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借金地獄に堕ちた教祖【ゆっくり朗読】4593-1231

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ずいぶん昔のことになるけどな。闇金の取り立てをやってたんだ。

まあ今みたいにすぐ弁護士が出てくるようになる前のことだ。

で、ある客のとこに取り立てにいったときの話。

いや、俺らはサラ金とは違うからフツーは客の家に行ったりはないよ。

電話催促だけで、紙貼ったり家の前で怒鳴ったりなんてことはしなかった。

特に利息分だけで元金超えてる客に関しては。

そんときの客は三田って四〇過ぎくらいの女だった。

もともと知ってる女でね、新興宗教の教祖みたいなことをやってたんだ。

その頃は羽振りもよくて、闇金屋と客っていう関係じゃなかった。

ちょっと世話になったりもしたんだ。

ところが未成年の信者の親が警察に不法監禁で訴えてガサ入れがあり、そんときに覚醒剤とかも出てきてしまったんだよ。実刑にはならなかったがな。

で、教団のほうはおじゃん。それでもしばらくは蓄えた金で生活してたが、先物とかに手を出したらしくスッカラカンになりサラ金に金を借りた。

それが返せなくってブラックリストに載り、俺らのとこに来たわけだ。

俺が店にいたら止めとけって言ったんだが、ただの取り立て係だしな。

金は五万、端金だろ。

それでも最初のうちは利息払ってたから元金分は回収してあるし、あとは督促の電話に出なくなったらそれで終わり。

どうせ違法商売だしね、ありえない利息を払い続けられるやつなんていない。

腐ったミカンを奪い合うような商売なんだ。

むしろ訴えられるとかのトラブルのほうがヤバイんだよ。

三田の場合は利息が入らなくなって連絡して、いやいや、優しく話したつもりだよ。

だが次にかけたときは電話を止めらたみたいだった。

まだ携帯の普及してない頃だ。

それで気になって家まで出かけてみたんだ。

三田が教団の本部にしてた家が自分の持ち家で、何かおいしい話が転がってないか、そういう下心はあったけどな。

で、上司には内緒で夕刻に行ってみた。

宗教団体の目立つ看板はそのままだったが、サラ金の紙が貼られたままになってた。

古い一軒家なんだが、簡単に売れるとこでもないし借地なのかもしれない。

草ぼうぼうになった庭を入っていって玄関でインターホンを押したが誰も出ない。

ああ、逃げたんだろうなと思った。田舎にでも帰ったか。

閉まってるだろうが、ためしにと思って戸に手をかけたらカラッと開いた。

で、入ってみたんだよ。

違法だろって?まあな。

中は民家というわけじゃなくて、宗教団体時代のゴテゴテした飾り……垂れ幕とか
よく知らないが梵字の書いた掛け軸とか……そんなのがあちこちにあった。

電気も止まってるようだし、薄暗くて不気味だったよ。

部屋を順々に見ていったが、金目のものはなさそうだった。

え、自殺してるとか考えなかったかって?

ないない、ないよ。そんなやつじゃない。

確かにガサ入れ食らってからは覇気もなんもなかったが、そんなタマじゃない。

一階を見て回って、階段で二階にあがった。

前にも入ったことがあるんで様子は知ってた。

上には信者の寝泊まりする部屋と奥にご神体のある祭壇があったはずだ。

……最初の六畳が信者が生活してたとこで、最盛期には五人は詰め込まれてたと思った。

襖を開けると奥に何枚も布団が積み上げられて窓を塞いでいた。

床は畳でこ汚いタオルケットが数枚敷かれ、畳は黄ばんで焼け焦げの跡もあった。

焼け焦げは広範囲に畳が炭化してて、火事になんなかったのが不思議なくらい。

やっぱ金目のものはなんもない。

この部屋の隣が、急造感のある一畳ばかりのトイレ。

次が洋間になってて、祭壇があったはずだ。

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ドアを開けると衝立があって、そこを曲がって入ると祭壇が目の前にある。

仏教系なんだろうな、前に見たときは鐘や木魚なんかも置いてたが、今はただホコリが積もった白い布がかけられてあるだけ。

で、その前に押入れほどの巨大な仏壇。これはさすがに処分できなかったんだろう。

そのままの形で残ってた。

どうせ空だろうと思ったが、閉まってた扉を開けてみた。

ぶわっとホコリが舞った。

中の板仕切りのようなのが叩き壊されて下に山になって落ちてた。

その奥にキラと光るものがあった。

板をかきわけて拾いだしてみると、高さ20cmばかりの仏像だった。

俺にはお釈迦様なのか観音様なのかもわからん。

暗い中でもキンキラに輝いて、ずっしりと重い。まさか金なのか、まさかな……

メッキかもしれないが、骨董屋に持ってくくらい安いもんだと思ってゴミを払ってバッグに入れた。

とたんにドーンと雷が落ちたような音と振動を感じた。

それだけじゃなく、部屋全体が真っ赤に見えた。

仏壇の奥から何か白いものが出てきた。

這いずっていて小さい。赤ん坊というより胎児だ。

それが固まったように動けないでいる俺の前まで出てきたんだ。

てらてらした白い背中にまわりの赤い色が映ってた。蛙の顔をしていた。

それが急に素早いトカゲみたいな動きになって俺の手から肩に跳び移ってきて、顔の横で「くえあ」と鳴いた。

……そっから記憶がないんだよ。

気がついたときには兄貴分に肩を抱えられていた。

俺が出てこないんであちこち探してくれたらしいんだ。

そしたらここの電話番号のメモが机に残ってて、探しにきたら部屋の隅で膝を抱えて小刻みに震えてる俺がいたってことだった。

兄貴から日付を聞いて愕然としたね。

ここに入ってからなんとまる二日もたってるんだ。

仏像はどうなったかって?

ああ、それだよ。バッグを開けたら中に入ってたのはバラけないようにあちこちヒモで縛った小さい小さい人骨だった。

胎児の骨だと思う。仏像なんてどこにもない。

骨は白く乾いてて、頭の部分に小さな字がたくさん並んでいて、その最後にやや大きく、普通の字で「しね」って書いてあった。

……三田の最後っ屁だったんだな。

家を訪ねてくるやつに罠をかけたんだと思う。

さあなあ、俺を狙ったとは思えないが。

恨まれるようなことはしてないし、世間のやつらが憎くて誰でもよかったんじゃないか。
それにしても、こういうことって実際にあるもんだとは思わなかった。

何というか、宗教家としての力はあったってことなんだろうな。

それから三田のゆくえは探してないし、俺もしばらくして闇金をやめた。

(了)

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