短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

秋の国内旅行【ゆっくり朗読】1700

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お久しぶりです。

323 :本当にあった怖い名無し:2018/10/08(月) 14:37:07.83 ID:yQK/AGFM0.net

何年前かは忘れましたが、以前「活力あふれる虚弱体質の母の話」を書かせていただいた者です。

結婚生活もだいぶ落ち着きまして、時間に余裕が出来てきたこともあり、またぼちぼち書かせて頂こうかと。

本来ならもっと前に投稿できる予定だったのですが、この話を書こうとすると某か体調トラブルなどが起こるので中断せざるを得なかったというか…。

また長文である事をお許しください。

何年前だったかは忘れましたが、おそらく結婚してから2年は経った頃だったと思います。

前々からこちらに遊びに来たがっていた母が、とうとう我慢出来なくなったのか「(母方の)祖父と秋の国内旅行する」という名目で2泊予定で遊びに来ることになりました。

もうね、当初は全力で拒否しましたよね。

特定疾患の関係で虚弱体質(趣味は旅行と登山)の母と、昭和初期ぐらい生まれ(趣味は旅行と一眼レフでの風景撮影)の祖父が、車で来るって言うんですよ。

車ですよ、車。

アンタついこの前、肋膜炎の場所が特殊すぎてカテーテル入れられなくて大手術になっただの、蜂巣炎で左足壊死寸前切断一歩手前だの、SLEで指先が動かないだの、あったばっかりでしょ!!!

おじいちゃんの方がよっぽど元気だわ!!
だいたい、K葉山のお膝元からここまで高速で何時間かかると思ってるんですか!!!
公共交通機関使いなさいよ!!!

高速のSA巡りもやりたいから車できたい?バカタレッッ!!
と言っても聞かないので、4つ歳の離れた弟(母は弟くん可愛い可愛いなので、無理はしなくなるだろうと…)も連れてくる事を条件に、車で来る事を許可しました。

3人は道道ご当地グルメやら景色を堪能しつつ、順調に我が家へたどり着き、ひとしきり観光名所を回って(私も連れ回されて)喜色満面で帰路についたのです。

私は「あー、何もなくてよかった」と思いながら母たちの乗ったメタリックブルーのハイブリッド車が交差点を曲がるまで見送って
玄関のドアをしめました。

その後は遊びに行っていた分の家事に勤しみ、テレビをみたり動画をみたりして、母たちから「無事に自宅へ着きました」という連絡が来るのをつらつらと待っていました。

けれど結局、その日母たちから連絡が来ることはありませんでした。

次の日になって、弟の携帯から連絡がありました。

はっきり言って嫌な予感がしたのを今でも覚えています。

私はおっかなびっくり、電話口に立ちました。

「もしもし、定男?」

『うん、姉さん。えーと…昨日ぶり』

「うん。昨日はアレからどうしたん?連絡なかったけど」

『…んー…なんていうか。凄かった』

「すご…?ハア?」

『姉さん、あのさ。多分あんまり言わない方がいいけど。母さん、相性悪いよ、そっちと。分かってると思うけど、あの人言って聞かないし。とにかく車はやめた方がいいよ。僕はいつでも、一緒に行けるわけじゃないしさ』

「え、何?何かあったの?」

『んー…多分母さんがその内話すよ。でもまだそっとしておいた方が良さそう。僕もまだ怖い』

弟の話はチンプンカンプンで、要領を得たような得ないような。

それでもとにかく、3人は無事に身体は無傷で自宅に帰れたようでした。

ことの真相を知ったのは、それから年をまたいだ5月、GWが明けた次の週の事です。

諸事情があり、母が単身こちらへ半分遊び半分仕事でやってきました。

今回は言われずとも公共交通機関を使って来たので、私はからかい混じりに「この前ので車こりたでしょ?」と言いました。

すると母は急に神妙な顔になったのです。

「もえさん、あのね。あの日。車で帰った日ね。お母さん達、2回死にかけたの」
意を決すると言った顔をする母に対し、私はたぶんポカンとした顔をしていたと思います。

母は飲みかけのお茶で口を湿らしてから、あの日の帰り道であった事を話してくれました。

帰り道の寄り道は最早恒例行事だとばかりに、母は高速には乗らず途中までは下の道を行くことにしたそうです。

季節は紅葉真っ盛りの秋でしたから、良さそうな山があれば少し入って紅葉狩りと洒落込む算段でした。

カーナビと景色を見ながら、時々カーナビを裏切りつつ、広くて良さげな車のまま進める山道入口を見つけたので、一路素敵な景色を求め入山したそうです。

私は思わず「それ山道メッチャ細くなるやつでしょ」と口走りました。

「なんでわかったの?」
「ネットで見たし、ジブリでも見た」
「まあ、そうなの?じゃあお母さんが体験したのは良くある事なのね!」
「いや、良くはないでしょ。そもそも仕方なく知らない山道を行くならともかく嬉嬉として行くのはオカシイ」

