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短編 r+ 集落・田舎の怖い話

村の奥の祠 r+5900

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俺の実家は、超がつくほどの田舎だ。わずか十世帯ほどしかない小さな村で、いわゆる「限界集落」と呼ばれるような場所。

けれど、実際には普通にインフラは整っているし、住人もいたって普通の年寄りばかりだ。

よく都会の人は「田舎は人間関係がおかしい」とか言うが、俺の村に限って言えば、そんなことはない。ただひとつ気になる点があるとすれば、村の年寄り全員が某新興宗教団体の信者であることだ。

もちろん俺も親世代も信者じゃない。けれど、小さい頃に祖母の真似をして「ナンミョーホーレンゲッキョ~」とふざけて言ったとき、母親からものすごい剣幕で叱られたことがある。当時はその宗教団体のことなんて知らなかったが、なんとなく他の家と違うなとは感じていた。仏壇に花が飾られていなかったり、葬式でお坊さんを呼ばなかったりと、妙に違和感があったのだ。

でも、年寄りたちに特別な思想があるようには思えなかった。だから俺は深く気にしなかった。ところが中学に上がる頃から、他の地域の奴らが俺たち村の人間をヒソヒソ話題にすることが増えた。理由がその新興宗教にあることは分かっていた。それで俺は、村の幼馴染、プロレスラーのアブドーラ・ザ・ブッチャー激似の奴とよく「俺らシューキョーなんてやってねぇし」と愚痴っていた。

学校生活後半になると、むしろそれをネタにして笑い話にするようになった。「きのう信者が来たから壁キックしてビビらせてやった」とか、そんな話で盛り上がった。俺もブッチャー似の幼馴染も、どこかで「そういうもんだ」と割り切っていた。

去年の春、市内にある大型古本屋に行ったときのことだ。漫画や小説を物色していると、一冊の古臭い手のひらサイズの本が目に留まった。手に取ると、どうやら俺と同じ町に住む人が自費出版で出した郷土史らしい。神社や石碑、誰それの家に伝わる古文書、それに洞穴などの由来や歴史が事細かに記されている。感心して購入した俺は、その日のうちに家で読み始めた。

だが、読み進めるうちに妙なことに気づいた。俺の村だけ記述が極端に少ないのだ。項目は二つしかない。ひとつは神社のこと。そしてもうひとつが、「村の奥に何かが祀られているらしいが、詳細不明」といった抽象的な説明だった。子供の頃から外で遊び回っていた俺だったが、そんなものがあるなんて初耳だった。

これは確かめないと気が済まない。俺は本を置くと、そのまま村を飛び出した。しかし村の隅々まで念入りに探しても、それらしいものは見つからない。途方に暮れて沢の水辺をうろついていると、近くで農作業をしていた婆さんが声をかけてきた。

「何してるんだ?」
「探し物」
「何か無くしたのか?」
「いや……。この奥になんか祀られてるって話を聞いたことない?」

俺がそう聞くと、婆さんは急に怒鳴り出した。

「知らない! そんなの聞いたことない!」
「はぁ? なんだよ急に。なんで怒ってんだよ」
「いいから帰れ!」

突然テンションMAXで怒り始めた婆さんを見て、これは無理だと判断した俺は渋々村に戻ることにした。

家に帰る途中、草刈りをしていたブッチャー似幼馴染の祖父を見かけた。彼なら何か知っているかもしれない。期待を込めて話しかけると、驚いたことに、それらしい場所を知っていると言うではないか!場所を教えてもらい、早速そこへ向かった。

道中の詳細は省くが、こんな場所誰も教えてくれなきゃ絶対に分からない、というようなところにそれはあった。日の光がほとんど届かない深い森の中、草を掻き分けて進むと、足元の感触が変わった。土の柔らかさから、ゴツゴツした石の硬さへ。見ると、苔むした石段が現れていた。

石段を登った先には、まるで神社の境内のような空間が広がっていた。そこだけ不自然なほど綺麗に整備されている。中央には道祖神を祀る祠のようなものがあり、その周りを同じ大きさの石碑が囲んでいた。石碑は六つほどあったと思う。祠は人の背丈ほどの大きさで、遠目でも朽ち果てそうなくらい古びているのが分かった。

直感で「ここはヤバい」と感じた俺は、その場を去ることにした。しかし祠の中をちらりと見た瞬間、俺の背筋は凍りついた。祠の中から顔がこちらを覗いていたのだ。目が合った。

俺は全速力でその場を離れた。石段を駆け下りる途中、何度も転んだがそんなことを気にしている余裕はなかった。あの顔を見た瞬間から、背後に人の息遣いを感じていたのだ。

振り返るのが怖くてひたすら走った。だが、瞬きするたびにおかしなものが見える。自分の後ろ姿だ。それが目に焼きつくように浮かんでは、次第に近づいてくる。追いつかれる――そう感じるたび、恐怖で頭が真っ白になり、涙がボロボロこぼれた。

草木に足をとられ、何度も転びながらも俺は走り続けた。もう目を閉じるのが怖くなった。目を閉じたら、またあの後ろ姿が見える気がして、そしてその次は何かもっと恐ろしいものに襲われる気がした。

やがて首筋に生温かい息を感じた。その瞬間、俺は声にならない悲鳴を上げた気がする。もう何も考えられなかった。目を閉じても何も見えなくなったと気づいたとき、俺は自分の家に戻っていた。

布団の中に潜り込み、ガタガタ震えながら必死に記憶を消そうとした。あれは見なかった、何も見ていない。そう思い込もうとしたが無理だった。俺は死ぬのだろうか。洒落にならない話のように、村の言い伝えに関わってしまった罰で、死んでしまうのだろうか。絶望に打ちひしがれたまま、その夜は一睡もできなかった。

だが不思議なことに、その後は何事もなく日常が続いている。俺は今でも生きている。けれど、あの日の体験はどうしても忘れられない。あれ以来、地方伝説や洒落にならない怖い話――例えば「コトリバコ」とか「姦姦蛇螺」のような話を「そんなのあり得ない」と笑えなくなった。自分の村にも、何か本当に恐ろしいものが隠されているのではないかと、疑うようになった。

振り返ってみると、あの場所はどう見ても人の手で整備されていた。じゃあ、なぜあんな場所が村で語られないのか。俺たちから隠されていたのか?それとも、本当に村の誰も知らなかったのか?疑問は尽きない。

そして最大の謎。なぜブッチャーの祖父はあの場所を俺に教えたのか。彼は何かを知っていたのだろうか。確かめようと思ったが、残念ながらその翌年の夏、ブッチャーの祖父は亡くなってしまった。

あれ以来、村ではやたらと自殺者が多いことにも気づいた。それがあの場所と関係があるのだろうか。もし関係があるのだとしたら、あそこに祀られていたものは何なのか。

知りたい気持ちはあるが、もう二度と近づきたくない。あの祠、あの石碑、そしてあの顔――何一つ思い出したくない。だが、思い出さずにはいられない。

俺はこの村に生まれた者として、その存在を知ってしまった。そしてそれが、いつか自分に何か影響を及ぼすのではないかという恐怖を、心の奥底に抱え続けている。

(了)

[出典:549:2011/11/28(月) 20:36:30.71 ID:g14n3bOJ0]

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