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ゆうくんのでんわ r+4,709-5,012

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学生時代、吉岡くんから打ち明けられた話が、今も耳の奥でこだましている。

ありふれた家庭の光景に紛れ込み、決して拭い去れない影のようにまとわりついて離れない話だ。

彼は高校に入学して間もなく、不器用な立ち回りから同級生と衝突し、教室に足を運べなくなった。昼間は母の留守を預かり、四つ下の弟と過ごす日々。陽射しの差し込むリビングではアニメやバラエティ番組を眺め、電子音の軽快なゲームに指先を遊ばせる。その一方で、夜になると同じ町内の公園でスケートボードを滑らせ、仲間の家に転がり込む。昼と夜の境界線で二重生活を送るうち、彼の時間感覚はどこか歪み始めていたらしい。

ある夜の出来事が、すべてを変えてしまった。

母の外出で、家には彼と弟の二人だけ。夕食を片付け、テレビから聞こえる軽妙なトークに耳を傾けていると、唐突に弟が小さな声でつぶやいた。「でんわ。でんわしなきゃ」その顔は玩具をねだる子供のそれではなく、まるで義務を果たそうとする大人のように強ばっていた。

「誰にかけるんだ?」問いかけても答えはなく、ただ「でんわ」と繰り返す。幼い足で廊下へ駆け出し、背伸びして黒い電話機に指を伸ばす。受話器を奪うような勢いに兄は戸惑った。なだめても、抱きかかえても、弟は「はやく!でんわ!」と泣き叫び、まるで背後から操られているかのように必死だった。

そして、その瞬間。

「プルルルル……!」

突き刺さるような呼び出し音が廊下に響いた。弟はそれを待っていたかのように「ゆうくんのでんわ!」と絶叫し、兄の腕から身をよじって抜け出そうとする。恐怖に押され、兄は震える手で受話器を耳に当てた。

「はい……」

湿り気を帯びた中年の女の声が返ってきた。「……あの、ゆうちゃんお願いします」聞き覚えのない声だった。

「どちら様ですか?」そう問い返したとたん、「……とも」と呟くような返答。そこでブツリと通話は途絶えた。

残されたのは受話器の冷たい感触と、弟の無垢な瞳。問いただしても「わかんない」と首を振るばかりで、何も答えない。ナンバーディスプレイに残った数字列は見慣れぬもの。折り返しても通話中の信号音しか返ってこない。

それからというもの、その番号からの着信が続いた。呼び出し音に怯え、受話器を取れば沈黙か、あるいは無造作に切断されるだけ。弟はその度に「でんわ!でんわ!」と叫び、兄の背筋を凍りつかせた。電話機はやがて廊下から高い棚の上へ追いやられ、家族は重苦しい空気に縛られ続けた。

数週間後、事件はさらに異様な形で顕れた。

母が留守の昼下がり。兄がトイレに入ると、例の呼び出し音が鳴り響く。無視しようと耳を塞いだ矢先、廊下から「ガンッ」という破裂音と、幼い声が聞こえた。「もしもし?もしもし?」

慌てて駆け出すと、電話機は床に転がり、受話器を握る弟が笑っていた。「うん、そうだよ。あそびにきてね」誰かと談笑するように。

その翌日から、着信は途絶えた。弟の「でんわ!」という騒ぎもなくなり、表示されていた番号に掛けても「現在使われておりません」と機械的な声が返るだけになった。

七年が過ぎた今、弟は高校生になった。あの日の記憶を尋ねても、「そんなことあった?」と曖昧に笑う。まるで他人事のように。だが兄は知っている。あの夜、弟が誰と交わしたのかを。見知らぬ女の声の向こう側にいた「とも」という存在が、今もこの町のどこかに潜んでいるのではないかと。

電話機はもう家にはない。それでも夜更け、ふと耳を澄ますと、あの「プルルルル……」という音が幻のように聞こえてくるのだ。

[出典:983 :本当にあった怖い名無し:2013/08/25(日) 01:04:16.72 ID:kojzRZM90]

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