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中編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

擬態工作~背乗り(はいのり)n+【ゆっくり朗読】#0510-8113

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note:https://note.com/kowai_ohanasi/n/n65587f21215f

大学四年生の十一月、鯨岡の就職がようやく決まった。

212:本当にあった怖い名無し:2013/11/10(日) 01:10:38.11 ID:e4SlLL0S0

本人は小さな会社だと言っていたが、内定を貰えたことに変わりはないし、晴れて仲間内全員の進路が決まったことで、一月に旅に行く運びとなった。

旅の発案をしたのは鯨岡だった。

レンタカーを借りて、東京から日本海側を北上し青森を目指す計画だ。

当時運転免許を持っていた僕と宗像が交代で運転をする代わりに、鯨岡と安達と薗田がレンタカー代とガソリン代を払うということで話が折り合った。

僕をふくめて五人の旅だった。

僕たち五人は大学のサークルで知り合った仲だ。

僕と宗像は同じ学部で同じゼミを専攻していたが、鯨岡と安達と薗田は別の学部に通っていた。

旅の二週間程前に奇妙な出来事があった。

宿の手配や旅の詳細な計画がおおむね完了した矢先だった。

安達と全く連絡が取れなくなってしまったのだ。

電話をしても繋がらないし、家に行っても安達は留守だった。

安達と仲が良かった別の友人にも連絡をしてみたが、安達の所在は分からなかった。

出発の五日前、最後の打ち合わせをするために集合した。

依然として安達とは連絡が取れないままだった。

さらに鯨岡と薗田の様子がおかしかった。

打ち合わせの結果、三日前になっても安達と連絡が取れなかったら旅を中止することに決まった。

たしかに個人的にも、安達がいなければ旅をする意味が半減してしまう気はしていたし、何よりも心配だったので、このまま安達がこなければ中止という意見に反論はなかった。

しかし、鯨岡と薗田が異常なほどに旅は中止だ中止だと強く言っていたことが気がかりだった。

帰り道、僕は仲間内でも特に仲が良い宗像と個別に話をした。

無論安達の事と、打ち合わせの時の鯨岡と薗田の挙動についてだ。

僕も宗像も同じことを考えていた。

安達の身に何かあったのではないか……ということと、その事に鯨岡と薗田が何か絡んでいるのではないか、ということだった。

その日の内に僕と宗像は、安達の家に行くことにした。

相変わらず安達は家にいないようだった。

あきらめきれずに隣の部屋の住人に聞いてみると、安達のことは知らなかったが、大家さんの連絡先を教えてくれた。

早速電話し事情を話そうとしたが、大家さんからの一言に絶句した。

「安達さんという方は知りませんが、この家に住んでいた人は一ヶ月前に引っ越されましたよ」

住んでいた人の名前も確認したが安達ではなかった。

もちろん、鯨岡と薗田にはこの事は話さなかった。

出発の三日前が来た。

結局安達とは連絡が取れなかったので、予約した宿にキャンセルの電話をした。

三日前にキャンセルすること事態がもうし訳ない気持ちだったので、少しでも早いほうが良いのではと思い、朝一番で電話をしたのだ。

すると、泊まるはずだった三つの宿はすべてすでにキャンセルされていた。

詳しく話を聞くと、一週間前に安達と名乗る男からキャンセルの電話がきたとのことだった。

僕はそのキャンセルをした男は安達ではないと思った。

直感だが、鯨岡か薗田のどちらかだ。

……そう思った。

旅館の人には念のため、僕が今日電話をしたことは黙っておいて欲しいとお願いをしておいた。

その後すぐに宗像に連絡をし、きゅうきょ会うことにした。

合流してすぐに宗像は言った。

「このことは鯨岡と薗田には言わないほうが良い」

同意見だった。

「キャンセルの電話をこちらでするとカマをかけてみよう」

そう続けた。

