高校生の頃の話だ。
当時、和食屋でバイトをしていて、仲間にはバイク乗りが多かった。夜中に集まっては車とバイクで走り回り、肝試しや花火をして騒ぐのが日常だった。
その中でも、同じ400ccクラスの中型バイクに乗っている四人で、よく峠に行くようになった。
夏の盛り、昼間から正丸峠へ行こうという話になった。正丸も奥多摩も走り慣れていて、ただの暇つぶしの延長だった。
その日は、今まで通ったことのない旧道を走ってみようということになり、やけに細く、曲がりくねった道を慎重に進んだ。頂上付近でタバコを吸い、くだらない話をして、来た道を戻った。
そこから先の記憶が、妙に薄い。
完全に覚えていないわけじゃない。ただ異常に暑く、喉が焼けるように渇いていて、前を走る友人のバイクの背中だけを見ながら、無言で一列になって走っていた記憶しか残っていない。
気付くと、先頭の一台が反対車線にある白砂利のスペースへ入った。誰も疑問を口にせず、全員がそれに続いた。
自販機も日陰もない場所だった。理由を聞くと、先頭の友人が「川に入ろう」と言った。
白砂利の先は斜面になっていて、下に川が流れていた。日陰の多い山間で、大きな岩が見えた。暑さに耐えきれず、全員で斜面を降りた。
途中、小さな畑があった。色とりどりの野菜が植えられ、畑の真ん中に老人が腰を下ろしていた。農具を肩に掛けていたように思う。
川に行きたいので畑を横切らせてほしいと頭を下げると、老人は何も言わず、穏やかな顔で頷いた。
畑を抜け、大きな岩の上で服を脱ぎ、川へ飛び込んだ。水は真夏とは思えないほど冷たく、火照った体が一気に冷えた。
水を掛け合い、潜り、あまりに澄んでいたので、何気なく口に含んだ者もいた。
その時、一人の様子がおかしいことに気付いた。
顔色が異様に青く、歯を鳴らしながら震えている。寒い寒いと繰り返し、まるで真冬の川に放り込まれたようだった。
さすがにおかしいと思い、川から上がることにした。
川に入らなかった一人に、せっかくだからと岩の上から写真を撮ってもらい、そのまま何事もなく帰った。
数日後、現像した写真を見ていて、一枚で手が止まった。

川の中で撮った写真だ。中央に震えていた友人が写り、その左右に自分ともう一人がいる。
よく見ると、震えていた友人の背中に、もう一つ体の輪郭が重なって写っていた。
肩幅が不自然に広く、腰から下に足が見える。重なっているせいで、友人の足が三本あるように見えた。
それは右半身側だった。
気味が悪くなり、その写真のことを本人に話したが、本人は笑って気にしなかった。
それからしばらくして、その友人は正丸へ一人で行った。
なぜ誰も誘わなかったのか、理由は聞いていない。
ただ、現像した写真を見返すたびに思う。
あの川で、震えていたのは、本当に一人だけだったのか。
(了)
[出典:49 :名無しさん@おーぷん :2015/03/12(木)05:51:34 ID:KEZ]
正丸峠とは
正丸峠(しょうまるとうげ)は、埼玉県飯能市と同県秩父郡横瀬町の境界にある峠。標高636m。秩父・奥武蔵にある峠の一つである。江戸時代、江戸と秩父と結ぶ道の一つとして秩父札所巡礼などに用いられた「正丸峠」は、現在の「旧正丸峠」である。
峠より西の様子(2008年11月)


