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短編 洒落にならない怖い話

半紙に書かれた話 rw+591

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この話は、これまで誰にも話したことがない。

掲示板の匿名性があるからこそ、ようやく書ける。

大学最後の夏、サークル仲間と伊豆大島へ行った。
仲間の一人、Uの実家が民宿を営んでいて、私たちはそこに泊まった。

初日と二日目は、王の浜や弘法浜で泳ぎ、夜は酒を飲んで騒いだ。
三日目は三原山を回り、さすがに全員くたくただった。

その夜、なぜか怪談話大会になった。

夜十時を過ぎ、大部屋に六人で車座になった。
中心は当然、地元出身のUだった。
地名が出るだけで、話は急に現実味を帯びる。

時計が十二時を回ったころ、Uはふいに立ち上がった。

「スイカでも食べてて」

そう言って部屋を出ていった。
三十分ほどして戻ってきたとき、Uは半紙を一枚、手に持っていた。

「次の話はマジでやばい」

部屋の電気を消し、懐中電灯で半紙を照らす。

「この話は、昔からこの辺じゃ口に出しちゃいけないって言われてる。だから、本当は紙に書きながら読む。でも、面倒だから一気に書いてきた」

嫌な沈黙が落ちた。

半紙を囲んで覗き込んだが、上下が逆で読めない。
誰かが言った。

「もういいから、口で話してよ」

Uはしばらく迷っていたが、最後はこう言った。

「……責任、持たないからな」

そして、語り始めた。

昔、この島の北の漁港に、ゆきという娘がいたという。

父親は漁師で、母親は幼い頃に海で亡くなっていた。

ゆきは働き者で、飴を売りながら父を手伝っていたが、
十八のとき、重い病を患った。

助からないと分かり、婚約は破談になった。
それから、ゆきは少しずつおかしくなった。

昼夜の区別なく歩き回り、意味の分からないことを呟く。
最初は同情されていたが、やがて人は距離を置くようになった。

ある晩、ゆきは家から消えた。

翌朝、漁師仲間が言った。

「昨日の夜、お前の船で沖に出とっただろ」

父親は否定した。
すると、漁師は首を傾げて言った。

「でも、二人おったぞ」

捜索が始まり、沖で船は見つかった。
船の上には、ゆきがいた。

ただ――
そこにあるはずのものが、なかった。

誰もそれ以上を語らなかった。
人の仕業とは思えない、とだけ言われた。

それ以来、
ゆきの話をすると、ゆきが来る
そう言われるようになった。

凪いだ夜の海から、
白い手が、何本も伸びてくる――

そのあたりから、Uの声がおかしくなった。

抑揚が消え、言葉が溶ける。
何を言っているのか、はっきり聞き取れない。

そして最後に、はっきりと聞こえた。

「……富士の影が、きれいで……」

その瞬間、誰かがUの肩を掴んだ。

「おい、どうした!」

次の瞬間、全員でUを揺さぶっていた。
Uは目を開け、ぼんやりと呟いた。

「……眠い」

そう言って、そのまま眠り込んだ。

部屋には、妙な静けさだけが残った。

気になって、机の上の半紙を見た。
そこには、途中までこう書かれていた。

「それ以来、ゆきはこの話をする人間の元に、」

続きはなかった。

私は半紙を破り、部屋の隅に押し込んだ。

翌朝、Uは何も覚えていなかった。
笑って「そんな話したっけ?」と言うだけだった。

帰り際、どうしても気になって聞いた。

「富士の影って、何かあるのか?」

「富士山の影? たまに海に映るよ。条件が揃うと」

民宿の親も、同じことを言った。

それ以上、誰も話さなかった。

島を出てから、この話を口にできなくなった。

そして去年、祖父の通夜の夜。
私は、祖父の声を聞いた気がした。

男とも女ともつかない声。

そのとき、分かった。

あの夜に聞いたUの声は、
生きている人間の声じゃなかった

(了)

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