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骨の下の家 r+5,264

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解体の現場は、たいてい埃まみれで、どこか陰気な空気がある。

でも、あの日は最初からどこか違っていた。
重機が不要なくらい小ぶりな家で、古い蔵を改築した造り。二間とキッチンだけの平屋で、現場入りする前は「楽な仕事だ」と軽口を叩いた。まさか、そんなことになるなんて思ってもみなかった。

依頼は、ちょっとクセのあるルートから回ってきた。建設会社の名目でやっているが、筋のほうともつながりがある。表には出せない、いわゆる“特殊案件”だ。今回もその類い。古い一軒家の解体だが、費用はいくらかかっても構わないという。

うまい話には裏がある。案の定、条件が二つ付いていた。
一つ、内装を剥がしたら外装に移る前に、必ず床下をさらうこと。
もう一つ、外部の人間を一人入れる。しかも、その人物には何をしていても一切話しかけない。尋ねない。勝手にやらせて、現場で見聞きしたことは口外しない。

当日、依頼主側の立会人と一緒に現れたのは、三十代前半に見える細身の男だった。
黒いスーツにノーネクタイ。白い肌が印象的で、工事現場に場違いな雰囲気だった。
どこか病みあがりのようにも見えたが、妙に落ち着いていて、目だけがやけに澄んでいた。
「ヘルメット、いりません」
そう言って、ワゴン車から大きなボストンバッグを持ち上げた。中には何かゴツゴツとした金属音がした。

まずは内装の解体。数人で畳をはがし、木材を外していく。しっくいの壁は後回し。言われたとおり床下の作業に取りかかった。

四畳半を終え、六畳間に手をつけ始めたときだった。
その男が、静かにバッグを開けた。中から出てきたのは、白濁した液体が入った四合瓶と、金箔が貼られた奇妙な道具。それからマスク。
その金色の道具は、中央に握り手があり、両端が鋭く尖っていた。
儀式の道具か、あるいは……いや、考えたくもなかった。

床板は他の部屋よりも厚く、木目も新しい。なぜここだけ……そう思った矢先、若い作業員の一人が声を上げた。
「あっ! なんだこれ!」

すぐに男が歩み寄る。言葉を発せずにしゃがみ込み、のぞき込んだ。
自分も覗いてみた。そこには……土に埋もれた骨。それも頭蓋骨。
だが明らかに人間ではない。妙に長い顎と鋭い歯、犬か、いやもっと大きい。

シャベルを使って丁寧に掘る。出てきたのは一メートル以上ある骨格だった。
四足歩行の獣……犬にしては巨大すぎる。いや、犬ではない。
男がそれを見定めるようにして土を払い、無言で皿のような器に乗せると、黒いゴミ袋へ収めた。

「もう二つ、お願いがあります」

初めてその男がこちらに話しかけた。声は低く、冷たい。
「この骨の真上にあたる天井裏に、小さな香炉があるはずです。それはいりません。処分してください。あとで車から炭を出しますので、それを骨のあった場所に埋めてください」

事務的な口調でそれだけ言うと、男は再び無言で立ち去った。

屋根裏を見に行った。そこには確かに香炉があった。
緑の石でできていて、どこか光を内に秘めているようだった。ヒスイ、だろうか。
仲間の一人が「高く売れるんじゃねぇか?」と冗談交じりに言ったが、誰も手を出そうとはしなかった。

男の言葉が、耳から離れなかった。あの骨、あの道具、あの液体……。
頭の片隅にひっかかる、気味の悪さ。これは何か、ただの死体隠しとか、そういう類いじゃない。

解体は終わった。だが、気持ちは晴れなかった。何か大事なものを壊した気がした。

それから数ヵ月。ふと気になって、あの家について調べた。
依頼主の会社は、誰もが知る大企業。だが、町の社員寮とは別に、あの家が“家族持ちの若手”専用で使われていたらしい。赴任期間はおよそ二、三年。
そして、その短い期間の中で、住んだ家族の誰かが必ず死んでいた。事故や病気、自殺は一件もない。だが、子どもがトラックに轢かれたという話がある。
偶然といえばそれまでだが、ぞっとした。

そしてもう一つ、忘れられない出来事があった。

三年後、参院選の応援に頼まれて、ある保守系候補の事務所に顔を出したときのこと。
見覚えのある顔がそこにいた。あのときの男。
スーツ姿で、地元秘書の名札をつけていた。

こちらに気づくと、一瞬驚いた顔をしてから、にやりと笑った。

「へええ……この間はどうも。ご健在でしたか、それは何より。あの香炉、処分なさったんですね。いやあ、誠実にお仕事されてて助かりました。変な考えを起こしてたら……命がなかったかもしれませんよ」

そう言って、今度は屈託のない笑みで手を振ってきた。
「投票、よろしくお願いしますね」

背中に冷たい汗が伝った。

あの骨の正体も、香炉の意味も、結局何一つわからない。
ただ一つ確かなのは、世の中には、触れてはいけない場所があるということだ。

あれは「家」なんかじゃなかった。
もっと別の、何かだった。

(了)

[出典:831 本当にあった怖い名無し 2012/12/01(土) 17:37:25.03 ID:FS5WQPeV0]

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