大学二年の六月に不思議な体験をしました。
56 名前:怖い話ではないのですが 投稿日:03/06/08 23:47
長文で読みにくいと思いますが、ご容赦下さい。当時私は、大学の野生生物研究会に入っていました。研究会のフィールドは奥多摩の鷹ノ巣山で、山頂付近の避難小屋を拠点にデータの収集を行っていました。
不思議なことは、一年の後輩三人を連れて昼前に下山中の時に起きました。後輩に道を覚えて貰うために、私以外は初めてのルートである七ツ石山経由で、奥多摩湖に降りるコースを縦列で歩いていました。天候は快晴、雲一つ無い青空で爽やかな風が吹いていました。
オオルリやジュウイチ、ホトトギス等の夏鳥の声が周囲から聞こえて、気分良く歩いていました。このルートの尾根上の開けた場所に、廃屋と井戸のような直径一m程の土管があるのですが、尾根上なので日当たりも見晴らしも良く、このルートを歩くときはいつも休憩場所にしていました。
先頭の私は、その廃屋と土管が見えたので、後ろの三人にもう少しで休憩しようと言いました。
そして、廃屋に到着してザックを下ろして一息ついたときに、私の真後ろを歩いていたA君が、「ここに女の人がいませんでしたか?」と聞いてきたのです。
「誰もいないよ。人住んでないし、俺は見てないよ。どこに居たの?」
「この土管を覗き込むように立っていました」
「どんな格好だった?」
「青い服を着たおばさんでした」
「一人だけだった?」
「見たのは一人だけでしたが、周囲が騒がしかったから団体で来ているのかと思っていました」
「俺は誰も見なかったよ。BとCは誰か見た?」B君とC君の二人とも、「いいえ、誰も見てません」と言いました。「その廃屋の中にいるんじゃないの?見てきなよ」A君は廃屋の戸を開けて中を見たのですが、誰もいません。
「最初から誰もいないよ。疲れてるんじゃないの?」
「いやー、確かにいたんですよ」
「先頭歩いていた俺は見てないんだよ」
「でも立ってたんですよ」
「まあいいや、とりあえずお茶湧かそうか」と言った時、突然、濃い霧が周囲を覆い始めたのです。そして、霧が立ちこめた瞬間、A君は「うわあーっ」と叫びながら、走って下ってしまいました。私はB君とC君に「ザック担げ。追うぞ」と言って、ザックを背負って追いかけました。
霧はとても濃くて、視界は五mも無い程でした。
「A、待て。走るな。そこに座ってろ。B、C、付いてこいよ」私は、叫びながら走りました。時間にしたら二~三分だと思います。ルート上でしゃがみ込んでるAを見つけました。
Aを見ると顔は青ざめ、体が小刻みに震えていました。そして私が「おい、どうした。しっかりしろ」と言いながら、Aの肩を持って体を揺すったとたん、深い霧が急に晴れたのです。私たちは、廃屋から少し下った尾根上のルートにいました。
周囲の山肌を見ても霧はどこにもありません。雲一つ無い快晴で、夏鳥の声が聞こえていました。Aを見ると顔色も良くなり、体の震えも止まっていました。私が「どうしたんだ?」と聞くと、「とても怖くなって逃げました。もう大丈夫です」と言いました。
Aが回復したので、私たちはそのまま奥多摩湖に下って帰宅の途につきました。その後、Aとその時の事を何回か話しましたが、走って逃げたのは霧に捕まると殺されると思い、私の声が聞こえたので覚悟を決めて座ったそうです。
その後、私もAも鷹ノ巣山に何度も登りました。同じルートも歩きました。夜間に単独で登った事もありますが、何も起きませんでした。今でも不思議なのは、何故霧が発生したのかわからないことです。
気持ちいいぐらいの快晴で湿度も低く、適度な風もありました。とても霧の出る条件ではありません。また霧が晴れたとき、周囲の山にはどこにも霧がありませんでした。あの霧は何だったのか、今でも疑問です。