短編 怪談

六体の地厄(じんやく)【ゆっくり朗読】5615-0101

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1986年(昭和61年)。俺がまだ小学三年生だった頃の話を聞いてくれ。

俺が住んでる村に、ミキちゃんっていう同い年の女の子が引っ越してきたんだ。

凄く明るくて元気一杯な女の子だった。

んで、このミキちゃんは霊感が強いとかのレベルではないくらいに霊力とも言うべきものを持ってたんだ。

正直、ここまで書いただけで近隣に住んでいた人なら「知ってる!」っていうくらい地元では有名な子だったよ。

俺、同じクラスだったんだけど、小学三年生だとそんな話ウソって思うわけで俺ももちろん信じてなかった。

で、ミキちゃんが「じゃあみせてあげるよ」って事になって好奇心旺盛な男子がミキちゃんの後をついて行った。

その時俺は怖くて付いていけなかった。

次の日、俺のクラスは大騒ぎ。

ミキちゃんは一旦家に帰ってポラロイドカメラを持ってきて三枚の写真を撮ったそうだ。

その全てに思いっきり鮮明に霊が写っていた。

今でも鮮明に覚えている。

・一枚目:木の横でうなだれてる中年の男性
・二枚目:顔がグニャグニャに見える甲冑姿の人
・三枚目:叫んでいるような顔が画面一杯に写ってる奴

さすがにこれを見せられては信じるしかない。

この一件で男子からは大人気、女子からは怖がられる存在になってしまったんだ。

もちろん男子の中にも怖がって近寄らない奴も相当数いたけどね……

でも、ミキちゃんはそんなこと全く気にする様子もなく、本当に元気でよく笑う女の子だった。

正直、俺もミキちゃんの事が好きになっていた。

このミキちゃん、村はずれの一軒家に住んでたんだけど半径100mは一軒も家が建ってないような場所で、だいぶ打ち解けた男子が「何でこんな場所に家建てたの?」って聞いたのよ。

ミキちゃんは、「お母さんがここに住まないと悪いことが起こるから」と答えた。

どうやらミキちゃんのお母さんも凄い力ももっているようだった。

その頃、おれんち借家だったんだけど家を建てる計画が出てて土地を探してたのよ。

で、小学生の俺はミキちゃん家の近くに住みたいとか思っちゃった訳で、村はずれに空き地あるよ!とか母に助言してミキちゃん家の近くに家を建てさせようとしたんだ。

それで母がその土地を調べてくれたんだけど、不思議な事にミキちゃん家の周辺は全て県が保有する土地だったそうだ。

んで、県に問い合わせてみたらあの土地を売る気は無いと断られたそうだ。

県の保有する土地にミキちゃん家のみ一軒。

あの頃はダメなんだ位にしか思わなかったが、今考えるとおかしな話だ。

この一軒を翌日ミキちゃんに話したら、笑いながら「それはそうだろうね、ダメだよ!あそこに住もうとか考えたら」って言われた。

正直、聞くまでも無く何かしらあるんだろうとは思っていたけど、こんな事になるとは夢にも思わなかった……

ミキちゃんの事が好きな男子が皆でミキちゃん家に遊びに行きたいと申し出たのだ。

ミキちゃんは普段見せたことの無いような顔で「危ないから絶対ダメ!」と断った。

しかし、どうしても行きたい俺たち男子は勝手にミキちゃん家に隠れて行っちゃおうということになり、学校帰りに皆で向かったんだ。

最初に驚いたのはミキちゃん家を中心に大きくトゲトゲのついた金網がはりめぐされ、ミキちゃん家へ向かう道以外に進入経路が絶たれていたことだ。

ミキちゃんに隠れて家に行くのが目的だった俺たちは、道以外の場所から入ろうと言う事になり、金網をよじ登ってミキちゃん家の裏側に回りこむようにミキちゃん家に向かった。

