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短編 山にまつわる怖い話

初心者の登山

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2007年、5月頃。

俺は静岡にある高ドッキョウ(たかどっきょう)という山を登ろうと考えた。

まだ山に登るようになって一年程度で、1,000m以下の山ばかり登っていた。

だんだんレベルを上げていくつもりだった。

高ドッキョウはそれまで登った山よりもう一段階キツいらしいということで選んだ山だった。

見よう見まねで登っていたので、装備や食料、服装も初心者に毛の生えたものしか持ってなかったが、まあ、道をしっかり見れば迷うことはないと思っていた。

その時は静岡のたぶん清水かな。その山奥から登るコースにした。

近くに青ザサ山という山があり、そこは登ったことがあったので、そこから向かうコースも考えたが、体力的、そしていつも午前十一時くらいから登るので時間的にきついのでやめた。

基本的に日帰りの人は早朝のぼり、飯を食べて正午すぎに下山という人が多い。

俺が山を降りる頃は午後三時すぎ。その頃は誰もみかけなくなる。

この日は午前十時すぎくらいに出発した。

しばらく川沿いの整備された道を歩いていくと、やがて道印も減っていき判りづらかったが、なんとか形跡を探しながら登っていった。

やがて途中の名もなき開けた峠にさしかかった。

ここからまた二時間は歩かないといけないらしい。

この時点で午前十一時。

小休憩したあと、食事をしようとしている二人組みを横目に見ながら出発。

何事もなく(大変キツかったが)十三時三十分には到着。

ようやく飯を食べながら休憩。

さて下山だと、時間を見ると十四時十五分。

いまからだと三時間はかかるかもしれない。

夕方まで時間がかかる経験はなかったので少し不安になったが、日も長くなってきてるし、明るいうちに下山できるはずと信じて下りた。

帰りはやっぱりペースは早く午後三時半に峠に着く。

流石に疲れ、太ももの骨もなぜか痛い。

足を上げるとかなり苦痛だが、歩くことには支障はない。

この時の痛みは今も直ったり再発したりが続くので、そういう意味でも俺にとって嫌な思い出が残る山となった。

まだ三時半。このペースなら十分四時すぎには着くだろうと思った。

しばらく下りていくと嫌な予感がしてきた。こんな急な道あっただろうか?

あったような気もするし違うような気もする。

しばらくあたりを見回し、少し歩いたが途方にくれた。

やばいなあ、でもなんとかなるはず。

そう思っているとなんと、人が向こうからやってきた。

その方向は俺が気づかなかった道だった。ほっと安心した。

その人はすたすた歩いてくると、俺に不意に尋ねた。

「今日はどこから?」

俺はまず答えて、次に「この道から登ってきたのですか?」と聞くと、「そうですよ」と言われた。

見た感じだとその人は俺よりも軽装備に見えた。というか、何も持ってないような記憶がある。

しかも俺を見てるようで違う所を見ている気がした。

俺は疑問に思ったことがあった。

「これから登るんですか?」と聞くと、また「そうですよ」と一言。

「これからだと日が暮れそうですけど」と、ちょっとおせっかいだが聞いてみると、

「そうですね。大丈夫です」とまた言った。

口数が少ない人だ、疲れてるのかな。

でも、俺が気にすることでもないし、道が判ったのだから、俺も遅くなる前に帰りたかった。

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別れを告げ、俺はその人が来た道を進んでいってみた。

だが、ほんの少し歩くと道らしきものはなくなった……

折れた木々。大きな岩や急斜面。

少し考えたが、ここはやはり行き止まりだと思わざるえなかった。

さっきの人はまだいるだろうか?

俺がまた間違えたのか、からかわれたのか、確かめるためにもう一度追いかけて聞こうと思い、さっきの道まで戻ってくる。

もういなかった。

俺は大きな声で呼んで見た。

返事はない。

どうしよう、さっきの人を急いで追いかけて登っていくか……?でも……

俺はまたその人がきた道に行ってみた。

いや、道?違う。ここはそもそも人が歩くような形跡がなにもない。ただ少し歩きやすかっただけ。

そしてその先はやはり行き止まり……

また来た道に戻る。

正直ギョっとした。さっきの人がまたいた。

ここにきて怖くなった。なんでまた普通にそこにいるんだろう。

「気になってまた下りてきたんです。判り難いかなと思って」とその人は言った。

俺が呼んだ声で下りてきたわけではないみたい。

そのひとは言った。「もしよかったら案内しましょうか」

少しとまどった。

でも今の俺はこの人を頼るほかない。ついていってみることにした。

やはりさっきの道なのだが、これがまた気づかなかった、細い岩と斜面のあいだに歩きやすい道が続いていた。

だが登山道といえるほどいい道じゃない。

そのひとは実にスタスタ歩くのだが、俺はおっかなびっくり歩いていた。

少し離れたが、その人は時折後ろを無言で振り返り、俺がついてくるのを確認しながら先に進んでいく。

本当にこの人についていくべきなのか。

そもそもこの人はこの時間帯に荷物もなく、なぜここにいたのだろう。地元の人なのだろうか?

幽霊にしてはあまりにも立体感がある。

でもだんだん下りているし、方角も間違いない。ついていくしかなかった。

その時の俺の心境はそれだけ。

危なっかしい道ともいえないようなよく判らない斜面を下りていくと、やっといい道が見えた。

本当に良かった。

思わず「本当にありがとうございます!」とその人に呼びかけた。

「ここからは判りますね。しっかりしていますし、大丈夫だと思います」というようなことを言って、また登っていってしまった。

「あなたは今からどこに?」と思わず聞いた。

「ヘイジのダンです」とまた一言言って、会釈して登っていった。

ヘイジの段は峠の分かれ道で、高ドッキョウとは反対の山。

俺なんかより全然道を知っているこの人なら大丈夫なんだろうなと思って、俺は下りていった。

やがて入り口の茶畑が見え、そこにちょうど農家の人がいた。

とりあえず挨拶をしたが、気になったのでさっきの人について聞いてみた。

「え?俺はここにずっといるけど、お兄さんしか見たことないよ……第一、今から登ったら、真っ暗になっちまうよなあ。荷物も持たずに登る人なんていままでも見たことないし、そんな人がいたら覚えているはずだよ」

と言っていた。

でも、確かにあの人はあそこにいて、迷いかけた俺に道を教えてくれたんだよ……

今でも不思議なこと。

あれから五年間たつけど、これより不思議なことはない。

あの人は誰だったのか。助けてくれたのは確かだ。きっとちゃんと生きている人のはず。丸い顔で口数がすくないけど優しい感じだった。五十代くらいの男性だった。

またいつか登りにいきたい。今度はヘイジの段というところにいってみたいと思う。

95 :本当にあった怖い名無し:2012/05/28(月) 21:51:58.23 ID:hYJcgiby0

(了)

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