短編 都市伝説

卵の中【ゆっくり朗読】3400

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知り合いの警察関係者に聞いた話です。

若い女性の部屋で、男のバラバラ死体が見つかった事件。

その女性、仮に英子さんとしておきます。男の人は一樹さんということで話を進めます。

二人はそれぞれの母親が幼なじみで、小中高と学校が同じで、高校1年の時、一樹さんの友人の坂木さんと彼女がつきあいはじめました。

そうして三人そろって同じ大学に進学して、その半年目に坂木さんが亡くなりました。デート中にダムに落ちたんです。

二人きりの時で目撃者がいなかったんですが、それは結局事故として扱われました。

英子さんがショックでかなり精神的にやられてしまって、事情聴取とかできなかったせいもあったようですけど。

彼女は家から一歩も出なくなって、大学も退学。

風呂とかトイレとか食事とか、最低限の日常生活に支障はないけど、会話は成り立たないし、無理に何かさせようとすると大声をあげて暴れ出したりする。

父親は病院にかかることを許さず、それでいて英子さんのいる二階へは近づこうとしない。

出歩かないせいか太って体格の良くなっていく英子さんに、母親の手だけでは負えない時が出てきて、一樹さんが世話を手伝うようになったんです。

英子さんは以前から手先が器用で、細かい手芸を得意としていたそうです。

家に閉じこもるようになってからは、いつも卵細工をつくっていたそうです。

卵に穴をあけて中身を抜いてよく洗って、細かい布きれをボンドで張り付ける。

それに紐をつけて、カーテンレールに吊す。

カーテンが閉められなくなるので、それをお母さんが毎日部屋の天井に移して画鋲で留める。

部屋の天井がいろんな柄の卵に埋め尽くされていきました。

そんなある日、お母さんは英子さんの妊娠に気づきました。

そして、一樹さんのお母さんに真っ先に相談しました。

お母さんから話を聞いた一樹さんは家を飛び出して、友人の家を泊まり歩くようになりました。

英子さんを妊娠させたのは一樹さんだったんです。

ある日、友人の一人が、たびたび泊まりに来る一樹さんからその話を聞き出しました。

彼はその話をしてすぐ、「やっぱりちゃんと責任をとらなくてはいけない。けじめをつける」と言い残し、友人宅を出て行きました。

しかしそれが、生きている彼を見た最後の証言となったのです。

翌日、彼は英子さんの部屋でバラバラにされて見つかりました。

見つけたのは英子さんのお母さんでした。はじめそれが何かわからなかったそうです。

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部屋の隅では英子さんが眠っていました。そして部屋中に、天井にぶら下げていたはずの卵の殻が落ちていたんです。

ひどい臭いがしていたそうです。けれど英子さんはすやすやと眠っていたし、臭いの元も見あたらなかった。

お母さんは、英子さんに女性の毎月の行事が始まったためだろう、と見当をつけました。血の臭いに似ていたからです。

妊娠じゃなかったんだとほっとして、とりあえず空気を入れ替えようと思っても、床には一面、割れて崩れた丸い殻。布にくるまれた何百もの卵。

お母さんは窓への道をつくろうと、足で卵をよけようとして、その異様な重さに驚きました。

動かしたひょうしに強くなった異臭。その重さの妙な感じ。

恐る恐るしゃがみこんで、近くのそれらを観察すると、彼女は布切れの間からのぞく赤黒いモノに気づきました。

昔、大怪我をした時に見た、開いた傷口そっくりの色。

お母さんは悲鳴を上げました。でも、お父さんは一階にいたけれど、声もかけてきませんでした。

お母さんは気持ち悪いのを我慢して、足で重たい卵をよけて英子さんのところまで行き、無理矢理起こして部屋から連れ出しました。

英子さんは嫌がって卵を踏みつぶしたりしましたが、火事場の馬鹿力が作用したのか、小柄なお母さんが英子さんを部屋から引きずり出し、一階へ下ろしました。

英子さんの姿にお父さんはそっぽを向いて、寝室に引っ込んでしまいました。

お母さんは一人でやっとのこと英子さんを居間に落ち着かせ、それから警察に電話をかけました。

もちろんお母さんは卵の中身が何かわかっていませんでした。

けれど、近所の人が蛇が出たと言って、110番しておまわりさんを呼んだことがあったので、それよりは重大時だと思って、警察にかけたのだそうです。

やってきたおまわりさんは、英子さんに踏みつぶされた卵の中に、人間の目玉を見つけました。そこから大騒ぎになったのです。

もうおわかりだと思いますが、卵の中身は一樹さんでした。

彼が、何百、千に近いくらい細かくバラバラにされて、卵の殻の中に納められていたのです。

DNA鑑定で彼だと確認されました。

遺体の多くに生体反応が認められました。彼は生きたままバラバラにされたのです。

しかも、刃物を使われた痕跡は見あたらない。引きちぎられ、折られ粉々にされていたんです。

そのバラバラのかけらが、ご丁寧にも卵の殻の中に納められ、布切れで飾られていたんです。

英子さんからはなんの証言も得られませんでした。ご両親もなんの物音も聞いていませんでした。

結局、英子さんが無理矢理妊娠させられたことを恨んで、一樹さんを殺したのだろうということになりました。

けれど不可解な点が多くあります。警察も未だその謎を解いていません。というより、解く気もありません。

卵の殻にあけられた穴より大きな骨片が、どうやって中に納められたのか。

どれも穴を布でふさがれていたのに、前日の晩に彼が目撃されている。たった一晩の作業とはとても思えないこと。

そして、粉々に引き裂かれた現場が、どこにもみつからなかったこと。

何より、道具なしに人力で人を引き裂くことができるのか。それも粉々に。

……できるわけがない。

英子さんは今は精神病院にいるそうです。

おなかの子供がその後どうなったのかは聞いていません。

一樹さんが何にどのようにして殺され、いかなる方法で卵の中に入れられたのか。

真相は謎のままです……

(了)

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