焚き火を囲んでいたら、来た。
長野県の、スキーバスが転落した湖のほとり。
事故から何年も経っていて、場所も対岸側だったから、
「まあ大丈夫だろう」と、バーベキューをした。
片付けが終わって、残り火の周りに何人かでしゃがみ込み、
ただ火を見ていた。
そのとき、
「うわっ」と思って、反射的に飛び退いた。
同時に、隣でしゃがんでいた娘も、
自分とは反対側へ、ぴょんっと飛んだ。
驚いて顔を見ると、娘が言った。
「夏なのに、スキーの服着た人が、
後ろからトコトコって来て、
ここに、スッてしゃがんだ」
自分が見たものと、同じだった。
娘は引っ越してきたばかりで、
この湖で昔、事故があったことを知らない。
当時はテレビでも散々やっていたはずだが、
子どもだったし、地元でもない。
自分は、とっさにこう言ってしまった。
「寒かったんだね。
楽しそうだし、一緒に温まりたかったんだね」
次の瞬間だった。
火を囲んでいた残りの全員が、
一言も発せず、
脱兎のごとく逃げ出した。
振り返る者はいなかった。
気配は、すぐに消えた。
ただ、火を片付けたあと、
灰の輪が、ひとり分だけ、妙に崩れていた。
あの場所では、
焚き火は、しない方がいいと思っている。
(了)