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裏S区:嗤う人々~アナザーストーリー・後日談 r+15,166

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※註:もとのお話『裏S区』を読んでいない方は、最初にこちらからお読み下さい。
⇒ 『裏S区』もとの話

これは、俺自身の体験ではない。ただし、その話を語った友人が嘘をつくような人間ではないため、事実として記録しておきたい。ただし、他人の体験談を元にしているため、本当に起きたことかどうかは判断できない。

きっかけは、俺自身の不思議な体験をS区出身の友人・耕一(仮名)に話したことだった。「お前の話に似たような体験を、俺もしたことがある」と彼が語り始めたのだ。その内容は、俺の話と酷似している部分もあれば、まったく異なる部分もあった。以下は、その耕一の体験談である。

まず、耕一という男について説明する必要がある。中学時代からの知り合いで、高校も同じだった。もっとも、俺が引っ越すまではそこまで親しい間柄ではなかった。大学生になり再会してから、再び交友が始まった。彼には、霊的な体験談がいくつもあった。ただ本人は「全然怖くないことばっかり。むしろ変な事件が多い」と笑い飛ばしていた。

例えば、大学時代には女のストーカーに付きまとわれたという。ただし、このストーカーは耕一本人ではなく、彼の住んでいた部屋そのものに異常な執着を示していたらしい。耕一は「正直、それは怖かった」と語った。

また、彼が借りていた部屋の近くで起きた殺人事件についても不思議な話があった。その事件の発覚前夜、耕一は夢の中で殺されたはずの人間と遭遇。その人物が現れた時刻と死亡推定時刻が一致していたという。この話は真偽不明だが、奇妙ではある。

さらに、ある時には風俗店で耳をいきなり噛まれ、「あーああーあー」と意味不明な音声を耳元で囁かれた経験もあったそうだ。最終的に、周囲から「お前は何かに取り憑かれているのではないか」と言われ、神社でのお祓いを勧められたが、神職者に拒否されたという。これは彼の彼女が証言しているため、事実のようだが、どこか疑わしさが残る話でもある。

耕一の話を聞いていると、どれも現実離れしているようで、どこか真実味もある。彼の話に耳を傾けるうちに、舞台となる「裏S区」の特異性が浮かび上がってきた。

S区は海と山に囲まれた地域で、表側と裏側で文化や生活環境が大きく異なっている。裏S区には鉄道が通っておらず、住民が隣町へ行くにはバスや車を使ってわざわざ表側のS区に出なければならない。そのため、裏S区の住民は自分の地域から出たがらず、コミュニティ内の結束力が非常に強い。反面、「排他的」であるとも言われている。

俺自身、裏S区の住民の排他性を感じたことがあった。高校時代、俺が同級生の清助(仮名)にいじめられていたとき、クラスの半数以上が裏S区出身者だった。彼らは俺に助けの手を差し伸べるどころか、「そこに俺は存在していない」かのような態度を取っていた。一方、S区出身の友人たちも、裏S区の人間を恐れてか、俺を助けようとはしなかった。

裏S区は田舎と呼ぶにふさわしい地域だった。ヤンキーと呼ばれる若者が多く、タバコや酒に加え、シンナーを吸っている者までいると聞いた。俺の高校にはそういった輩はいなかったが、裏S区の学校に通うS区出身の友人から聞いた話だ。その高校は学力的に低く、そうした人間が集まりやすい環境だったのかもしれない。

俺が清助にいじめられていた時、裏S区の連中が見せた無関心の理由がどうしても腑に落ちなかった。教室の後ろで俺が殴られている時さえ、彼らは弁当を食べたり談笑したりしていた。

それがただの傍観や無視ではなく、「そこに俺が存在していない」かのような態度だった。S区出身者ですらちらちらと様子をうかがっていたのに、彼らは完全に平然としていた。

これについては、後にいろいろな話を聞いた中で気づいたことがある。裏S区には古い家系が多く、その中には霊的な存在を「視る」ことができる者もいるという。そして「見える者」は、その存在に対して無視することが最良の対応と教えられるらしい。

もし俺についていた何かを見ていたのだとしたら、彼らの態度も理解できる。だが、それが本当なのかどうかは今も分からない。

ここで耕一の話に戻る。ある日、彼は裏S区出身の友人・喜一(仮名)の家に初めて泊まりに行った。この体験が、彼にとって生涯忘れられないものとなった。

耕一はS区出身ではあるが、実際には小学生の時に福岡の都会から引っ越してきた。そのため、S区でさえ「田舎」と感じていた。だが、初めて裏S区に足を踏み入れた彼にとって、その光景は想像を超えるものだった。

高校の放課後、喜一の家に向かうためにバスを利用したが、まずその運行本数の少なさに驚いた。40分に一本程度、時間帯によっては1時間に一本というペースだった。しかも隣町の都会へ行くよりも時間がかかる。料金は安かったが、利便性の悪さを嘆いていた。

バスに揺られることしばらく。車窓から広がるのは一面の田畑で、家はぽつぽつと点在する程度だった。さらに、途中から不快な臭いが鼻をつく。「この臭いなん?」と耕一が尋ねると、喜一は「家畜の臭いや」と答えた。

牛や豚を飼っているためだという。臭いのことを文句にすると「余計なことを言うな」とたしなめられた。彼らは裏S区独自のコミュニティに強い誇りを持っており、外部の人間の批判に敏感だった。

