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囁かれた死期 ~Life is what you make it~ r+5,596

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賑わいの絶えない週末のショッピングモール。柔らかな照明が商品を照らし、家族連れの楽しげな声がBGMのように響くその一角に、その占い師はひっそりと座っていた。

まるで周囲の喧騒とは隔絶されたかのような、オリエンタルな香りの漂う小さなブース。何気ない好奇心だった。ほんの少し、未来のヒントが欲しかっただけなのかもしれない。吸い寄せられるようにブースに入り、促されるままに手を差し出すと、皺の刻まれた指が私の掌をなぞり始めた。

「……あなたの人生は、ここで終わる」

それは、あまりにも唐突で、あまりにも無慈悲な宣告だった。具体的な年齢を告げられた瞬間、思考は完全に停止した。頭の中でその数字が何度も反響し、現実感を失っていく。目の前の占い師の顔も、周囲の音も、まるで厚いガラスを一枚隔てた向こう側の出来事のように遠のいていく。

ショックで言葉にすることも憚られ、その「年齢」は胸の奥深くに鉛のように沈み込んだ。帰宅してからも、まるで時限爆弾を抱えさせられたような恐怖と焦燥感に苛まれる日々。眠りは浅く、ふとした瞬間にあの占い師の低い声が蘇る。占いは当たることもあれば、外れることもある。それは頭では理解している。けれど、メディアで時折目にする、著名人が占い師に予言された最期を迎えたという話が、暗い影のように心を覆うのだ。この言いようのない不安を、誰に打ち明けられるだろうか。

「そんな占い師、信じちゃダメよ!」

堰を切ったように不安を吐露した私に、友人たちは口々にそう言ってくれた。ある友人は、憤慨したように言葉を続けた。
「死期を告げるなんて、占い師としてあるまじき行為よ。客の心を不安に陥れて、依存させようとする悪質な手口かもしれない。そんな人の言葉に、あなたの貴重な時間を奪われる必要なんてないわ!」

別の友人は、自身の体験を語ってくれた。
「実はね、私の親友も若い頃、あなたと全く同じようなことを占い師に言われたのよ。『あなたは若くして人生を終える』って。彼女、それはもう落ち込んで、一時期は生きる気力さえ失いかけてた。でもね、その宣告された年齢からもう20年以上経つけど、彼女、今もピンピンしてるわよ! それどころか、宣告されたことで逆に火がついたみたい。『いつ死ぬか分からないなら、毎日を後悔しないように生きる!』って、趣味も仕事も全力投球。健康にも人一倍気を使うようになって、今じゃ誰よりもエネルギッシュで、輝いてるわ」
その言葉は、まるで暗闇に差し込んだ一筋の光のように感じられた。

また、ある年配の知人は、苦笑しながらこうも言った。
「ショッピングモールにいるような占い師なんて、そんなものよ。不安を煽って、高価な印鑑だの、先祖供養だのって話に持っていこうとするのが関の山。あなたが青い顔して『どうしたらいいんでしょう』って泣きついてくるのを、今か今かと待ってるんじゃないかしら。だから、気に病むだけ損よ」

それでも、心のどこかで燻り続ける不安の種。そんな私に、ある女性が静かに語り始めたのは、彼女の夫の話だった。
「うちの夫もね、子供の頃に占い師に死期と死因を予言されたことがあったの。『あなたは〇歳で、腸の病気で亡くなる』って。それを彼は生涯、妙な形で信じ込んでいたわ。腸の病気には人一倍気を遣って、食事にも注意していた。でも、その一方で、肺に関しては全くの無頓着。『俺は腸さえ大丈夫なら長生きできるんだ』って、まるで呪文のように繰り返しながら、タバコは一日も欠かさなかった。結果、どうなったと思う? 占い師が言った年齢より10年も早く、彼は肺の病で逝ってしまったのよ。あの占い師の言葉がなければ、彼はもっと自分の体全体に気を配って、もっと長く生きられたんじゃないかって……。あの言葉への慢心が、彼の命を縮めたような気がしてならないの」

彼女の話は、占いの言葉が時に人の行動を歪め、思わぬ結果を招く可能性を示唆していた。そして、さらに別の友人が、自身の母親の思い出を語ってくれた。
「私の母はね、私がまだ幼い頃に大きな病気をしたの。それから何度も再発を繰り返したんだけど、その度に母は言っていたわ。『あの子が成人するまでは、絶対に死ねない』『あの子の花嫁姿を見るまでは、頑張るんだ』って。そして、本当に私が結婚して数年経った頃、母は静かに旅立っていった。まるで、自分の役割を果たし終えたかのように。でもね、今思うの。もし私が、『お母さん、私の子供の顔も見てほしいな』って、もっと先の目標を母に伝え続けていたら、母はもう少しだけ、頑張って生きてくれたんじゃないかって……。人が『ここまで』と心の中で区切りをつけてしまうと、本当にそれが限界になってしまうのかもしれないわね」

彼女たちの言葉は、深く私の心に染み渡った。占い師が告げた「終焉の年齢」。それは、絶対的な未来の宣告などではないのかもしれない。それは、ある種の「可能性」の提示であり、それをどう受け止め、どう生きるかは、結局のところ自分次第なのだ。恐怖に囚われて日々を萎縮させるのか、それとも、限りある時間を意識することで、より輝かせようと努力するのか。

あのショッピングモールの占い師の言葉は、今も完全に消えたわけではない。けれど、それはもう、絶対的な呪縛ではなくなっている。むしろ、それは一つの問いなのだ。「あなたはどう生きたいのか?」と。私は、私の足で、私の意思で、未来へと歩き出す。たとえ、その先に何が待ち受けていようとも、後悔だけはしないように。日々の小さな幸せを大切に、そして、愛する人たちとの時間を慈しみながら。

(了)

[出典:http://ikura.2ch.sc/test/read.cgi/ms/1464310495/]

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