地面は土に小石が沢山混ざったような感じで草一本生えてなかったのが印象に残ってる。

多分丁度金網とミキちゃん家の真ん中位まで歩いた時、一緒に来た男子の一人が悲鳴を上げながら走り出した。

それにつられる様に俺も含め全員その男子の後を追う。

金網を傷だらけになりながら登って学校まで逃げた。

最初に逃げ出した男子にどうしたのか聞くと、黒い霧みたいなものが俺たちを包み込もうとしてたらしい。

結局その霧をみたのは一人だけだったが、その男子は俺たちの中では一番頭が良くウソを言うような奴じゃなかった。

まぁ、それ以前にミキちゃんに危ないと言われていたので疑う理由も無いわけだが……

次の日、学校でミキちゃんに話そうとしたんだけど、俺らが話す前に凄い剣幕でミキちゃんが怒り出した。

「なにしてるのよ!!!」

初めて見るミキちゃんの怒り顔だった。

その後ミキちゃんに言われるがまま授業を受けずミキちゃん家方面に引っ張っていかれた。

金網のより200m位手前で立ち止まり、ここで待つように言われる。

一時間半位待ったと思う。一人の女性が俺たちの前に来た。

ミキちゃんのお母さんだ。

俺たちを見るなり「本当にごめんなさいね。大丈夫だからね」と、正直凄く不安になるような事を言い出した。

そのままミキちゃんのお母さんとミキちゃん家へと向かう。

家の壁には御札みたいな楕円形の紙が沢山貼ってあった。

家に入ると白い衣装を着たミキちゃんが正座していた。

ミキちゃんのお母さんは家に着くなりミキちゃんに向かって、思いっきりビンタをして「あんた!何したかわかってるの?!」と怒声をあげた。

ミキちゃんは鼻血を出しながらお母さんに「ゴメンナサイ。ゴメンナサイ」と、泣きながら謝っている。

「私じゃなくてこの子達に謝りなさい!」とミキちゃんのお母さんが言って、俺たちに何度もミキちゃんが「ごめんね。ごめんね」と繰り返した。

幼心ながら状況解らないし、悪いのは俺たちだし、大好きなミキちゃんが鼻血を出しながら謝ってるのに耐え切れず、皆大声を出して泣いてしまった。

ミキちゃんのお母さんは何処かに電話を入れる。

俺たちには聞こえない位置だったので何を話しているのかまでは解らない。

その後、俺たち全員の家と学校へ電話を入れて、俺たち全員の母親と兄弟のいる人はその兄弟も呼ばれた。

一時間位で全員が揃った。

どうやら県庁からも連絡が行った事を後から知る。

その後もう一時間位経った頃、ミキちゃんと同じような服を来た二十歳手前に見える女の人が到着する。

その女の人が俺たちを見るなり「だいぶ持っていかれてますね……急ぎましょう」と言った。

もう、何がなんだかわからず泣くしかなかった。

俺の母親も泣いてるし怖くて仕方なかったのを覚えてる。

多分お祓いだったんだと思うけど、TVで見るようなお祓いとは全く違っていた。

一言も喋らないし、正座したまま目を瞑って動かない。

ただ、その間俺は意識が朦朧として耳の奥というか頭の中心からうなり声みたいな声が聞こえていた。

やがて、そのうなり声がだんだんと大きくなっていき、最終的には聞こえなくなった。

時間にして十分位だと思う。ミキちゃんのお母さんに

「とりあえずこれで大丈夫ですが、お母さま方は残って下さい」

と言われ、俺たちは午後からの授業を受けにミキちゃんと学校へ戻った。

先生には事情が伝わっていたらしく「大変だったな」と慰められたのを覚えてる。

その次の日からミキちゃんは人が変わってしまったかのように暗く無口になってしまった……

俺たちが話しかけても無視され、笑顔を見ることは一切なかった……

そして三ヵ月後、先生からミキちゃんが転校した事を告げられる。

俺たちは、自分がミキちゃんをあんな風にしてしまったとずっと後悔の日々だった。

……小学校三年生編は以上です。

実は昨日ミキちゃんに久しぶりに会いました。

俺の母とミキちゃんが住んでた家に行ったんです。

母の話だと2011年の4月~5月の間にもう一度集まるように言われていたそうです。

そこで色々な謎が解けました。

……ところで、楕円形の御札とか正座で尚且つ無言で行うお祓いについて知っているかたいませんかね?