バス停から降りて10分ほど歩いた先にあった喜一の家は、耕一にとってさらに衝撃的だった。木造の平屋建てで、外観がどこか黒っぽい印象。家の玄関には御札がびっしり貼られており、不気味さを感じざるを得なかった。

家の中に入ると、臭いは少し和らいだが、完全には消えなかった。喜一の母親は気さくな人で、ジュースやおやつを用意してくれたが、その親切さがどこか居心地の悪さを際立たせた。

部屋に案内された耕一は、喜一の兄とも顔を合わせた。兄は陽気で面白い人物だったが、その夜の出来事を聞くと、彼の振る舞いの裏にある何かを感じざるを得なくなる。
夕食の場では、さらに不思議な雰囲気が広がった。喜一の父親が調理するために鶏を屠殺する様子を目の当たりにした耕一は、都会育ちゆえのカルチャーショックを受けたという。その一方で、料理は絶品だったらしい。

食事中の会話で、「××××」という謎の存在について触れられた。耕一がその意味を尋ねると、喜一の父親は突然怒りを見せ、「お前は余所者やから知らんでええ。二度とその名前を口にするな」と警告した。家族全員がその名前について特別な意味を持たせている様子に、耕一は緊張感を覚えた。

夜になると、喜一とその兄、さらに兄の友人たちが集まって遊ぶことになった。その中には源という男がいて、彼の話から「××××」という存在が地域に深く根付いたものであることがうかがえた。彼らが向かった霊媒師の川前という人物の家で、耕一はさらなる異様さを目の当たりにする。

川前の家では、源の兄が「霊に取り憑かれている」と信じる大人たちが集まり、奇妙な儀式が行われていたという。だが、耕一たち若者は途中で追い出された。その際、大人たちの笑いながら怒るという態度が、耕一に強い違和感と恐怖を与えた。怒りと笑いが同居する表情は、普通の人間とは思えない異質さを放っていた。

その夜、耕一は金縛りに遭い、さらに不安を募らせた。ただし、霊が現れるわけでもなく、彼が感じたのは単なる身体の不自由さだった。それでも、暗闇と異様な環境が、彼の恐怖を増幅させていった。

翌朝、耕一はどこか落ち着かないまま朝食をとった。喜一の両親はすでに外出しており、兄も部屋から出てこない。そんな中で、耕一と喜一はこの後どう過ごすか話していた。

そこへ一本の電話が入った。喜一が受話器を取り、兄を起こしに行く。兄が電話を受け取ると、内容は思いのほか深刻なものだった。電話を終えた兄が言った言葉は、耕一の心に冷たい衝撃を与えた。

「源の兄貴が死んだ。通夜と葬式の準備せんといかんけん、今日はもう帰れ。」

突然の話に驚きつつも、耕一は状況を受け入れるしかなかった。急ぎ帰り支度を整え、喜一の家を後にした。

バス停でバスを待つ間、喜一が耕一に小声で話しかけた。

「悪いな、急で。でも、お前に頼みがあるんや。」

「なんだよ?」

「バスが川前さんの家の前を通る時、笑え。」

「は?何言ってんだよ。」

「いいけん、笑えよ。この地域の人間は、死んだ人間を笑顔で送るんや。悲しい顔しとると、霊が憑いてくるけん。」

その言葉に、耕一は困惑を隠せなかった。理屈では理解できても、心情的には納得できるものではなかった。しかし、隣にいた年配の女性が会話に加わり、さらに奇妙な言葉を投げかけた。

「こっちの神さんと、あんたらの神さんは違うんよ。知らんけんて舐めたら食われるけん。」

その迫力に圧倒され、耕一はしぶしぶ「笑うよ」と約束した。

バスに乗り込み、少し走ったところで車内の空気が急に変わった。耕一は後ろの席に座ると、周囲の人々が自分を睨んでいるような気がした。そして突然、誰かが笑い出した。それは徐々に広がり、車内の全員が笑い声を上げ始めた。

「あははは」「はははは」

その笑い声はどこか狂気じみており、目は笑っていない。それどころか、怒りを湛えた目で笑っているようにも見える。この異様な光景に、耕一は震えながら窓の外を見た。

バスが川前の家の前を通り過ぎる瞬間、外には喪服を着た人々が集まっていた。彼らもまた、声を上げて笑っていた。涙を流しながら笑う者、怒りの表情を浮かべながら笑う者。その光景は現実離れしており、耕一はただ呆然と座るしかなかった。

その後、バスが川前の家を通り過ぎると笑い声はピタリと止み、車内は元の静けさを取り戻した。しかし、耕一の恐怖は消えなかった。バスの運転手が笑顔で「これが普通けん」とつぶやく声が耳に残った。

その日の出来事以来、耕一は喜一や裏S区の人間とは一切関わらなくなった。だが、避け続ける中でも、裏S区の人々が放つ独特の空気や笑い声は記憶から離れなかったという。

裏S区の地域性、排他性、そして霊的な存在の伝承。それらは表向きの生活の裏側で、確かに影響を与えていた。

(了)

[出典:836 763 ◆MOBqqkAfh6 sage New! 2007/03/15(木) 05:34:27 ID:nyVgvoIt0]
⇒ 『裏S区』もとの話

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