいのか……?
というか、俺の玄関先に、あのマッチョが立ち始めたら……?

視えない俺には、何も感じられないかもしれない。
けど、きっと、何かが……変わる気がする。

すでに引っ越し日が近づいてきている。
桐箱は、祖父の荷物の中に梱包され、ダンボールにまぎれてうちへ運ばれてくる予定だ。

それがどんな変化をもたらすかは、まだわからない。
ただ、もしも――もしもだが。

近いうちに、誰かが俺の家を訪ねてきて、玄関をくぐった瞬間、何かしらの“異変”が起きたら。

そのときは、またここで報告しようと思う。
いや、報告できる状態であれば、だけど。

もし何も投稿がなかったら……そのときは、「ああ、こいつの家、マジでヤバかったんだな」と思ってくれ。

ふふ。ああ、そうだ。

見えない俺には関係ない話さ。
たぶん、ね。

(了)

[出典:52 :本当にあった怖い名無し:2020/04/13(月) 00:42:45.41 ID:OfoDkbxA0.net]

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