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短編 r+ 山にまつわる怖い話

軽装の一団 r+3504

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俺には、趣味らしい趣味が無い。

もしあるとすれば、色んなことに軽く手を出しては飽きてやめる、それを繰り返すのが「趣味」ってやつだろうか。

その頃は登山にちょっと興味が湧いて、関東にあるある山に何度か登っていた。山頂までは1時間ほどで登れるし、コースもいくつかあって手軽に楽しめる山だ。もっとも、登山というより「少し険しい散歩」といった感じだけどな。

一通りコースも踏破して、「ちょっと登山わかったぞ」って満足した矢先、職場の先輩が「登山に興味ある」と言ってきた。ならばと俺は「あの山いいですよ!」と誘い、週末に一緒に出かけることにした。

麓に着くと、先輩の希望で一番「登山らしい」ルートを選び、登り始めた。俺の知識によれば、登山中はすれ違う人と挨拶するのが礼儀らしい。なので俺たちは道すがら会う人々に挨拶を交わして登った。グループには遠慮したが、個人で歩いている人にはほぼ皆返事をくれた気がする。

季節は冬。登り始めたのは14時過ぎで、山の中はもう夕方のような雰囲気が漂っていた。「日が陰るとやっぱり寒いですね」と後ろの先輩に声をかけた時、ちょうど下山してきた一団とすれ違った。

年配の男女5、6人のグループで、地味な帽子にチェックシャツやチノパン姿の、よくある軽装だ。すれ違いの挨拶のタイミングを逃したので黙って通り過ぎようとした時、ふと違和感を覚えた。

誰の顔も、見えないのだ。暗くて見えないとか、のっぺらぼうとか、そういうことではない。視界の中心に顔をとらえているはずなのに、それがどんな顔なのか全くわからない。まるで太陽を直視した後のような、白くも光っているとも言えないあの感じが、全員の顔の位置にあった。

「俺、太陽でも見たんだっけ?」と不思議に思いながらその一団を通り過ぎたが、その後の下山者たちの顔は普通に見えたので、やがて気にならなくなった。

山中のベンチでおやつのガルボを出していると、先輩がぽつりと「お前さ、目おかしくなったりしてない?」と訊いてきた。「いや特に何も」と答えると、先輩は「俺だけかなぁ、脳梗塞の前兆とかじゃなきゃいいんだけど」と心配顔だ。そう言われた時、俺はさっきの「顔が見えなかった」一団のことを思い出した。

「あ、俺もです!あの時、顔見えなかったですよね!変ですよね、見てるのに見えないって!」と話すと、先輩も「あれ、ほんとに何だったんだ?怖えーな!」と不安げな顔で、俺たちはしばらく騒いでから登頂に戻った。

山頂での休憩を終え、下山を始めたのは15時半頃だった。登りと違うコースを選び、夕方も近づき冷えてきた山道を進んでいた。先輩のペースを気にかけつつ、急がせながら歩いていたが、ふと川沿いの湿った岩場に差し掛かった時、不意に「うっ」と声が出た。10メートル先に、さっきのチェックシャツの一団が見えたのだ。登ってくる。確かに、さっきの集団だった。

先輩も明らかに動揺している様子だ。「なんか気味悪いですね、このままスルーで」と心の中で先輩に伝えながら、無言のまま一団とすれ違おうとした。

最後の1人を通り過ぎた時、不意に「こんにちはぁ」とおばさんの間の抜けた声がした。どうやら先輩が挨拶されたようだ。先輩は無言で急ぎ足で俺を追い越し、その後再び後ろから「こんにちはぁ」とおばさんの声が響いた。

『挨拶しないのも失礼だが、あんたたち気味が悪すぎです!』と内心思いながら、振り返ることなく先輩を追った。追いついた時に「さっきの集団気味悪かったですね」と言うと、先輩はいきなり俺の胸ぐらを掴んで顔を寄せ、「なぁ、目の前で見てても顔が、顔が見えなかったんだよ。おかしいだろ」と、涙目で呟いたのだった。

(了)

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