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短編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

丸のついた子 rw+7,447

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あの朝のホームルームで、私ははじめて、自分の家の中身を人前に置いた。

小学校二年の冬だった。夜のあいだに家に誰かが入った。朝起きると、私の部屋の引き出しは全部引き出され、机の上のものは床に落ちていた。ランドセルの中身まで広げられていて、宿題のプリントが踏まれていた。

何が盗まれたのかは、よくわからなかった。ただ、触られた、という感じだけが残った。

その日と次の日、私は学校を休んだ。部屋に入れなかった。廊下から覗くだけで、胸が詰まった。

三日目、ようやく登校した。朝のホームルームで「今週のスピーチ」の順番が私だと知った。自分のことを話す時間だった。みんなの前に立って、最近あったことを話して、質問を受ける。

先生は出席簿を閉じて言った。「じゃあ、今日はあなたの日ね」

私は、泥棒の話はしないと決めていた。口に出したら、あの部屋がまた目の前に広がる気がしたからだ。だから、飼っている金魚の話をした。水を替えたら元気になった、というどうでもいい話を。

話し終わると、教室が少し静かになった。

先生が私を見ていた。

「どうして、おうちに泥棒が入った話をしないの」

耳が熱くなった。誰にも言っていなかった。休んだ理由も、ただ「家の都合」とだけ。

「その話をしなさい」

声はいつもと同じだった。怒ってもいない。ただ、決まっていることを確認するみたいな言い方だった。

私は、黒板の前に立ったまま、泥棒のことを話した。引き出しのこと。プリントが踏まれていたこと。触られた感じが残っていること。

言いながら、教室の机が気になった。みんなの机の引き出しは閉まっているのに、どれも少しだけずれているように見えた。誰かが、ほんの少し引いたあとみたいに。

話し終わると、クラスの何人かが口を開いた。

「言いたくないことを無理に言わせるのはよくないと思います」

「かわいそうです」

声は重なっていた。順番も決めていないのに、同時に。

先生はうなずいた。口元に笑みがあった。目は、私ではなく、教室の奥の壁を見ていた。

その日の帰り、机の中を片づけようとしたら、私の引き出しの奥に折りたたまれた紙があった。見覚えのない紙だった。開くと、私の家の間取りが描いてあった。子どもの描いたみたいな、ゆがんだ線で。

私の部屋だけ、何度もなぞられていた。

先生に言おうと顔を上げたとき、教卓の上に出席簿が開いたままになっているのが見えた。私の名前の横に、赤い丸がついていた。

欠席の印ではなかった。出席でもない、ただの丸。

その日から、ホームルームのスピーチはなくなった。

かわりに、朝になると、先生は出席簿を開いて、何も言わずに教室を見渡すだけになった。丸がついている子は、だんだん増えていった。

いま思い返しても、泥棒が何を盗んだのかはわからない。

ただ、あの朝、みんなの前で部屋の中を話したあとから、家に帰るたびに、自分の部屋の位置が少しずつ変わっている気がした。

廊下を曲がる回数が、毎日違う。

私の部屋は、いまも家のいちばん奥にあるはずだ。

あるはずなのに、たまに、学校の教室の匂いがする。

[出典:974 :本当にあった怖い名無し :2009/08/26(水) 18:59:21 ID:bh9Pf42Y0]

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