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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

電話に出る者 nw+

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実家の固定電話には、昔から妙なことがある。

家に誰もいないときに限って電話をかけると、必ず誰かが出るのだ。

呼び出し音が二回ほど鳴ると、若い男の声で「はい、○○です」と、まるで家の住人のように名乗る。

最初は聞き間違いだと思った。次はイタズラだと思った。けれど何度か試すうちに、どうやらそうではないらしいと分かった。

その声に頼みごとをすると、なぜか家の中のことだけは実行されている。

「風呂を沸かしておいて」

帰宅すると、本当に風呂が沸いている。

「コンセント抜き忘れたから抜いておいて」

帰ると、確かに抜かれている。

「洗濯物、雨降りそうなら取り込んでおいて」

その日の夕方、物干しには何も残っていない。

宅配を受け取れだとか、人に会うようなことはできない。けれど家の敷地の中のことなら、ほとんど確実にこなしている。

家族は全員、この現象を知っている。いつから始まったのかは誰も覚えていない。ただ、私が物心つくころにはすでにあった。

最初は気味悪がっていたが、いつの間にか家族はそれを当たり前のものとして扱うようになった。

祖母はあるとき電話口で「今から帰るけど、何かいる?」と聞いたことがある。受話器の向こうの男の声は少し間を置いて「油揚げ」と答えたらしい。

祖母は笑いながら帰り道で油揚げを買い、台所の皿に並べて置いた。

その夜、皿は空になっていた。

それ以来、家ではなんとなくその声を「稲荷さん」と呼ぶようになった。

裏山に古い祠があるからだ。

けれど、そう呼びながらも、誰もそれを本気で確かめようとはしなかった。

ある決まりがあることに、皆いつの間にか気づいていたからだ。

名前を聞くと電話に出ない。
姿のことを聞いても出ない。

何も聞かないと、普通に応答する。

それだけは家族全員が経験していた。

私は子どものころ、一度だけそれに直接助けられたことがある。

幼稚園の帰り道、家に電話した。家には誰もいないはずだったが、いつもの声が出た。

「今から帰る」

そう言うと、「おやつ出しておくから気をつけて帰れ」と返ってきた。

帰宅すると、確かにテーブルにはおやつが並んでいて、湯気の立つお茶まで用意されていた。

しかし家の中には誰もいない。

その日から私は、あの声が家のどこかにいるのだと思うようになった。

ただ、どうしても一つだけ分からないことがある。

あの声は、いつも若い男の声なのだ。

祖母が若いころから出ていたらしい。母も若いころから聞いているという。

なのに声はずっと変わらない。

電話に出るのは、いつも同じ年齢の声だ。

私は今、実家を離れて暮らしている。けれどたまに、ふと思い出して実家に電話をかけることがある。

家族が出るときもある。
けれど、誰もいない時間を知っているときにかけると、やはりあの声が出る。

変わらない調子で「はい、○○です」と。

ただ、私は今まで一度も聞いたことがない。

「あなたは誰ですか」と。

なぜか、それだけは言ってはいけない気がする。

家族も同じだ。

もしそれを聞いてしまったら、次に受話器の向こうで返ってくる声が、本当にその男の声とは限らない気がするからだ。

もし、その声が。

電話をかけているこの受話器のこちら側、つまり私の耳元から聞こえたらどうする。

そしてそのとき、電話の向こうで静かにこう言われたら。

「やっと気づいたか」

――それが、ずっと家にいる者の声だったら。

[出典:233 :本当にあった怖い名無し:2009/03/12(木) 11:12:10 ID:jJuJBpzV0]

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