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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

人数の欄は空白 nc+

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夏山開きの直前になると、必ず一通の案内状が届く。

山奥のその小屋は、年に四ヶ月ほどしか営業せず、残りの八ヶ月は完全な無人になる。

夏でもスキーができるほどの場所で、以前は小屋の周囲から雪が消えることはほとんどなかった。最近は温暖化のせいか、さすがに万年雪も痩せてきたらしいが、それでも地面が露わになることは稀だった。

ずいぶん前の話だが、俺は一度だけ、その小屋の店開きを手伝ったことがある。
営業再開の数日前、主人と二人で登った。

「まずね、出てってもらわなきゃあ」

小屋に入るなり、主人はそう言った。
冗談めいた口調だったが、言葉の選び方が妙に具体的で、冗談とも言い切れなかった。

「残ってると、やっぱり気持ち悪いからね」

彼はそう言いながら、部屋を一つ一つ回り始めた。
畳敷きの寝室、板張りの個室、物置同然の予備室。
それぞれの入口で立ち止まり、低く、だがはっきりと声をかける。

「今年は始めるからね」
「もう大丈夫だから」

誰に向かって言っているのか、聞くまでもない。
無人の間、小屋を預かっていた何かに、立ち退きを頼んでいるのだろう。

窓をすべて開け、布団を外に運び出す。
避難小屋代わりに使われた形跡があちこちに残っていた。
ガス缶、空の食料袋、破れかけた地図、折れたポール。
忘れ物をまとめていると、同じ大学名が入った装備がやたらと多いことに気づいた。

「見たことないけど、たぶんね」
主人は前置きしてから言った。
「マナーが悪いと、脅かされるんじゃないかな。で、慌てて逃げる。だから忘れ物が多くなる」

確かに、大学の山岳部のように装備管理に厳しい連中が、ラジウスやグランドシートといった重要な物をいくつも置いていくとは考えにくい。

「忘れ物の多い学校は、たいがい二度と来ないんだ」

彼の言葉は、長年の経験に裏打ちされているようだった。

「お前さんは、脅かされないの?」

俺がそう訊ねると、
「やられてるのかもしれないけど、俺、霊感無いから」
そう言って笑った。

その日の夕食は大皿料理だった。
飯もおかずも山盛りで、卓上には小皿がいくつも並べられている。
山小屋にしては妙に豪勢だった。

「今年の小屋守、何人か分からないんだよ」

主人はそう言って、飯を茶碗に盛らなかった。
炊飯釜の蓋を開けたまま、大皿のまま置いてある。

「分かれば、ちゃんと分けるんだけどさ」

俺は首を振った。
何人いるかと聞かれても、そんな感覚はどこにもない。
ただ、小屋の中に空気が溜まっている感じがした。
誰かの視線でも、気配でもない。
音の抜け道が塞がれているような、妙な圧だけが残っている。

食事中、何度か奇妙なことがあった。
誰も触れていない小皿が、いつの間にか位置を変えている。
箸が一本だけ、畳の上に落ちている。
だが、落ちた音は聞いていない。

主人は気づいていない様子で、淡々と飯を食っていた。
笑いながら、昔の登山者の話をする。
途中で何度か言葉が途切れたが、考え事をしているようには見えなかった。

夜、布団に入ると、小屋の外で風の音がしていた。
万年雪を撫でるような、一定の音だ。
途中で何度か、床板が鳴った。
歩く音ではない。
重みだけが、点々と移動する感じだった。

翌朝、外に出て息をのんだ。
小屋を囲む万年雪に、はっきりとした足跡が続いていた。
一列ではない。
重なり合い、数も分からない。
山を下る方向へ、途中で消えることもなく、淡々と続いている。

「出てったね」

主人はそれだけ言った。
足跡の数を数えようとはしなかった。
俺も数えなかった。
数えられる気がしなかった。

案内状は、今年も同じ文面で届いた。
店開きの日付と、注意事項。
人数の欄だけが、最初から空白のままだった。

[出典:78 :全裸隊 ◆CH99uyNUDE :2005/07/23(土) 06:59:35 ID:p6AlAS5F0]

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