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呼び出し音の前 rw+5,360-0119

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学生時代、吉岡くんから打ち明けられた話が、今も耳の奥に残っている。

ありふれた家庭の風景に紛れ込み、どこからが異常だったのかを思い出せなくなる類の話だ。

彼は高校に入ってすぐ、些細な行き違いから教室にいられなくなった。昼は家で留守番をし、四つ下の弟とテレビを眺めて過ごす。夜になると公園に集まり、帰りは仲間の家に泊まる。昼と夜が切り分けられた生活の中で、曜日や時間の感覚が少しずつずれていったという。

問題の夜は、母が外出し、家には兄弟二人だけだった。夕食を終え、リビングでテレビを流していると、弟が突然、独り言のように言った。

「でんわ。でんわしなきゃ」

玩具を欲しがる声ではなかった。何かを思い出したというより、思い出させられたような顔だった。誰にかけるのか尋ねても答えない。ただ同じ言葉を繰り返し、廊下の電話機へ向かおうとする。

止めようとすると、弟は泣き叫び、体をのけぞらせた。背中を押されているようにも見えたという。

そのとき、電話が鳴った。

「プルルルル……」

弟はそれを聞いた瞬間、「ゆうくんのでんわ」と叫んだ。兄はその名前に心当たりがなかった。受話器を取ると、湿った中年の女の声がした。

「……ゆうちゃん、お願いできますか」

どちら様かと聞き返すと、「……とも」とだけ答え、通話は切れた。

番号は見覚えのないものだった。折り返しても繋がらない。弟に聞いても、首を振るだけで、何も説明しなかった。

それから、電話は繰り返し鳴った。出ても沈黙か、すぐに切れる。弟は呼び出し音が鳴るたびに興奮し、「でんわ」と騒いだ。電話機は廊下から高い棚に移されたが、それでも弟は音が鳴る前に気づくようになった。

昼間、母のいない時間帯だった。兄がトイレに入っていると、呼び出し音が鳴った。無視しようとした直後、廊下で硬い音がした。

電話機が床に落ちていた。受話器を握った弟が、誰かと話していた。

「うん。そうだよ。あそびにきてね」

相手の声は聞こえなかった。弟は相槌を打ち、時折笑った。その様子は、相手がそこにいるかのようだった。

その日を境に、電話は鳴らなくなった。番号も消え、かけ直すと「現在使われておりません」と告げられるだけだった。弟は電話のことを口にしなくなった。

数年後、弟にあの夜の話をしても、覚えていないと言った。電話のことも、名前のことも、首をかしげるだけだった。

ただ、兄は一つだけ引っかかっている。あの夜、弟が受話器を置いたあと、誰もいない廊下に向かって小さく手を振っていたことだ。

電話機は処分された。番号も残っていない。それでも夜更け、家の中が静まり返ると、呼び出し音が鳴る直前の、あの空白だけが思い出される。音は聞こえない。だが、聞いてはいけなかったものが、確かにあったという感覚だけが残る。

[出典:983 :本当にあった怖い名無し:2013/08/25(日) 01:04:16.72 ID:kojzRZM90]

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