ホントすみません。文章書きなれてなくて、文字打つのも遅いし一気に全部書いたら何時間もかかってしまいそうだったので、かなり端折って書いてしまいました。

三年生の出来事だけでも自分の中では本当に怖い出来事だったのでこれでいいかなと……

むしろ昨日久しぶりにミキちゃんに会って話したことで、大分今までの恐怖心が和らいだので、後日談を書かないほうが怖いかなと思いました。

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後日談と補足

2010年の秋だったと思う。母から電話があり、4月4日実家に来いとの事。

5日は会社休みをもらうように言われた。詳細は全く聞かされなかった。

4月4日
仕事終了後、2時間半かけて実家に帰宅。
豪華な夕飯を出されたが何故帰って来いと言ったのかは教えてくれなかった。

4月5日
朝4時半にたたき起こされる。

出かけるから着替えろとの事。

実は帰宅した際に駅で小学三年の時の友人と会っていたので何となく予想はしていたが確信に変わる。

向かった先はやはりミキちゃん家。しかし現地に到着してびっくりした。

金網だった場所は高さ3m以上はあろうかというねずみ返しが付いた塀になっており、その上にはトゲトゲのついた鉄線が貼ってあった。

刑務所の壁にみたいな構造だ。

嘘か本当か高電圧注意の看板まで付いてる。

ちなみにあの事件以来、この場所に近づくことは禁止されていた。

禁止されてなくても近づかなかっただろうけど……

道沿いに歩くと鉄で出来た門があり入り口にリクルートスーツの男性が立っていた。

母が名前を名乗り、身分証明書を求められる。

本人確認が終わるとカギを開け「中にどうぞ」と案内された。

俺の予想ではこの塀の真ん中にミキちゃん家があるものだとばかり思っていたが、塀の中には全く何も無い。

例の土に小石が混ざったような地面があるだけだった。

そこに三人の女性が記憶にある白い服着て立っていた。

「山田君?」

俺の名前が呼ばれる。

一目見てわかった。ミキちゃんだ。

俺はどうしても謝りたくて真っ先にミキちゃんに向かって、泣きながら土下座した。

その後、十分もしないうちにあの時のメンバーが揃い。

やはり皆考えることは同じようで真っ先に謝りに行っていた。

土下座までしたのは俺だけだったけど……

なにより嬉しかったのはミキちゃんが昔のように明るくいてくれた事だった。

まず自己紹介がされた。

三人の女性は、お母さん、ミキちゃん、当時祓いをしてくれた女性の三人だった。

三人とも世間で言う氏名ではなく何か凄い長い名前……戒名みたいな名前で自己紹介してました。

呼ばれた理由はこの土地の開放と俺たちの守護霊の供養。

どういうことかというと、この塀で囲まれた場所には地厄(じんやく)と呼ばれる土地に巣食う者がいました。

自縛霊の上位版とでもいいましょうか、その場所に足を踏み入れた者に不幸というか、ぶっちゃけ死んだり、神隠しにあったりさせる凶悪な奴らしいです。

地厄を無に返すには半年近く地厄専門のお祓い師を置かなければいけないそうです。

今回は県からの依頼でお母さんがその役に選ばれたみたいです。

実際に地厄が無に帰るのは二十五年後。その間にまた犠牲者が出ると、そこからまた二十五年後になるそうです。

本来であれば人間の六感で無意識に近づかないようにするそうなんですが、意識してそこに行こうとする気持ちが強い場合それを跳ね除けてしまうそうです。

俺たちの場合は、多分全員ミキちゃんの事が好きだっただろうから、それで押しのけてしまったんだと思う。

ただ、黒い霧を見たというのは幻覚だったみたいです。

地厄は目を通して見ることが出来ないそうなので、六感か守護霊による警笛と恐怖心から来るものだそう。

事の発端はこの頃土地開発が進んでいて、その場所にも住宅街が出来る予定だった。

最初は平らな土地では無く起伏の激しい森林だったそうだ。

それを切り崩して土地をならして出来た場所だったんだけど、その作業中に行方不明者が二人出た。

よく見ると古墳のような人工的な出っ張りがあったんだけど、それも一緒にならしてしまったみたいでそれを村の役人が聞いて地厄の可能性を示唆、県が買い取りを決めお祓いを始めたそうです。

