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持ち帰ったのは誰か rw+4,784-0108

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十年ほど前のことだ。高校を卒業する直前で、進路はすでに決まり、進学でも浪人でもなく、ただ地元の工場に就職するだけの未来が待っていた。

教師も親も安心しきっていて、俺自身ももう何も選ばなくていい立場になっていた。だからなのか、授業は頭に入らず、毎日どうやって時間を潰すか、それだけを考えていた。

そんなある晩、シゲから電話がかかってきた。
「なあ、暇だろ。あの山の麓の廃寺、久しぶりに行かねえか」

何度か肝試し気分で行ったことのある場所だった。特別怖い思いをした記憶もない。ただ、夜に行くには少し気味が悪い、それだけの場所だ。俺は深く考えずに了承した。

集まったのは四人だった。シゲとその彼女のマキ、そしてマキの友人のエミ。エミとはその日が初対面だったが、妙に場に溶け込むのが早く、笑い方も距離感も自然で、初めて会った気がしなかった。

コンビニ袋をぶら下げ、夜道を歩く。くだらない話をしながら、笑い声を上げながら、何も考えずに進んでいく。今思えば、あのときだけは妙に幸福だった。このまま時間が止まればいいと、はっきり思った。

廃寺に近づいたあたりから、空気が変わった。風が止み、山の気配だけが濃くなる。瓦は欠け、本堂は傾き、暗闇の中で建物だけが浮き上がって見えた。

「何回来ても、嫌な場所だな」
シゲがそう言い、マキも無言で頷いた。
エミだけが、興味深そうに周囲を見回していた。

帰ろうとしたとき、エミが足を止めた。
「ねえ、前からあったっけ、あれ」

指差した先に、草に半分埋もれた石段があった。下へ続いている。今まで何度も来ているはずなのに、誰もそれを覚えていなかった。

マキは露骨に嫌がり、シゲも首を振った。だがエミは迷わなかった。
「ちょっと見るだけ」

止める間もなく、彼女は石段を下り始めた。気づけば俺も後を追っていた。理由は今でも分からない。ただ、置いていかれる気がした。

階段の先は、低い天井の地下室だった。湿った空気と、古い木の匂い。崩れかけた箱や紙の束が積まれている。その奥の壁に、仏壇のようなものが埋め込まれていた。扉には、色の褪せた札が何枚も貼られている。

嫌な感じがした。触れるべきじゃないと、はっきり思った。
だがエミは笑いながら札を引き裂き、扉を開けた。

中には、桐箱が一つあった。
エミは躊躇なく蓋を開けた。

丸い玉だった。手のひらに収まる大きさで、鈍い光を帯びている。見た瞬間、背中を何かが走った。吐き気と同時に、強烈な既視感が襲ってきた。初めて見るはずなのに、ずっと前から知っている気がした。

「きれい」
エミはそう言って、玉を抱えた。

それからのことは、断片的にしか覚えていない。地上に戻った記憶も曖昧だ。ただ、エミが玉を手放さなかったことだけは覚えている。

一週間後、シゲの家で集まったとき、エミは別人のようだった。化粧は濃く、声は張り、目だけが異様に冴えていた。俺とシゲは顔を見合わせたが、何も言えなかった。

エミは玉を取り出した。前よりも暗く、重たく見えた。それを見た瞬間、頭の奥が締め付けられ、視界が歪んだ。
エミだけが、陶酔したように玉を撫でていた。

「これ、持ってると落ち着くの」
そう言った声が、やけに耳に残った。

数日後、エミは姿を消した。連絡も取れなくなった。
夜、シゲの祖父から電話があり、俺たちはエミの家へ向かった。

部屋の中は静かだった。玄関を開けた瞬間、鼻を刺す匂いがした。奥の部屋で、エミは血にまみれて立っていた。刃物を握り、虚ろな目で何かを呟いていた。

「あたしには、何もない」

それだけを繰り返しながら、彼女は自分を傷つけ続けた。止めるという感覚がなかった。ただ、見ていた。

その後のことは、断片的だ。エミは助からなかった。

玉は、見つからなかった。
警察も、医者も、誰もその存在に触れなかった。俺とシゲも、何も言わなかった。

それから十年経った今でも、夜になると時々、あの重さを思い出す。手のひらに何もないのに、何かを握っている感覚が残る。

夢を見る。
地下の階段を下りる夢だ。
最後に、玉が俺を見上げている。

目を覚ますと、枕元に見覚えのない丸い影がある気がして、しばらく動けなくなる。

(了)

[出典:29 :本当にあった怖い名無し:2012/05/01(火) 08:14:57.17 ID:YSGKGk/pO]

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