2004年。激務薄給の仕事を辞めた俺は、しばらく抜け殻のような生活をしていた。
376 :本当にあった怖い名無し:2012/09/24(月) 20:25:43.73 ID:SAQyqtyT0
やること無いし、金も無いしで、俺はよく近所の大きな公園を散歩していた。
数ヶ月ほぼ毎日通っていたら、公園にいるホームレスのおじさんと知り合いになった。
そのおじさんは、みすぼらしい格好はしていたものの、言葉遣いは紳士的で俺の知らないような知識も豊富だった。
ホントに色んなこと知ってて、地理・歴史・政治・経済・哲学・数学なんでもござれ。
話の内容を家でググるとどれも確かにホントだった。
いつしか俺はそのおじさんと話するのが唯一の楽しみになっていた。
出会って半年位したある日、俺はおじさんが好きだというワインとチーズを持っていった。
とても喜んでくれて、俺も嬉しかったしとても楽しい会話をしていたんだが、宴もそろそろ終わりという頃、唐突におじさんが真顔になってしゃべり始めた。
「正木くん、君はやさしいね」
「別にそんなことないですよ」
「いや、正木くんは誰とでも分け隔てなく接することができる。これは、誰もが出来ることじゃないんだ」
「違いますよ。おじさんだからこうして話しが出来るだけですよ。誰とでもは出来ないです」
「うん。でも君は、君が思っている以上に、人に偏見がない。それは、とても尊いことで、私は君のそういうところがとても気に入ってるんだ」
「……まあ、よく分かりませんけど、ありがとうございます」
「君のおかげで、私も久しぶりに人間らしい会話ができた。お礼がしたい。これから言うことを真面目に聞いてくれるかな?」
「お礼?いや、されるほどのことなんてしてないですけど、話は聞きたいです」
こんな意味合いと調子の会話だったと思う。
その後の話は、はっきり言って、かなりぶっ飛んでいた。
会話調で書きたいんだが、長いので以下要点をまとめる。
まず端的に言うと、おじさんには未来が見えるらしい(能力について)
・おじさんにはイメージ映像として未来が少し見える。
・その能力のせいで人生失敗した。
・どこでいつ誰がどうなるという程、正確に見えるわけではない。
・大震災とか大事故、戦争のような大きな事象なんかは凄惨な映像が浮かんでくる。
・その事象が近づくにつれ、映像はより鮮明になってくる。
・映像の鮮明具合で、ズレることもあるらしいが、おおよそ時期が分かる。
・身近な人やよく行く場所などの未来も見える。
俺について
・間もなく就職できる(早けりゃ今月くらいと言われた)
・しかし離職する(時期は言わなかったが、見切りも必要と言われた)
・近いうち結婚する(二年以内)←当時彼女なし。ないない!と俺は笑ってた。
・しかし離婚する(時期は言わなかった)
・手を怪我する(来年。多分骨折)
大きな事象について
・大きな列車事故が起きる(一年以内。凄惨で死者十や二十では済んでそうにない)
・大きな地震で津波がくる(十年以内。かなりでかい津波。場所がわからん。千葉?静岡?)
・日本で戦争が起こる(三十年以内。大きな海戦。中国?ロシア?)
……大体こんな感じ。
お礼になってるかどうかはともかく、その予想がどうなったかというと俺については一つを除き全て当たった。
……と思われる。
・俺はその一ヵ月後にトントン拍子で、割と希望するところに就職。
・離職はしていない。←ここがはずれた。
・結婚はした。一年後、周囲に押されるような形でしてしまった。
・離婚した。三年後、嫁の浮気が発覚。
・右手を骨折。結婚直後に、酔っ払って転倒。
ただ、離職もしそうにはなった。
入社してすぐに直属の上司に嫌われて、三ヶ月……ノイローゼ状態で辞める寸前だった。
でも無職の苦しさを知っていた俺は、それこそ石にかじりつくように耐えた。
そしたら、直属の上司が転勤。なんとか持ち堪えた。
大きな事象については多分、二つは当たった……と思われる。
俺がおじさんから話を聞いたのは、2004年の秋。
列車事故というのは、2005年4月の福知山線脱線事故のことだと思う。
地震と津波については、みんなの想像通り東日本大震災だと思う。
戦争については、まだ起きていない……?と思ってる。
おじさんは翌年の春頃までその公園にいたが、急にいなくなった。
就職してからというもの平日は帰りが終電近くとなり、土日も大体出勤。
何よりノイローゼ気味で、自然と公園から足が遠のいた。
それでも暇を見つけてはたまに行って、他愛無い話しをしていたんだが、一ヶ月ぶりくらいに行った花見真っ盛りの時期に、忽然と姿を消した。
今、中国とのキナ臭い報道が増えて、実は少しビビッてる。
戦争……?なんてことがよぎり、色々思い出して誰かに聞いてほしくてたまらなくなった。
あと、おじさんが今どうしてるかなぁ?と気になってる。
人柄が好きだったし、きれいにすれば白髪の英国風紳士で素敵だったと思う。
一度でいいからまた会って話がしたいな……
(了)