これが驚いたのですが、俺たちの守護霊というべき者は俺たちの代わりに地厄に持っていかれたそうです。

本来ならば俺たちが消されていた所を守護を変わりに捧げる形にしたのが、2011年当時のお祓いだったようです。

まず、土地の開放。

白衣装の三人が地面に座り足を広げ黙祷する。

そうすると表現しづらいんだけど空気が変わると言うか地厄が消滅していくのが何となくわかる。

次に守護の供養。

これは前に見た正座で黙祷の状態。

供養が終われば自然と新しい守護が生まれるそうです。(今まで守護霊無しでいたことが怖かった)

これで全て終了です。

後日談・六体の地厄

そもそも「地厄」とはなんなのか……そんなことからミキちゃんは語ってくれました。

・とても古い霊で、その全てが古墳等に奉られる地位の高かった人
・その土地を治めていた人で眠りを妨げられた事に怒り襲い掛かってくる
・霊力はとても強く、最上位に値する

これが地厄の正体だそうです。

そんな地厄が同時に六体もいたらどうなるのか?

……起きてはならないことが起きてしまいました。

2003年。ミキちゃんも自分の力で除霊が行えるようになったばかりの頃の話です。

ミキちゃんの元へお母さんから連絡が入り、集合がかけられたそうです。

とある片田舎、原因はやはり土地開発。山を切り崩しての大掛かりな工事。

そこには明らかに古墳であろうものが多数みつかった。

本当であれば直ぐに工事を中止し、国へ届け出るのが普通だそうですが、面倒くさかった現場長が、気が付かないふりをして工事を続行して平らにしてしまったのがいけなかった。

もしかしたら、古墳の下にお宝でも眠っていると思い、それを拝借しようとしたのかもしれないとの事。

結果は最悪な工事に関わった人の全滅。

これだけ数が多いと一人や二人の地厄払師様では手に負えない。

で、総勢九人が集められた。

今までも二体位の除霊はあったそうですが流石にこの数が同時に、しかも同じ土地に現れたことは前例が無いそうで、緊急招集がかけられたそうです。

普通であればその土地に家を建て、地厄祓師様が住み、除霊を行うのですが、数が数だけに家を建てる事が出来ないでいた。

そもそも一体の地厄に対抗するのに2~三人で対応するのに人数が足りないと途方に暮れたそうです……

で、出した結論が、周囲を壁で囲みその土地へ踏み入れる人が出ないように封鎖。

現在の地厄祓師様の数はわずか二十六人。既に他の場所で除霊をしている人を除くと十九人。全員集まってギリギリの対応、しかし、それでは他で何かあったときに対応出来ない。

壁の建設は直ぐに始まった。

範囲は一辺800mにもなる正方形を壁で囲む。

周辺住人にも上手く説明しなくてはならない。

幸いだったのは周辺に大きな住宅街等は無く年寄りの多い地域だったことだ。

しかし、問題はこれで終わらなかった。

翌日、近くの旅館に泊まっていた地厄祓師様二人が消息を経った。

慌てて例の土地を見に行く。

「持って行かれてる……」

全員一目見てわかったそうです。

いままで前例の無い事……

地厄支配下外への攻撃……

この時ほど怖かった事は無いとミキちゃんは言ってました。

しかもこの時持って行かれた二人は地厄払師様の中でも最も霊力の強かった二人。

完全に勝ち目が無いと痛感し、逃げるように非難したそうです。

現在、この場所は周囲を壁で囲み、近辺住人にはダムを作るという名目で強制退去。実際にダムになるかは判らないそうです。

そもそもダムを作る間に何人の犠牲者がでるかわからないと涙ながらに話してました。

六体いる地厄のうち少なくとも一体は歴史上名のある人だったか、そうでなくても相当位の高い人物だったのは間違いないそうです。

そうでなければ、あそこまでの霊力は手に入らないそうです。

最後に一言。

心当たりがあったとしても絶対興味本位で見に行ったりはしないでください。

日本でも最上位にあたる地厄祓師様達でも解決策の見出せない場所です。

(了)

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