これから肝試しシーズンだからハメを外し過ぎないように小話を。
今から5年ほど前になるけど、当時俺は写真にはまっていて休みを利用しては色々な場所へ撮影しに行ってた。
164: 本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/08/03(水) 04:08:18.93 ID:9pD7Aa9R0
秋にさしかかる頃、山陰のとある農村に撮影しに行くことにした。
そこは昔ながらの伝統的な農業を営んでいて、どこを撮っても写真が映えるような理想の場所だった。
田畑ばかりではなく、山もまた綺麗で一風変わっていた。
なにが変わっているのかというと山の中にも関わらず平らな土地が多い。そこに広い間隔で低木が生えていて、チングルマやらハイオトギリソウなんかが花を咲かせていた。
紅葉が敷き詰められた山はまるで自然にできた庭園のようだった。すっかり魅入られた俺はしばらく腰を据えるつもりでいた。
一日目、それとなく村を散策しながら撮影していると村の外れに入山道を見つけた。道の左右を囲む大きな石に、ちょうど人の腰あたりにくるような形で注連縄(しめなわ)が張られていた。
それが高い場所にあれば俺はそのまま中に入ったかもしれないが、いかにも入るなといった風に縄が張ってあるものだからやり過ごすことにした。
その日の晩、宿の主人にその道のことをたずねると、あすこの山はよく人が迷って死ぬから入ってはいけないと注意された。
前にも外から来た者があそこに入って戻らなかったことが何度となくあるとかなんとか。いわゆる聖域のような場所らしい。
口では、じゃあやめときましょうと言ったものの、この村になんの縁もない俺が、わざわざヨタ話を信じる必要があるまい、と判断して村人が畑に出てる間こっそりと行ってみることにした。
翌朝目が覚めると村人はすでに畑にでていて、俺はしめたと件の場所へと向かった。
縄をくぐるとなんのことはない、ただの山だ。ただ景色は他の場所よりも一層美しく、山の中にできた窪みのように平地がずっと続いている。
歩いているとまるで夢の中のようだった。右を見ても左を見ても同じような景色が続いていて、確かに迷ってしまいそうな気配はあったので道を間違えないよう途中で見つけた沢に沿って進むことにした。
しばらくすると山の壁が見えてきて道も途絶えているようだった。
壁まで行って引き返そうと考え、さらに歩くと崖の窪みに家が見えた。家と言うよりは屋敷と言ったほうが正確かもしらん。
白い壁の塀に瓦屋根の百坪ばかりの屋敷があって、寂れた様子もなく手入れが行き届いている感じがした。今にも中から人が出てきそうだ。
俺は直感的に見てはいけないものを見てしまったと悟り、踵を返して村へと急いだ。
半分くらい戻ったところで、急に人に呼び止められた。罪悪感があった俺は返事もできないままおそるおそるあたりを見回すと、宿の向かいに住んでる爺さんが岩に腰をかけて座っていた。
爺さんは俺を見るなり、ここは熊がでて危ないから入っちゃいけないと叱責した。俺はただただすみませんと繰り返し、村まで送ってもらうことにした。
よく見ると爺さんは手に銃を握っている。俺がその銃はと聞くと護身用の銃だと言う。
爺さんいわく、罠にかかった獲物しか捕らないから銃は必要ないのだけど、この山にはずっと熊が住み着いていて山に入るときは絶対に銃を持つとのこと。
知らずに入った人がよく襲われるから村人以外は入れないようにしてるのだと。今日は獲物が罠にかからなかったと嘆いていた。
俺は熊がでるならそう言えよと思いつつ宿に帰った。
やはりこういったいわくつきの場所にはなにかしらオカルト以外の現実的な理由があるんだから遊び半分で入っちゃいけない。
生きて帰れたのが奇跡みたいだ。
(了)