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白い車を見なかった人たち rw+2,60-0206

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あの時の話を、ようやく文字にする。

書こうとすると体の調子が崩れる、というのは比喩ではない。実際に、何度も同じところで手が止まり、動悸や吐き気に襲われ、そのたびに中断した。この話に限って起きる。理由はわからない。ただ、書いてはいけないという意思のようなものが、外からではなく、内側から押し返してくる感覚があった。

それでも今、書いている。
書かずにいるほうが、むしろ危険だと感じるようになったからだ。

***

結婚して二年ほど経った頃、母がこちらへ来たいと言い出した。祖父と秋の国内旅行をする、その途中で寄るのだという。

最初は強く断った。母は特定疾患を抱え、虚弱体質のはずだった。にもかかわらず、旅行と登山を趣味にしている。少し前にも肋膜炎で大手術を受け、蜂巣炎で足が壊死寸前になり、SLEで指が動かない時期もあった。それでも車で来ると言い張る。

公共交通機関を使うよう何度も言ったが、母は聞かなかった。高速道路のサービスエリアを回りたいのだと笑った。仕方なく条件を出した。四つ下の弟も同行すること。それなら無茶はしないだろうと考えた。

結局、母と祖父と弟の三人は車でやって来て、数日観光し、帰っていった。メタリックブルーのハイブリッド車が交差点を曲がり、視界から消えるまで見送った。そのときは、本当に何もなくてよかったと思った。

その夜になっても「無事着いた」という連絡は来なかった。胸騒ぎがした。翌日、弟から電話があった。

「姉さん……母さんは、そっちと相性が悪い。もう車では来ないほうがいい。僕は、毎回一緒に行けるわけじゃないし」

理由を聞いても、弟は要領を得ないことしか言わなかった。ただ、三人とも無事に帰宅していた。

真相を知ったのは翌年の五月、母が一人でこちらへ来たときだった。何気なく「あのときの車、大変だったでしょ」と言うと、母は急に表情を変えた。

「あの日ね……二回、死にかけたのよ」

***

紅葉の時期で、景色を楽しみたいからと高速道路は使わず、下道を選んだという。途中で「良さそうな山道」を見つけ、寄り道をした。

最初は紅葉に歓声を上げていた三人も、道が荒れ始めると黙り込んだ。舗装は途切れ、石だらけの悪路になり、気づけば両脇は切り立った崖だった。

弟が車を降り、大きな石をどかした。そのとき、顔色を変えて言った。

「母さん……周り、全部崖だ」

Uターンすれば谷底に落ちる。進むしかなかった。

そのとき、前方に一台の白いワンボックスカーが現れた。後部座席には、真っ白で大きな犬が乗っていて、こちらをじっと見ていたという。車はカーブのたびに待つように進み、母たちはその後を必死で追った。

やがて森を抜け、突然、海が視界いっぱいに広がった。国道に出た瞬間、白い車は消えていた。礼を言う暇もなかった。

母は楽しげに語ったが、私は違和感を覚えた。石をどかしながらでなければ進めない道で、どうして前の車はそんな速度で進めたのか。後日、弟に確認すると「白い車なんて見ていない」と言った。祖父も同じだった。

母だけが見ていた。

***

高速道路に入ったあと、二度目が起きた。

フロントガラスの上に黒い点が見えた。最初は鳥だと思ったが、それは急速に大きくなり、タイヤだとわかった。落下物が目の前に迫る。母は反射的にブレーキを踏まず、アクセルを踏み込んだ。結果、タイヤは車と後続車の間に落ちた。

後ろの車は急ブレーキをかけ、何台も停車して確認した。しかし、落ちたはずのタイヤはどこにもなかった。その日、その付近で積載物を落としたトラックの報告もなかった。

母は「一日に二回も死にかけた」と笑ったが、その笑顔は妙に硬かった。

***

話を聞き終えたあと、私は自分の記憶に引っかかるものがあることに気づいた。

母が「白い車」と言ったとき、私は色を確認していないのに、最初から白だと知っていた。犬の大きさも、犬種も、母が詳しく語る前から、なぜか頭に浮かんでいた。

弟と祖父は「見ていない」と言った。
では、私はどうだろう。

あの日、見送った車が交差点を曲がる瞬間、後部座席に何か白いものがあった気がする。犬だったのか、光だったのか、はっきりしない。ただ、その記憶だけが、年を追うごとに鮮明になっている。

この話を書こうとすると体調を崩す理由が、少しわかった気がする。
母が見たかどうかではない。
見なかった側に、自分を置き続けてきたことが、歪みだったのだ。

書き終えた今、胸の奥にあった重さは消えていない。むしろ、形を持ってしまった。

この文章を読んだあなたが、次に山道で白い車を見たとき。
それを「見なかったこと」にできるかどうかは、もう保証できない。

[出典:323 :本当にあった怖い名無し:2018/10/08(月) 14:37:07.83 ID:yQK/AGFM0.net]

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