鯨岡に電話をし、三日前になったからキャンセルの電話を入れる旨を伝えると案の定、

「キャンセルの電話は俺がする!」

と言ってきた。

僕は冷静をよそおいながら、三件あるから分担しようという案を出したが拒否をされた。

この日のやりとりで、鯨岡と薗田が安達の失踪に絡んでいることがほぼ間違いないと睨んだ。

僕は鯨岡と薗田に状況を話して問いただそうと言ったが、宗像はもう少しだけ時間が欲しいと言った。

どうやら個人的に鯨岡と薗田について調べるつもりらしい。

僕はあまり気が乗らなかったが、安達については本当に心配だったので、大学に理由を話して安達の実家の連絡先を聞くことにした。

冬季休暇中の大学は人が少なく、窓口にも誰一人並んでいなかった。

窓口の人に理由を話すと調べてくれたが、鯨岡も安達も薗田も僕が通う大学には在籍していなかった。

安達は先の件で偽名の可能性があったが、大家さんから聞いた名前でも在籍がなかった。

もう三人の名前が本名なのかさえ信用できなかった。

出発日だった日の前日に鯨岡から連絡が来た。

安達が戻ってきたと言うのだ。

その後、二週間振りに五人が揃った。

最初は鯨岡の家でと言われたが、そこには行ってはいけない気がした。

そのため、適当な理由をつけて街中のファミレスで落ち合うことにした。

ファミレスに現れた安達は安達ではなかった。

安達に似ているわけでもなく、完全に別人だった。

正直、僕は冷静を保ててはいなかっただろうし、鳥肌が引かなかった。

見た目は普通の人間だが、その顔からはおぞましさを感じた。

僕と宗像は安達じゃないと言い続けたが、鯨岡と薗田は安達だと言う。

その間、安達と名乗る別人は僕と宗像のことを交互に見続けた。

聞いてもいないのに失踪の経緯を説明し始め、安達は今日まで泊り込みでバイトをしていたと言う。

そして、そのバイトは期間中に外部と連絡を取ってはいけない仕事だったと話していた。

事前によく説明を聞いてなかったため、そのまま連絡が取れなかったというのが言い分だった。

さらに安達は続けて言った。

「明日からの旅行は行ける?」

安達の顔がさらにおぞましく見えた。

説明するように鯨岡が言った。

「実は宿はキャンセルしなかったんだ。だから旅は決行できる」

すでに宿がキャンセルされていることを知っているということは、バレていないようだった。

あるいは、バレていても良かったのかもしれない。

僕は混乱していた。

「三日前に旅は中止と決まっただろ。その際に、俺とこいつは別の予定を入れてしまったよ」

と宗像が言った。

散々引き止められ、断ることに時間を要した。

その間、今すぐにでも逃げ出したかったが、大学はおろか住所も知られているため穏便に進める必要があった。

宗像のおかげで俺も冷静を取り戻し、何とかその日は解散となった。

解散となったあと、僕と宗像は三人の後をつけた。

すると三人は一〇分ほど歩いたところにある駐車場に入っていった。

しばらく待つと、鯨岡が運転をする車が駐車場から出てきた。

鯨岡は免許も持っていたのだ。

その後すぐに引越しをした。

引越しをするまでの間も家には物を取りにいくための一回しか帰らなかった。

引越しに日に久々に家に戻ると、誰かが侵入した痕跡があった。

卒業まではほとんど大学に行く必要がなかったため、宗像以外に会うことはなかった。

鯨岡と安達と薗田とは連絡も取ることなく春になった。

……以上が体験した話です。

この話は一年前の出来事です。

一年後にわざわざ書いたことには理由があります。

この一年間も宗像とは定期的に連絡を取り、数回飲んだりしていました。

その宗像から昨日連絡があり夜に会ったのですが、その席で思いもよらない話が出てきました。

宗像が先日ふと思い、大家さんから聞いた安達が住んでいた家の名義の名前を検索したところ、その人は一年前に死亡していたそうです。

死亡していた人が、僕たちの知っている安達という人物である可能性は非常に高いと思います。

あの安達と名乗る別人の顔が浮かび頭から離れません……

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