小学校5年生の頃、私たちは探検に夢中だった。
秘密基地という言葉は子供の心を掴む強い魅力がある。私とA君、B君の3人もその例に漏れず、ある日、学校の近くにある山を探検しようと計画した。
その日は平日だったので、授業が終わると一旦家に帰り、その後、第2公園で集合した。私が公園に着いた時には、既に2人は到着しており、私は気合を入れて「行くぞ!」と声をかけ、3人で山に向かった。
その山には何度か入ったことがあったが、その日はまだ足を踏み入れたことのない獣道を進むことに決めた。その山は手入れが行き届いておらず、場所によっては深い森のように鬱蒼としており、人の気配は全く感じられなかった。私たちは興奮と好奇心に駆られて、どんどんと奥へと進んでいった。
獣道に入ってからおよそ10分ほど歩いたところで、突然、ボロボロの廃屋が見えてきた。「おい、あんな家があったのか!初めて見た!」と2人に言い、私たちは恐る恐る中に入ってみることにした。
今でも忘れられないのは、あの廃屋に充満していた独特の腐敗臭だ。土や木、そして水が腐ったような、不快極まりない匂いが漂っていた。「うぇ〜」と声を上げながらも、私たちは居間らしき場所へと進んだ。そこには額縁に入った人物の写真が飾られていた。それは、仏壇に飾られているような先祖の写真を思わせるものだった。
「うわっ、気持ち悪い!」と思わず叫びそうになったが、A君とB君は平然とした表情で立っているので、私も彼らに負けまいと冷静さを装った。
しかし、廃屋の中はただならぬ不気味さを感じさせた。3人でその空間を静かに歩き回っていると、静寂の中、突然耳元で「ぉぃ……」という低い声が聞こえた。その瞬間、全身が凍りつき、「まずい、怒られる!」と直感的に思った私は、「すみません!勝手に入ってしまい申し訳ありません!」とその場で頭を下げた。しかし、何の反応もない。
「あれ?」と思い、顔を上げかけたとき、視界の端に人の足が見えた。ゆっくり顔を上げると、そこには目の細い老人が困惑したような表情で立っていた。「危ないよ、こんなボロ屋に入っちゃダメだよ」と優しく諭された私は、「すみません!みんなで探検していたら、ここを見つけて……」と必死に言い訳をした。
すると、その老人はさらに困ったような表情を浮かべて「みんなで?みんな?」と不思議そうに聞いてきた。「はい、こいつらと……」と言いかけて振り返ると、そこにはA君もB君もいない。『え……あれ?2人とも帰ったのかな?』と混乱する私に、老人は「あなたが獣道を歩いているのが見えたので、危険だと思って追いかけてきたんだ」と説明した。
どうやら私は、一人で廃屋に向かっていたらしい。その事実を聞いた私は混乱したまま家に帰った。確かに、3人で待ち合わせて山に行ったはずなのに……。次の日、A君とB君に聞いてみることにした。
「昨日、なんで途中で帰ったんだよ!あの廃屋、結構怖かったんだぜ?」
しかし2人は、「昨日?」「昨日は塾だったし、そもそも遊ぶ約束なんてしてないよ?」と答えた。
「あれ?おかしい……」と思っていると、A君が「だって俺もBも水曜日は習字教師の日だし、水曜日に遊ぶことなんてないじゃん」と言った。そうだ、水曜と金曜は習字と硬筆の日だった……じゃあ、私は誰と遊んだのか?昨日一緒にいた2人は一体誰だったのか?どんな顔だったのか?何も思い出せない。
「じゃあ、今日もう一回そこに行ってみる?」とA君が提案し、B君も頷いていた。しかし、私は正直、もう行きたくなかった。「いや……やめとくわ」と言って、その誘いを断った。私が動揺しているのは明らかで、2人も何かを察したのか、それ以上は何も言わなかった。
その後、あの廃屋をもう一度探しに何度も獣道に入ったが、結局見つけることはできなかった。あの日以来、あの廃屋について2人に話すことはなかった。嘘つき呼ばわりされたくなかったからだ。
それよりも……あの2人よりも、もっと気になるのはあの老人の正体だ。
あの老人は一体何者だったのだろう?今でもその謎は解けていない。
[出典:809 :本当にあった怖い名無し:2021/07/07(水) 11:13:00.18 ID:GoFby9dg0.net]