若い頃の不思議な体験。
今から20年以上前、都内のとある駅前にある居酒屋での出来事だ。平日の夜、友人三人と飲みに行った。店内はそこそこ混んでいて、俺たちは座敷に案内された。その居酒屋には俺は三回目、友人の一人は常連らしく、店員の兄ちゃんと軽口を叩き合っていた。
しばらく飲んでいると、友人たちが急に「なんか眠い」と言い出し、ウトウトし始めた。
「なんだよ、もう酔っちまったのか?」
そんなことを言いながら、俺はトイレに立ったんだが、戻ってくると突然見知らぬ女性が俺の腕を掴んでこう言った。
「お願い、ちょっと来て!」
そのまま彼女に引っ張られ、奥の個室座敷に連れて行かれた。部屋には大学生くらいの男女五人(男三人、女二人)がいて、俺を見るなり「イヨッ!待ってました!」と歓迎ムード。
「いやいや、俺、あんたら知らないんだけど?」
訳がわからず尋ねると、女性が妙なことを言い出した。
「ご飯を三杯食べてください」
意味がわからないのでさらに聞くと、彼女は真剣な顔でこう説明した。
- 私たちは今、あるゲームの最中で、詳しく話すと長くなるから省略する
- ご飯を食べれば勝てるが、私はもう食べられない
- 助っ人を呼ぶのはルール的にOKなので、ぜひ助けてほしい
- 迷惑はかけない。ただ三杯、ご飯を食べてほしい
- 負けると(五人の中の一人の男を指して)この人にヤられてしまう
- 冗談やからかいではなく、本気でお願いしている
頭が混乱したが、酔っていたことと、ちょうど小腹が空いていたこともあり、つい了承してしまった。
「飯食えばいいんだな?でも金は払わねえぞ」
お姉ちゃんが俺好みの可愛い子だったのも大きい理由だったのは内緒だ。
テーブルにはお櫃に盛られた白飯と肉じゃが、唐揚げ、生姜焼きなど、豪華なおかずが揃っていた。俺は軽く三杯平らげると、部屋の中で喜びの声が上がった。
だがそれだけでは終わらない。お姉ちゃんが「もっと食べられますか?もう一人助けてください!」とさらに頼んできた。
これ以上はキツいと思った俺は、「これで終わりにしよう」とばかりに、日本昔話の山盛り飯のようにご飯をよそい、刺身や塩辛、お新香をおかずに無理やり三杯食べた。
「もう無理。あとは他の人に頼め!」
腹をさすりながら立ち上がると、男女六人が一斉に「ありがとうございました!」と深々と頭を下げた。
状況は謎のままだったが、なんとなくカッコつけて「気にすんなよ」とだけ言い、友人たちの元に戻った。
友人たちは目を覚ましていて、「お前どこ行ってたんだ?もう帰るぞ」と言う。帰り際、さっきの出来事を話したら、常連の友人がこう言った。
「奥に個室なんかないぞ、あの店」
え?じゃあ、さっきの個室はなんだったんだ?前に来たときもそんな部屋は見た覚えがない。もしかして隣の店だったのか?いや、でも……。
そんなモヤモヤを抱えつつ、また来たときに確認しようと思った。しかし結局、その居酒屋に行くことは二度となかった。
一、二か月後、駅前の再開発で居酒屋が入っていたビルは取り壊されてしまったのだ。
その後、俺は引っ越し、結婚し、当時の友人たちとも疎遠になったが、あの体験だけは今でも鮮明に覚えている。ただし、あの可愛いお姉ちゃん以外、五人の男女の顔や服装はまったく思い出せない。そして、彼らが一切食事をしていなかったことも。
一体あれは何だったのか?本当にそんなゲームが存在したのか?
夢ではない。あの満腹感は間違いなく現実だった。だが、なぜ当時、あんな奇妙な出来事を深く考えなかったのか、自分でも不思議で仕方ない。まるで何かに化かされていたかのようだ――。
(了)
[出典:415 :本当にあった怖い名無し:2015/07/14(火) 00:36:17.35 ID:ibE4BUul0.net]