短編 山にまつわる怖い話

杉の木の方々【ゆっくり朗読】2468-0115

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そういえば昔、母方の実家の裏山に登ったとき、何気に怖い体験してるんだよね。

243 :あなたのうしろに名無しさんが…:04/04/01 11:05

ガキンチョが普通に野山を駆け回って遊んでいる、ごく普通の状況。

お気に入りで、いつも遊び場にしていた裏山の中腹。

そこには少し開けた平地があって、でっかい杉の木が3本ほど生えていた。

その周りでよく遊んでいたのだが…

その日も俺は、お気に入りの場所で木に登ったりして遊んでいた。

そうこうしているうちに陽気に誘われてか、何やら眠気が襲ってきた。

普段はこんな事ないのに、その日に限って無性に眠く、それ以上遊び続けることが億劫になってしまった。

山道を下って祖母の家まで行くのも面倒になった俺は、木の下に生えているクローバーの群生で寝転んで、そのまま寝入ってしまった。

俺的には少しだけ眠って、それから帰ろうと思っていたのだが……。

目が覚めてみると、辺りは月の光に照らされた、薄明るく青い世界が広がっていた。

そんな状況で心細くなった俺は、居た堪れなくなり、速攻で家に帰ろうと立ち上がり、走り出そうとした。

すると背後からいきなり声をかけられた。

「坊主、こんなところでこんな時間に何をしてるんだい?」

突然の出来事に、心臓が口から飛び出すほど驚いたが、暗闇の中心細かった俺は、人恋しさもあって、人の気配に安堵しつつふりかえった。

そこには初老の老人が二人いて、優しげな笑みを浮かべて俺の事を見ていた。

老人の笑顔を見て、さらに落ち着きを取り戻した俺。

今までのいきさつを話し、これから山を降りる所だということを伝えた。

すると老人は、口をそろえたようにこう言った。

「坊主は良くこの辺りで遊んでいるな?ちょくちょく見かけていたよ」

「そうかぁ、藤井さんとこの孫か」

どうも二人は、俺の祖父祖母を知っている様子。

俺はこの近所に住んでいる人なのかなぁ?などと思っていた。

「まぁこれから山を降りるんじゃ暗いだろうから、これをもって行きなさい」

そう言って、片方の老人が懐中電灯を貸してくれた。

「あぁ、それからこれももって行くといい」

もう片方の老人が、そう言いつつ俺の手に渡したもの…

それは笹の葉でくるまれた、何だか分からないものだった。

俺は唐突に現れた二人の老人の親切極まりない行動に、少し警戒心を抱き始めていた。

子供の考えることなど、年を重ねてきた人間には手に取るように分かるものなのだろう。

その感情は二人の老人には、さも訝しげにしているように見えたようで、こう切り出してきた。

「私たちはこの近所に住んでいるものだから、そんなに怪しまなくても大丈夫だよ」と。

母の生家の事情も知っているようだし、終始優しげな笑顔を浮かべている老人達だったので、俺はそれ以上老人達を疑うことを止めた。

その後少し話をして、切りの良い所で礼を言い、老人達と別れて、俺は登ってきた山道を降りていった。

道に入れば、そこは木の生い茂る暗い道。

老人が貸してくれた懐中電灯がなければ、それこそ鼻をつままれても分からないであろう、暗闇の中を歩く羽目になったはずだ。

難なく山を降り、母の実家へたどり着いたとき、実家では一騒動巻き起こっていた。

もちろん渦中の人物は俺である。

日が落ちたというのに、まったく帰ってくる気配のない俺を心配して、周辺地区の人を集めて捜索に出るところだった、というのだ。

あの時は本当に、これからの人生分のお叱りを合わせても余るほどにこっ酷く怒られた。

そんなこんなで落ち着いて、山の上での出来事を話し、老人に借りた懐中電灯と謎の包みを家族に見せたのだ。

「懐中電灯は後で返しに行かなくてはなぁ」

そんなことを父が口走りつつ、笹の葉で包まれた珍妙な包みを解いた。

中からは杉の葉っぱがもさっと出てきたが、それをどかしてみると、桜の葉が巻かれた、旨そうな桜餅が3つ出てきた。

何か不思議な光景だった。

謎の二人の老人と懐中電灯、そして桜餅。

父はキョトンとしていたのだが、祖父と祖母、そして母は、なんとも言えない表情をしていた。

俺が子供の頃に山で体験した話はここまでなのだが、その後高校に入った俺が、そのときの話を何とはなしに両親に振ってみたら、面白いことが判明した。

実はうちの母も幼少の頃に、俺と同じような体験をしていたというのだ。

そのときもやはり老人が出てきて、桜餅を貰って山を降りてきたらしい。

ただ少し違っていたのは、懐中電灯ではなく、老人の一人が一緒に山を降りてくれたことと、老人は3人居たということだった。

その話を聞いてから母の実家を訪ねた際に、祖母と祖父にも同じ質問を投げかけてみたが、俺のときと同様な話を聞かせてくれた。

件の裏山は、母方の実家が先祖代々受け継ぐ持ち山だそうで、俺や母が遊んでいた平地の杉の木も、ご先祖が植えた物らしい。

しかし、俺が生まれる少し前に、そのうちの一本は枯れてしまって、今では、枯れても尚頑丈な、幹と太い枝を少し残しているのみだ。

俺が遊んでいた頃は、もう少し枝が張り出していたのだが、年を追うごとに風化してしまい、近々切除しようかと言う計画が持ち上がっている。

俺的には何かの形で残したいとは思うので、母の実家の上がりかまちにでも輪切りにして置こうか、という話もある(笑)

で、老人のことだけど、ここまで来ればもう落ちというか、正体らしき物も掴めているだろうけど、祖父、祖母、母、俺の4人の見解は、満場一致で「杉の木の方々だろう」と言うことで落ち着いています。

いろいろ話し合った結果、そんな知人やご近所さんは居ないし、母子そろって同じ体験をしているし、という事で…。

怖い話でもあり、微笑ましげな話でもあり。

なんともつかみ所のない奇怪な体験でした。

杉の木の方々に感謝。

信じられないかもしれないけど、信じてくれとも言わない。

ただただ、全ては思い出の中にあるのみ。

ちなみに、懐中電灯は行方不明なのだ。

いつの間にかなくなったらしい。

大切に仏壇にしまっておいたそうだけどねぇ。

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