これだから無駄に活力の溢れる人はイヤなんだと思いつつ、私は先を促しました。

最初は、綺麗な紅葉に3人ともワクワク顔で、知ってる山野草を見つけてはキャイキャイし上を見上げては秋空と黄葉のコントラストに目を奪われていたそうです。

そうして、いつの間にか道はコンクリートではなくなり、石がゴロゴロと転がる悪路となっていました。

ただ、悪路が車の轍に凹んでいるのが救いでした。

途中何回かUターンする事を考えたそうですが、母は何故かUターンしては行けない気がしてそのままガードレールもない、ガタガタの悪路をひた走ったそうです。

そうしてしばらく進むと段々と転がっている石が大きくなってきました。

とうとう運転に支障が出るような石が轍の真ん中に鎮座していて、どかさないといけなくなり、やむなく弟が車を降りて石を退けたそうです。

そうして石を退けた弟が車内に戻ってきて一言。

「母さん、やばい、周り崖だ」
「え…周りって、右も左もってこと?そんなことある?」

「わかんないわよ。母さんもそんな道初めてだったし。もうそれで、流石にゾッとしたっていうか。いつから周りが崖だったかしらないけど、もしUターンしてたら確実に谷底だったもん…」
「危機一髪すぎる…で、結局どうしたの?そのまま直進するしかなさそうだけど」

「ああ、それがね。しばらくがんばって進んでたら、車が前を走ってるのを見つけてね。地元の人来たー!とおもって必死についてったの!
案外早いスピードだすからなかなか追いつけなかったんだけど…ほら、石とかあるとどけなきゃ行けないしさ。しかも定男くんてほら、汚いのとか虫苦手だし。
石は苔むしてるの多かったし、石の下にいる虫にびびっちゃってなかなか進まなかったりしてさ。でもその車の人優しくて、こっちが止まっちゃっても、次のカーブ当たりで一応待ってくれてたりとかして……
ホント助かったわ〜!
後部座席にはわんちゃんも乗っててね!その子がまたかわいいのよ〜!
真っ白くて大きい子なの!でも顔は柴みたいでね〜!ずっとこっち見てるのよ〜!
犬好きの母さんとしては、そりゃ付いてく一択でしょみたいな!」

話が犬の話題に移るのを聞きながら、私は「何で前に車が居るのに、後ろから付いてく母さん達が石で立ち往生するのなんで??」とひとりゾッとしていました。

「それでねそれでね!すごいのよ!
森から抜けたら目の前海でね!
絶景だったの〜!で、海見ながらゆっくり道なりにいったら、なんとか国道にでて一安心してさ。あの車の人に御礼したかったけど、国道でみうしなっちゃって、結局お礼できなかったのよね」

「ちなみに車の色は?」
「うん?白いワンボックスかな?古いタイプ」

山怖は何個か読んだことありますが、相似点がいくつかあるので、まあそういう事も無きにしもあらずなのかな、と。

助けて頂いた事ですし、母は素直に感謝しているようだったので、特に水を指すような事はせずに、私は冷めかけのお茶を口に含みました。

「それで。まあ、なんとか高速乗ったのよ。そしたら、タイヤがとんできて」
「ハ…?」
「なんか最初ね、フロントガラスの上に小さな黒い点があるな〜って思ってたの。カラスかなって。でも段々と大きくなるじゃない?それで、飛来物だっ!!って思ったんだけど、ここでブレーキ踏んじゃダメだ!ってとっさに思って。前屈みになりながらアクセルベタ踏みよ〜」

結局タイヤ(恐らく)は母たちの車と後続の車の間に落ちた様でした。
(後ろからブレーキ音がしたらしいです)
母達の乗った車と後続の車数台は減速した後、脇に止まって各々車体点検し、警察に通報したそうです。

そのままなんやかんやして、母たちが帰宅できたのは日付が変わった後だったそうです。

「もう何が大変ってさ。後ろの車の人が飛来物はタイヤで、高速下に落ちていったって言うんだけど、見つからないし。そもそもその日タイヤを積んでたトラックは無かったらしくって。あんな、死ぬような思いした所に世にも奇妙な系の話でしょ、皆顔面蒼白って感じだったわ」

そんな理由で、1日に2回程死にかけた母の話は終わりです。

最後に、どうしても気になったので後日、弟に聞いてみたら、
「母さんは白い車が前を走ってるって言ってたけど、僕は見てないんだよね。おじいちゃんと後部座席に居たからかもしれないけど」
と言っていたので、まあ…そういう事なんでしょうね。

皆さまも、無闇矢鱈と山に入らない方がいいですよ。

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