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中編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

オルガンの音【ゆっくり朗読】1400

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家に、古いオルガンがあった。母が、私が生まれるより前に中古で買ったらしい。

2012/02/13(月) 08:26:13.95 ID:RsgmH26g0

小学生のとき、一度だけ弾こうとしてみたが、ベース(足用鍵盤)の音が全く出なかった。

高校生になって、三学期の中間考査の勉強をしているときだった。

テスト勉強は、本番の二日前か前日にしかやる気が出ずに、その時も、前日の深夜遅くまで勉強していた。

一時半になった頃、一階のリビングから、オルガンを弾く音が聞こえてきた。

私の部屋は二階にあり、そこで勉強していた。聞こえた曲は、名前は忘れたけど、多分有名なやつ。

ベース音がないので、とても頼りない音だった。

この家でオルガンを弾けるのは母だけなのだが、母はもう寝ているし、この時間帯に弾くほど非常識じゃない。

オルガンの音を聞くのは久しぶりだし、この時間帯なので、少し怖かった。

しばらく待ってもやめる気配がない。

曲もループしているし、気になって勉強できないし眠ることもできない。

仕方なく見に行くことにした。

真っ暗なのは怖かったから、廊下や踊り場の電気を全部つけながら行った。

「………!」

リビングの電気はついていなかった。なのに、オルガンの音は聞こえる。

さっきより、音が少し大きい気がする。

母が弾いてるんだとしたら、どこか、頭がおかしくなってしまったのかも知れない。

そうだとしても十分怖いが、本当に、お母さんなのか……

などと考えてしまい、恐怖でリビングのドアを開けられなかった。

常識的に考えれば、オルガンを弾いているのは家族の誰かなのだが、現状が不気味すぎた。

五分くらい固まって冷や汗を流していたら、突然、オルガンの音がやんだ。

なんと言うか、静かになると逆に、めちゃくちゃ怖くて、なにかあればすぐにでも泣いてしまいそうで、体の中心に向かってものすごい圧力がかかったように感じた。

しかしそれをキッカケに、はやくドアを開けないといけない気もした。

静かな中に、にドアを開けるときの音が大きく響いて、かなりビビった。

真っ暗では何も見えないので、電気をつけた。

体は熱いのに、頭は、血が少ないのか寒くて、冷や汗が凄かった。

オルガンの前に母はいなかった。誰もいなかった。

こんなことが、次の日もあった。音がやんでからリビングに入ると誰もいないのだ。

母に話しても、わからない、知らない、寝ぼけたんじゃないか、などとしか言われなかった。

 

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また次の日も、オルガンの音が鳴り出した。

三回目でも相変わらず、というか三回目だけにかなり怖かったが、もう今回は音が聞こえるうちにリビングに入ると決めていた。

二階から一階までをダッシュで駆け抜け、足がすくむ前にそのままリビングのドアを開けた。

女の人がいた。

ワンピースを着ていて、後頭部には髪の毛が生えていなかった。

私は、驚きのあまり声も出ず、体も動かず、なのに汗だけは体のどこかが壊れてしまったように流れていた。

女の人が振り返った。

この動作はとてもゆっくりで、多分十秒くらいかけて振り向いた。

暗い上に、結構距離があったので顔はよく見えなかったが、多分目に何かがびっしり刺さっていた。口は私よりかなりおおきかったと思う。

顔もすごいが、それでも一番印象的だったのは、足がないことだった。

それが、普通の人間を見慣れた私にとって、視覚的に圧倒的な違和感を与えた。

女の人がいきなり絶叫した。

動けない私は、泣いてしまった。踏み潰されたような声を出して泣いてしまった。

女の人が絶叫している時間は無限にも感じられたが、実際は数秒だったのだろう。

また突然叫ぶのをやめて、そのまま固まってしまった。

女の人に背を向けるのは本当に怖かった。

しかし、私はその瞬間に全力でリビングを飛び出し、玄関を駆け抜け、外に走り出した。家の中にはいられなかった。

女の人がついてきていないのを確認して、そのまま朝まで外で過ごした。

朝、家に女の人はいなかった。家族は何も知らないようだった。

あのおぞましい絶叫も聞かなかったらしい。

その一ヶ月後、私は交通事故にあった。自転車でバイクとぶつかった。

下半身が、おそらく一生、動かなくなってしまった。

またその二年後、母が新しいオルガンを買った。

今度の新しいオルガンは、ベースの音もいい。母は楽しそうだった。

私も一度だけ弾こうとしたが、やっぱり、ベースは弾けなかった。

(了)

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