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短編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

足の悪いお婆さん【ゆっくり朗読】5200

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心霊などの類ではないけど怖かった話をします

実体験です。

鳥肌って頭の先まで立つんだと初めて知ったよ……怖かった……

僕は以前、車の営業をしていました。一日に50~70件のお宅に行って、色々話しをしていたわけです。

あれは夏でした。

朝から暑くても何軒も回って車の査定をさせてもらったり、しないといけないのですが、暑いのはお客さんも一緒で、たいてい門前払いです。

ていうか、うっとうしいのが先なんでしょうけど。

で、これじゃあ帰って叱られるのでマズイと思って、アパートへ行って数をこなそうと思いました。

ある階のチャイムを鳴らしました。

中から「どうぞ~」と言われたのですが、営業マンは自分からお客さんのドアを開けることをしません。

勝手に開けたら文句を言われることもあるからです。

開くのを待ちましたが「どうぞ~」と言うばかりで一向に開かないので、失礼かなと思いながらも自分で「失礼します」と言って開けさせてもらいました。

クーラーがガンガンに掛かっていました。

僕は(すずし~)と思っていると、おばあさんが人魚のような体制で、手だけの力で玄関まで出てきてくれました。

ほふく前進の横バージョン。

どうやら足が良くない様子。

僕はちょうど暑かったし、お年寄りの話は割と好きなので、涼みがてらにおばあさんの話を聞こうと思いました。

「この家のご主人様ですか?」と尋ねると

「いーや、息子は今、…ごとぇ、…てる」

聞き取りにくい話し方をするおばあちゃんでしたが、ここの主人は息子さんで、今は仕事に出ているという事はわかりました。

その後も、まあ聞き取りにくいながらも話をしていました。

で、お婆さんの足の事が気になって、悪いかな?と思いつつも

「足はどうされたんですか?」と聞いてみると

「前のぃえが、…じになって、二階が落ちてきた!」

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コレを聞いたとき、あーやっぱり聞くんじゃなかったと思いました。

おばあさんは前の家が火事になり二階が崩れて足を痛めたらしいのです。

悪いこと聞いたなと思いつつも成り行きで話のいきさつを聞くことに……

火事になったからこのアパートに引越してきたこと、足が悪くなったのもすべては火事が原因だと……

僕はお婆さんが、なんだかかわいそうに思えてやりきれない感じになっていると、お婆さんは僕を見ながら、マッチを擦るような動作をし始め、

「わ…が…を…つ…た」といったのです。

僕は頭から冷水をかけられたような感覚になりました。

お婆さんは確かにこう言いました。

「わ し が 火 を つ け た」

(了)

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