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短編 r+ 洒落にならない怖い話

足りない一人 rw+3,893-0216

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あの夜のことは、角造さん本人から聞いた。

だが語り終えたあと、彼は何度も「俺は何人だった」と呟いた。その意味だけが、今も分からない。

島の夜は暗い。海鳴りと風が混ざり合い、音の境目が消える。仕事が長引き、角造さんが帰路についたのは小雨が降り出した頃だった。ワイパーが規則的に動き、ヘッドライトが濡れた路面を白く裂く。窓は閉めているのに、潮混じりの冷気が膝のあたりに溜まるような感覚があったという。

進行方向に赤い点滅が浮かび上がった。道路工事だった。通行止めで、再開の目処は立っていないと言われ、角造さんは車内で待つことにした。エンジンを切ると、海の音が急に近づく。時間を持て余し、煙草を吸おうと外へ出た。

少し離れた簡易テントの下で、作業員たちが話していた。

「ここ、七人岬って呼ぶだろ」

誰かがそう言い、別の誰かが笑った。七人の坊主が流れ着いたとか、供養がどうとか、はっきりしない断片が雨音に紛れて耳に入る。角造さんは内容よりも、声の揃い方が気になったと言う。誰か一人が喋っているのではなく、複数の声が、同じ高さで重なって聞こえた。

やがて工事が再開し、角造さんは車に戻った。ドアを閉めた直後、地面の奥から低い唸りが上がった。次の瞬間、崖が崩れた。土砂がライトを呑み込み、鉄骨が折れる音が重なり、叫び声が途切れた。

角造さんの車は無事だった。崩れたのは、彼が立っていた場所と、作業員たちのいた一帯だけだった。

夜が明けるまで救助が続いた。警察署で事情を聞かれ、帰り際に彼は尋ねた。

「何人、いましたか」

警官は資料から目を上げずに答えた。

「作業員は六名。通行止めで待機していた車両が一台。計七名です」

その瞬間、角造さんは言葉を失った。自分は通行止めで待っていた。煙草を吸いに外へ出た。崩れた場所にいた。

「俺は……どこに入るんですか」

警官は怪訝そうに眉をひそめた。

「あなたは被害者ではありません」

そのはずだった。だが角造さんは、その晩のことを語るたびに、人数が合わないと言う。作業員は六人だったのか七人だったのか。テントの下に何人いたのか。笑い声は何人分だったのか。

島を離れて本土で暮らすようになってからも、彼は雨の日のニュースを避ける。崖崩れの映像を見ると、無意識に数えてしまうからだという。

六、七、八。

数えるたびに、ひとつ多い。

先日、彼から久しぶりに電話があった。

「この話、何人にした」

そう聞かれた。私は思わず答えに詰まった。彼の話をこれまで何人にしたのか、正確には覚えていない。三人だったか、四人だったか。

受話器の向こうで、角造さんが静かに息を吐いた。

「足りないんだ」

通話が切れたあと、私は指折り数えた。この話を聞いたのは、私でひとり目。

では、あなたは何人目だろう。

七人岬の名は、今も地図に残っている。だが供養塔に刻まれた人数は、調べるたびに違う気がしてならない。

数え直すたび、ひとつずれる。

そして、ずれた分だけ、どこかで誰かが余る。

[七人坊主~七人岬の夜]

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