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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

片づけてしまった夜 nw+393-0123

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その晩、私は一人で酒を飲んでいた。

仕事が一段落し、特別な理由もなく、ただ缶を開けただけだった。冬の終わりで、部屋は乾いていた。換気のつもりで、寝る前に少しだけ窓を開けていたのを覚えている。

風が入ったのは、その直後だ。
カーテンがふわりと持ち上がり、音もなく脇へ流れた。留め具が外れたわけでもない。風向きとしても不自然だったが、その時点ではまだ、説明はついた。古い建物だし、夜風は気まぐれだ。

問題は、その先だった。

窓の向こう、庭の照明に照らされて、誰かが立っていた。
いや、立っているというより、影がそこに「できている」ように見えた。

顔を認識するまでに、少し時間がかかった。
二ヶ月前、葬式で棺の前に立ち、泣いたはずの旧友だった。

声は出なかった。
驚いたのではない。理解が追いつかなかっただけだ。
白い照明の下で、そいつは真っ黒な影になり、なぜか中指を立てて、くるくると回っていた。悪ふざけの延長のような動きだった。

棺の中の顔と、目の前の動きがどうしても重ならない。
そのズレが、怖さより先に可笑しさを呼び起こした。喉の奥がひくつき、変な音が漏れそうになる。

「……不謹慎だからやめろ」

なぜそんな言葉が出たのか、自分でもわからない。
怒鳴ったわけでも、冗談を言ったわけでもなかった。ただ、そう言うのが自然だと思ってしまった。

すると、そいつはぴたりと動きを止めた。
そして、深々と頭を下げた。生前と同じ、妙に律儀な仕草だった。

その瞬間、窓が音を立てて開いた。
ガラリ、という乾いた音。冷たい風が一気に吹き込んできて、部屋の空気が変わった。

影は顔を上げ、真顔で言った。
「晩酌しよう」

そこで断れなかったことを、今でも不思議に思う。
怖くなかったわけではない。だが、怖がるより先に、体が動いていた。

冷蔵庫から缶を四つ出した。
数をなぜ四つにしたのかも覚えていない。テーブルに置き、ソファに腰を沈めた。アルミの音が、やけに大きく響いた。

そいつは飲んだ。
私より早く、私より多く。
缶を傾ける動作だけが見え、中身が減っていく感覚だけが、なぜかはっきり伝わってきた。

何を話したのかは曖昧だ。
仕事の愚痴だったか、昔の話だったか。
気づけば、意識が途切れていた。

目を覚ましたのは朝だった。
ソファの上で、身体は冷えきっていた。窓は開いたまま。喉はひどく乾いていた。

会社には電話を入れた。
風邪という言い訳は、半分は本当だった。

庭に出たのは、そのあとだ。
ゴミを片づけようと思っただけだった。

アルミ缶が、積まれていた。
三本、五本、七本。奇数で、きれいに。
塔のように、崩れない配置で並んでいた。

供物、という言葉が浮かんだ。
不思議と嫌な感じはしなかった。ただ、そう呼ぶのが正しい気がした。

一本手に取ると、重みがあった。
中身は六割ほど残っていた。
すべての缶が、同じだった。

計算すると、そいつは私の一・五倍ほどを飲んでいたことになる。
生きていた頃と変わらない。

「死んでまで酒癖直らないのか」

独り言を言いながら、私は片づけを始めた。
捨てるという選択肢は、なぜか最初からなかった。

風邪で汗をかき、頭がぼんやりしている中、残った酒を一缶ずつ喉に流し込んだ。
金属臭と甘苦さが、胃の底に溜まっていく。

そのたびに、背中に気配を感じた。
笑い声のようなものが、皮膚の内側をなぞる。

すべて片づけ終えたあと、庭の隅に円形の跡が残っているのに気づいた。
裸足で踏みしめたような、深い跡。
何かを書こうとして、やめたような形だった。

それ以来、夜に窓を開けなくなった。
だが、一週間が過ぎた今も、缶を開ける音が、背後から声に変わる気がしてならない。

酒を飲むと、どこかで風が動く。
それが本当に風なのかどうか、確かめる気にはなれない。

冷たさの奥に、笑いを堪えたような温もりが混じっているからだ。

私は今も、缶を開けるたびに思う。
また庭に、あれが積まれるのではないかと。

その想像に身震いしながら、
それでも私は、片づける準備をしてしまう。

[出典:622 :本当にあった怖い名無し 警備員[Lv.7][芽]:2024/12/19(木) 01:05:31.27ID:gvmLtlVt0]

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