夜中の2時、男は薄暗い部屋の中でテレビを眺めていた。
眠れない理由はわからない。疲れているはずなのに、瞼が閉じる気配がない。理由を探すのも面倒で、ただリモコンを握り締めたままチャンネルを次々と変えていた。
どのチャンネルも、通販番組か試験電波。真夜中は、世界が止まる時間だと思う。だが、この夜は何かが動いていた。男は仕方なく通販番組に戻り、画面の中で輝く笑顔を浮かべながら怪しげな健康グッズを褒めそやすタレントに薄く笑った。
「嘘に決まってる。いくらもらってるんだよ……」
呟きながらも、男はどこか羨ましく思った。あのタレントには、深夜でも仕事がある。自分にはない。ただテレビを眺めるだけの夜。
不意に、テレビがピタリと静止した。画面上部に赤い帯とともに《ニュース速報》の文字が現れる。男は眠気を忘れ、身を乗り出した。事件か事故か。暇な夜に突如降って湧いた刺激的な出来事に、心がざわめいた。
だが、現れた文字は予想を裏切った。
「確実でないならば君の腰が砕けるほどのハンマーを持っているならば……」
男は眉をひそめた。「何だこれ」と声に出す。文字列は止まらない。次々と現れ、画面を埋め尽くす。
確実でないならば君の腰が砕けるほどのハンマーを持っているならば僕達はハンマーを持っているならば君の腰を砕くことも確実になるのならば君の言葉を砕くハンマーを持って君の所にいくのならば僕達は君のハンマーを持っているのならば君を燃やすように一万回の擦り付けを火を起こすことが可能だと君が言うのならば明日と今日の今日の今日は君の部屋に行きたいのなら地図を逆さの地図を血に染めた地図を血が流れてぽたぽた流れて君の手に集めて血が溢れるハンマーで君の腰を砕いてどろどろ流れて確実でないのならば君のハンマーを僕に集めて一万回集めて火を起こす地図を燃やすと君の家に行けないのならばぼたぼた流れて今日の今日に砕く確実なハンマーを地図に集めて腰を砕くのなら頭を砕くのなら目を砕砕くからからからぼたぼたとハンマーがを砕く頭を砕くのくのならハンマーを砕くのならぼたぼた流れて頭がぼたぼた流れて一万回集まって頭がどろどろ集まって行きたいのなら君の頭を砕いて僕達の仲間が集まって君の仲間が集まって今日に明日にハンマーで今日にハンマーで今ハンマーで君の家の地図がぼたぼた集まって向かっているハンマーが砕くから頭を砕くから足を砕くから目を砕くから君の頭をぼたぼたと血が燃やすようにぼたぼたと火をつけるためにハンマーが砕くから今日と今日地図に流れてぼたぼたハンマーが確実に確実でないのなら一万回の擦り付けを砕くのなら君の卵を砕くからからからぼたぼたとハンマーが確実に確実でないのなら火をつけるために確実にハンマーが君の頭を砕くから君の頭を砕く頭を砕くか頭を頭頭を砕く頭を砕く頭を砕く頭を砕く頭を砕頭を砕くかハンマーが砕くからからからぼたぼたとハンマーがぼたぼたと
文章は異常なほど長く、不穏だった。そして、男の胸に冷たいものが走った。普通のニュース速報なら、数秒で消えるはずだ。だが、この文字は消えない。
テレビの電源を消そうとリモコンを手に取った瞬間、音が鳴り響いた。
ドンドンドン!
壁が揺れ、粉が舞った。音の主は壁の向こうだ。だが、隣室は空き部屋のはずだった。
「誰だっ! 帰れ!」男は怒鳴ったが、声は震えていた。
壁が膨らむ。そこに広がる黒いシミは、形を変えていく。人だ。壁から抜け出したその影は、右手に大きなハンマーを持っていた。
逃げようとする暇もなく、ハンマーが振り下ろされる。肩に食い込み、骨が砕ける音が響いた。
男は絶叫したが、影は止まらない。
[出典:402 名前:角焼もち:2006/12/13(水) 01:31:07.42 ID:/U7vpyPu0]
解説
これはまるで、深夜にふいに訪れる悪夢そのものだ。何の前触れもなく、平凡な夜が地獄へと変わる瞬間を描いたかのような出来事。奇妙なニュース速報、壁を叩く音、そして現実離れした黒い影の存在。もし、この話が事実なら、男の身に何が起きたのか。あるいは、彼は何かを引き寄せてしまったのか。
この話を読んで、ふと考えさせられるのは、深夜のテレビという存在そのものの異質さだ。深夜2時という時間帯には、人々が眠りに就き、街が静まり返っている中で、テレビだけがひそかに動き続けている。その中で目にするものが現実なのか幻なのか、それは視聴者次第だ。しかし、この男が見たニュース速報の内容は明らかに異常だった。
「ハンマー」「砕く」「血」――それらの言葉が繰り返される文章は、まるで誰かの狂気じみた呟きを書き起こしたかのようだ。このようなテキストがなぜテレビ画面に映ったのか。一般的に考えれば、放送事故やハッキングが疑われるだろう。しかし、男が見た「黒い影」の存在がそれを超えた恐怖を暗示している。
都市伝説的な解釈を加えるなら、これは「深夜のテレビを見続けることへの警告」とも考えられる。深夜2時は、しばしば「死者の時間」と呼ばれる魔の時間帯だ。この時間帯にテレビの光に吸い寄せられるように目を覚ました者が、何か異界の存在に触れてしまうという話は、世界各地の伝承に存在する。
さらに考えられるのは、この男が「ハンマーの呪い」に巻き込まれたのではないかということだ。過去に存在した某地方の伝承では、ハンマーを使った儀式が災いをもたらすとして恐れられていた。血に濡れたハンマーを媒介に、霊的な存在が召喚されるというその儀式は、一部の研究者の間で「心理的トラウマや幻覚の誘発」とも関連づけられている。
この物語を通じて浮かび上がるのは、人間の生活に密接に関わる「テクノロジーの暗部」だ。テレビという誰もが持つ機械が、狂気や恐怖を生む媒介になる可能性があるという発想は、私たちの日常を一瞬で不気味なものに変える。
最後に残る疑問は、この話がどこまで本当なのかということだ。男の行方も、その後の真相も分からないまま。だが、もし深夜にあなたのテレビから妙な文字列が流れ始めたら、すぐに電源を切ることをおすすめする。決して、何が起きるのか確かめようとしてはいけない。それが、あなた自身の安全を守るための唯一の手段かもしれない。