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2004年、激務薄給の仕事を辞めた俺は、しばらくのあいだ、時間だけが余っている抜け殻のような生活をしていた。

朝起きても行く場所はなく、金もない。テレビをつけても頭に入らない。気がつくと、ほぼ毎日、近所にある大きな公園をあてもなく歩いていた。

季節が一巡する頃、その公園にいつもいる一人の男と顔見知りになった。年の頃は六十代半ばだろうか。段ボールと毛布で寝泊まりしているらしく、いわゆるホームレスだった。ただ、身なりこそ汚れていたが、背筋が伸び、言葉遣いは妙に丁寧で、どこか育ちの良さを感じさせた。

会話をするようになって驚いたのは、その知識量だった。地理、歴史、政治、経済、哲学、数学。こちらが適当に振った話題に、淀みなく返してくる。しかも曖昧なことは言わない。家に帰って調べると、話していた内容はほとんど事実だった。

いつしか俺にとって、その男と話す時間だけが、一日の中で現実を感じられる瞬間になっていた。

出会って半年ほど経ったある日、俺は少し背伸びをして、男が好きだと言っていたワインとチーズを持っていった。男は心底うれしそうに笑い、普段より饒舌だった。日が傾き、人もまばらになった頃、男は急に黙り込み、俺の顔をじっと見た。

「正木くん、君はやさしいね」

唐突だった。俺は否定したが、男は首を振った。

「誰にでも同じように話す。これは簡単なようで、できる人は少ない」

礼を言うと、男はさらに続けた。

「だから、少しお礼がしたい。これから話すことを、冗談だと思わず聞いてくれるかな」

その口調は、冗談を言う人間のそれではなかった。

男は、自分には未来が見えると言った。夢のように断片的な映像が浮かぶのだと。具体的な日時や場所は分からない。ただ、近づくほど鮮明になる。大きな出来事ほど、映像は強く、重く残る。身近な人間や、自分がよく行く場所の未来も、ぼんやりと見えることがあるらしい。

その能力のせいで人生を誤った、と男は言った。信じてもらえず、怖がられ、距離を置かれ、最後にはここに流れ着いたのだと。

そして男は、俺の未来について話し始めた。近いうちに仕事が決まること。結婚すること。別れること。手を怪我すること。言い方は穏やかだったが、どれも断定的だった。

さらに、個人ではどうにもならない規模の話にも触れた。多くの人が死ぬ事故。地面が割れ、海が押し寄せる光景。遠い未来、日本の周囲がきな臭くなること。

俺は半分笑いながら聞いていた。酒の勢いもあったと思う。ただ、不思議と否定する気にはなれなかった。

それから、男の言葉のいくつかは現実になった。仕事は決まり、結婚し、別れ、右手を折った。すべてが完全に一致していたわけではない。外れたものもあった。だが、思い返すと「外れた」と言い切れるのか、自信がない。

俺は一つだけ、男が言った通りにしなかったことがある。それは、仕事を辞めるという話だった。追い詰められながらも、歯を食いしばって踏みとどまった。その結果、状況は偶然好転した。少なくとも、そう思っている。

ある時期から、仕事が忙しくなり、公園へ行く回数は減った。久しぶりに訪れた春の日、男の姿はなかった。翌日も、次の週も、現れなかった。周囲の誰も、男がいたこと自体を気にしていないようだった。

最近になって、ニュースを見るたび、ふとあの会話を思い出す。男が見ていた映像は、すでに過去のものなのか、それとも、まだ先にあるのか。そもそも、俺が今こうして生きている選択は、本当に自分のものだったのか。

もし、あの時話を聞いていなければ。もし、知らないままでいられたら。そう考えると、胸の奥がじわりと冷える。

あの男が今どこにいるのかは分からない。ただ一つ確かなのは、俺はもう、何かを「知らなかった頃」には戻れないということだ。

あの公園を歩くたび、誰かに話しかけられる気がして、足が止まる。振り返っても、誰もいない。それでも、次に声をかけられたら、きっと俺はまた立ち止まってしまうのだと思う。

[出典:376 :本当にあった怖い名無し:2012/09/24(月) 20:25:43.73 ID:SAQyqtyT0]

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