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死なないと渡れません rw+5,896

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正夢や予知夢のような不思議な夢を、よく見る人がいる。
実際、私もその一人だ。

昔から、そういう夢に限って妙に感触が残る。
映像ではなく、温度や匂い、重さが記憶に貼りつく感じだ。

今年に入ってから、歯が崩れ落ちる夢を何度も見た。
噛みしめた瞬間、歯が砂のように砕け、口の中に血の味が広がる。
目が覚めても、舌の裏に肉の感触が残っていた。

その後、祖母が亡くなった。

三月には、友人が死ぬ夢を見た。
夢の中で私は泣いていて、目が覚めたときも涙で枕が濡れていた。
しばらくして、その友人から「祖母が亡くなった」と連絡が来た。
夢が当たった、というより、現実が夢の続きをなぞっているような感覚だった。

大学に入ってからは、夢の質が変わった。
夢の中で目が覚め、さらにその中でもう一度目が覚める。
いわゆる多重夢だ。

その夢を、今でもはっきり覚えている。

私は橋を走っていた。
夜でも朝でもない、白く濁った空の下。
一直線の橋が延々と連なり、渡り終えるたびに、また次の橋が現れる。
何かから逃げていることだけは分かっていた。

最初の橋の終わりに、木の板が立っていた。
黒く焦げた文字で、こう書かれている。

「死なないと渡れません。突き刺し」

振り返った瞬間、背中に衝撃が走った。
腹を貫く痛み。
噴き出す血の匂い。
これは夢だ、と理解しているのに、痛みだけが現実だった。

必死に目を覚ました。

だが、私はまた橋の上を走っていた。
息が切れ、脚が重い。
背後には、何かの気配が確かにある。

次の橋の看板。

「死なないと渡れません。操り人形」

気づいたときには、指先に糸が絡んでいた。
一本、また一本と糸が増え、身体が勝手に動き出す。
引かれるたびに、関節が外れ、切り離されていく。
痛みよりも、操作されている感覚が気持ち悪かった。

また、目が覚めた。

同じ橋。
同じ逃走。
終わらない。

三つ目の橋の看板。

「死なないと渡れません。繰り抜き」

背後から、か細い声が聞こえた。
「返してー」
泣いているようでもあり、怒っているようでもある。

振り向くと、目のない女が立っていた。
スプーンを握りしめ、こちらを探るように首を傾けている。

逃げようとしても、足が動かない。
女が近づいてくる。
その距離が詰まった瞬間、胸の奥に、説明できない感覚が走った。

知っている。
確かに、知っている。

だが、誰なのかは分からない。
思い出そうとすると、顔の輪郭が崩れ、声も歪む。

女がスプーンを振り上げた瞬間、世界が暗転した。

次に目を開けたとき、私は現実の自室にいた。
息が荒く、全身が汗で濡れていた。
夢はそこで終わっていた。

それなのに、数日経っても違和感が消えない。
ふとした拍子に、橋を走っている感覚が蘇る。
背後を振り向きたくなくなる。

そして翌日、突然、片目に強い炎症が出た。
原因は分からない。
医者には、よくあることだと言われた。

眼帯をつけたまま鏡を見ると、
なぜか、あの夢の中の「返してー」という声が、
少しだけ近くなった気がした。

何を返せばいいのかは、思い出せないままだ。

(了)

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