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土蔵のうしおとこ r+13,790

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「牛の首」というタイトルの話があると聞き、昔、奈良のひいじいちゃんから聞いた話を思い出した。

戦前のことだ。

祖父の形見分けで蔵の整理をしていたら、古びた手帳が出てきた。墨で書かれたくすんだ筆跡に、聞き覚えのある地名がいくつかあった。
――矢尻村。馬坂村。
そこに綴られていたのは、父からも祖母からも決して聞かされなかった、忌まわしい一連の事件だった。

おれの生まれた家は、かつて矢尻村にあった。いや、今ではもうその名を地図で見つけることはできない。昭和二十年代、地名ごと消されたと聞いた。
それもそのはずだ。
この村には、おぞましい真実が封じ込められていた。

馬坂村という隣村が、川と森を越えた先にあった。山をいくつか越える必要があったから、物理的にも精神的にも「越えられぬ場所」という印象があった。
村人たちは、馬坂村を「あの村」と呼び捨て、忌み嫌っていた。差別と偏見は常態で、誰もそれを咎める者はいなかった。そう教えられて育った。

ある朝、矢尻村で牛の死体が見つかった。
首がなかった。
しかもその切断面が異様だった。獣が噛みちぎったのではない。鈍くさく、何度も何度も、意図的に切り裂かれた痕だったという。
村人たちは気味悪がって、牛の死骸をすぐに焼いた。

……が、これが始まりだった。
二頭、三頭、四頭と、首なしの牛が立て続けに見つかった。
村は騒然となり、「あの村の連中がやったに違いない」と馬坂村を糾弾する声が上がった。

一方、馬坂村でも妙なことが起きていた。若い女が、一人、また一人と行方不明になっていた。
馬坂の者たちは「あの矢尻の奴らがさらっている」と言い立て、疑心と憎悪が両村を覆った。

そんなある夜のことだった。
川に架かる橋の上で、馬坂の男たちが四人一組で見張りをしていた。
見張りの当番だったという老人から、わたしは幼い頃、一度だけその話を聞いたことがある。

――月が雲に隠れていた。風も止まり、獣の鳴き声さえなかったという。

闇の中、誰かがふらふらと矢尻村の方から歩いてきた。
最初は酔っ払いかと思ったらしい。
だが、近づくにつれ、そいつの異様さに気づいた。
裸だったのだ。下半身を不自然に昂らせ、よだれを垂らしながら歩いてくる。
そして――頭が、牛だった。

生々しい血に濡れた牛の生首を頭にかぶった、全裸の男。
四人のうち一人が叫び声を上げると、牛頭の男は森へ逃げこんだ。

翌朝、矢尻村でも同じような目撃情報があがった。
牛頭の男。
矢尻と馬坂、双方が恐れおののき、両村の有志が協力して森を探した。
……その日、男は見つからなかった。

だが、数日後、矢尻村の有力者の手によって、男は密かに捕らえられていた。
男の頭を剥いでみると、それは本物の牛の生皮をかぶっていただけだった。
その下から現れたのは、村の権力者のひとり息子――知的障碍を抱え、三十近くになっても何をしているのか分からないような男だった。
名は「良太」といった。幼い頃、一度だけ遊んでもらった記憶がある。口元がいつも濡れていて、何かをぶつぶつ唱えていた。

父親は男に詰め寄ったが、「さんこにしいな。ほたえるな。わえおとろしい。いね……いね……」と意味不明のことばを繰り返すだけ。
誰も、理解できなかった。

屋敷裏の山を調べたところ、焚き火跡のある洞穴で、複数の女の遺体が発見された。
首が切られ、その胴体には牛の頭が縫い付けられていた。
死後、牛の頭と「すげ替え」られていたのだ。
更に驚くことに、遺体には生々しい性交の痕跡があったという。

――女をさらい、首を切り、牛の首をつけて交わる。
良太は「うし女」にしか欲情できなかったのだ。

父親は発狂しかけたらしい。
自ら手下を使って遺体を焼き払い、証拠を消し、村の者たちに金と脅しで口封じをした。
村に駐在していた警官も、金で買収された。
そして良太を屋敷の土蔵に閉じ込め、その存在自体を世間から抹消した。

だが、あの橋の見張りをしていた四人は、真実を受け入れなかった。
「牛頭の男がいなかったことにされている。ふざけるな」
四人は馬坂村を代表して、警察に訴えに行こうと決意した。

――それが、最後だった。

翌朝、橋の上に四人の生首と、四頭の牛の首が並べて置かれていた。
矢尻村がやった。真実を知る者に口を開かせぬよう、私刑にしたのだ。
牛の首を添えたのは、事件の犯人に仕立て上げるため。
「牛殺しは馬坂村の四人がやった」
そんなデマを流し、他の村人をも黙らせるためだった。

その見せしめの効果は絶大だった。
矢尻村も馬坂村も、この事件について誰も語ろうとしなくなった。
語った者は殺される。皆そう思った。

それ以降、土蔵に閉じ込められた良太のことを語る者はいなくなった。
村ごと、沈黙したのだ。
やがて村は過疎となり、統廃合で名前が消された。

……手帳の最後のページに、奇妙な文章が書かれていた。

「今も夜な夜な、土蔵の奥から、牛のような鳴き声がする」
「ほたえるな。いね……いね……と、あいつが呻いている」
「でも、誰も土蔵を開けようとはしない。村が、再び喰われるから」

蔵を整理していたはずなのに、いつの間にか身体が震えていた。
ふと外を見ると、畑の向こうに、小さな祠が見えた。
その奥、竹藪の中に、土蔵のようなものがある気がした。
それが……何なのか、まだ、確かめていない。

(了)

[出典:752 : ◆sAOE2TjSXU :2003/07/29 22:42]

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