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確実でないならば rw+3,845-0122

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夜中の二時。男は薄暗い部屋でテレビをつけたまま、身動きもせずに座っていた。

眠れない理由は分からない。疲労は確かに溜まっているはずなのに、瞼の裏に暗闇が落ちてこない。頭の奥が妙に冴えていて、理由を探す気力さえ削がれていた。

リモコンを握り、無意識にチャンネルを切り替える。通販番組。試験電波。無音に近い風景。深夜のテレビは、世界が停止したあとの残響みたいなものだと男は思っていた。誰も見ていない前提で流れ続ける映像。生きているのか死んでいるのか判然としない時間。

仕方なく通販番組に戻す。画面の中では、歯の白いタレントが健康器具を持ち上げて笑っている。奇跡のような効果を、確信に満ちた声で語っている。

「嘘だろ」

独り言は音にならず、喉の奥で潰れた。それでも男は目を離せなかった。深夜でも仕事がある人間と、ただ座っているだけの自分。その差が、画面の光を通してじわじわと染み込んでくる。

そのとき、映像が止まった。

音もなく、動きもなく、画面が一枚の板のように硬直する。次の瞬間、上部に赤い帯が現れ、《ニュース速報》の文字が浮かび上がった。

男は背筋を伸ばした。事件か事故か。暇な夜に投げ込まれた異物に、意識が一気に引き寄せられる。

だが、続いた文字列は、どこにも行き先を持っていなかった。

確実でないならば君の腰が砕けるほどのハンマーを持っているならば

男は瞬きを忘れた。意味を掴もうとした瞬間、文字は流れ続ける。

僕達はハンマーを持っているならば君の腰を砕くことも確実になるのならば

句読点も改行もない。ニュースの体裁を保ちながら、内容だけが壊れている。誰かの独り言が、編集されないまま垂れ流されているようだった。

君の言葉を砕くハンマーを持って君の所にいくのならば

男の喉が鳴った。これは放送事故だ。そう思おうとしたが、赤い帯は消えない。文字は増殖する。画面を埋め尽くす勢いで、同じ単語が形を変え、絡まり合い、戻ってくる。

地図を逆さの地図を血に染めた地図を

ここで男は、初めて自分が呼吸を浅くしていることに気づいた。言葉が怖いのではない。言葉が、誰かに向けられている感じが怖い。

君の部屋に行きたいのなら

リモコンに視線を落とす。電源を切ればいい。それだけのことだ。だが指が動かない。画面から目を離した瞬間、何かが確定してしまう気がした。

頭を砕くのなら目を砕くのなら

意味は崩れているのに、方向だけは一貫している。近づいてくる。集まってくる。ここに向かって。

男はリモコンを持ち上げ、電源ボタンを押した。

画面は暗転した。部屋は一気に静まり返る。耳鳴りのような無音。男は息を吐いた。

その瞬間、壁の向こうから音がした。

ドン。

乾いた衝撃音。古い建物の、どこかが軋んだだけだと頭では理解できた。それでも男は立ち上がれなかった。

ドン。

同じ音。位置が近い。隣室は空き部屋のはずだ。管理会社に確認した記憶もある。誰もいない。誰も住んでいない。

ドン。

壁紙が震え、細かな粉が床に落ちる。男は声を出そうとしたが、喉が閉じたままだった。

壁に、黒い染みが浮かび上がる。最初は湿気の跡のようだった。それがゆっくりと広がり、輪郭を持ち始める。染みは形を変え、何かの重さを帯びていく。

男は目を逸らせなかった。理解しようとしていないのに、理解しかけている自分がいる。

染みの中心が、わずかに盛り上がった。

その瞬間、男の頭にニュース速報の文字が蘇った。確実でないならば。ハンマーを持っているならば。

壁は破れなかった。何かが出てくることもなかった。ただ、壁の向こう側に、確かな存在感が集まっている。それだけが分かった。

男は後ずさりした。床に落ちた粉を踏み、音を立てた。その音に応えるように、壁の染みが脈打つ。

テレビの黒い画面に、自分の顔が映っている。青白く、歪んでいる。画面の奥に、まだ文字が残っている気がした。

確実でないのならば。

男はそこで、ようやく理解した。この夜に起きていることは、襲撃でも怪異でもない。選択の結果だ。見続けたこと。切らなかったこと。意味を掴もうとしたこと。

部屋の中で、世界の向きが少しだけ傾いた。そのズレは、もう戻らない。

壁の染みが、ゆっくりと床へ流れ始める。男は動かなかった。動けなかった。

テレビの画面は、最後まで黒いままだった。

[出典:402 名前:角焼もち:2006/12/13(水) 01:31:07.42 ID:/U7vpyPu0]

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